第28話 感謝
「なんなんだ、これ!?」
暴風に吹き飛ばされながら、動揺する。僕と同じ方向に吹き飛ばされる巨漢とそ
の取り巻き立ち。
そして、急に現れた、銀色の鎧を纏った女。
「ぎゃぁぁぁ!」
「ごふぁっ!!」
「お前ら!! ぐあっ!?」
その女は、吹き荒れる暴風を支配するように、縦横無尽に飛び回る。
シノブという巨漢は、チームメイトの消滅に何も出来ないまま、次は自身へ降りか
かる攻撃に対応できずに、そのまま真下へ突き落とされた。
巨漢の腹には、一本の槍が刺さっていた。
「うわあ!」
術者は、その槍を引き抜きに行ったのか地上へ降下し、その拍子に暴風が止ん
だ。僕は、空中移動をコントロールできるわけもなく、そのまま落下していく。
この高さから落ちたら、衝撃は間違いなく致死量。雷魔法の鎧がそう判断すれ
ば、失格。
落ちる!
「少年!」
巨漢の声がしたと同時に、地面に敷かれた土色の柔らかいクッションのようなも
のが、僕の身体を受け止めた。
「あっ、ありがとうございます」
僕は、腹に槍が刺さったまま寝そべる巨漢に、感謝した。
「お前との勝負はいったんお預けだべ…、ぐぉぉぉぉぉ!!!」
街のアラートと同じくらいの音量を声に出し、彼は自分に突き刺さった槍を掴
み、自分の身体から引き抜いた。
「えっ…」
「なに引いてんだよ。オラの身体はこんな細いやりなんかに貫かれても効かね
え!」
自分を刺していた槍を乱暴に投げ捨てる。どろどろと流れる血は、傷口を土魔法で
塞ぐと、ぴたりと止まった。
「最強の建築士の血を引いてるんだ。こんな欠陥、いくらでも塞いでやるべ!」
「すごい。でも、なんで僕のことを助け…あっ!」
槍が、勝手に吸い取られるように、持ち主の方へ帰っていった。
「無防備な状態で私の槍を受けても死なないなんて。初めてだわ。さすがはタワ
ーの建築士の子供」
先ほど、僕たちに奇襲をかけた女は、どこか不満そうに彼を評価した。
「こんな紐みたいな槍、びくともしないべ! …うぐっ…」
巨漢は、塞いだはずの傷口に手を当て、痛みを感じた。
「無理はしない方がいい。素直にさらけ出しなさい」
女は、次は冷徹に言い放った。
持っている槍は、女を見下ろすように長く、巨漢にとっては細くても僕には充分太
く猛々しく見えた。
そして、支給された市長の雷魔法の鎧でも、痛みを感じるほどの威力。僕が喰らっ
ていたら完全に死亡だと判定されていた。
「でも、あなたの父親には感謝してる」
「なにっ?」
女は、うずくまって苦しむ巨漢を嘲るように笑い、言った。
「あんな脆いザル設備のおかげで、憎たらしいクリスタルは簡単に侵入を許してあ
っけなく壊されたんだから」
突然、強力な魔力の圧を感じた。
殺気とともに放たれたそれは、巨漢のものだった。
「おめえ、今なんつった…?」
「あなたの父親の脆い設備に感謝する、って言った」
「ぐぉぉぉぉぉ!! 許さん! お前だけは、許さん!!」
地面が、強引に裂かれるような地響き。彼の魔力は怒りによって膨大になった。
一方の女も、強い魔力を放ち、刃に風を纏わせた槍を構えた。
僕は。
「シノブさん!」
巨漢の横に並び、剣を構えた。
「少年…」
「さっき、落下を受け止めてくれた恩返しです!」
戦闘中に聞こえた彼の家庭事情。父親の設備が世間から糾弾され罵られた事実。
そして、それを嘲笑う目の前の女が、許せなかった。
「少年、名前は?」
「リンです!」
「リン…。よし、リン! 一緒に闘うぞ!」
「はい!」
手強い風魔導士、対おそろしく頑丈な土魔導士と未熟な僕の闘いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます