第27話 暴風

 「おーい、リン!」


 僕を呼ぶ声に振り向くと、観客席からリュウマ先輩の姿が見えた。


 「応援してるからなー! 優勝目指してがんばれー!」


 「ありがとうございます!」


 先輩が観に来てくれたことに気付き、とても嬉しい気持ちになった僕はさらに驚

く。


 「ほら、お前ら!」


 リュウマ先輩の他にも職場の先輩たちが僕を見守る。所長の姿も見えた。


 すると、彼らは大きな布のようなものを張り、それが文字であることが分かっ

た。


 『リンが勝つ!』


 旗には大きく黒い文字でそう書かれていた。いや、そう縫われていた。


 「徹夜して作ったんだから、優勝しろよー!」


 「一旗あげてこーい!」


 「俺らのリン!」


 他の先輩たちも声を張り上げて僕に声援を送ってくれた。


 「ありがとうございます! 勝って、胸張って帰ってきます!」


 徹夜してまで作ったという僕あてのメッセージに応えるために、僕はセカイさん

と一緒にパルスの中へ歩き出した。






 「リンっ!」


 「おらあっ!」


 大会は、想像を絶するほどに熾烈だった。


 パルスに入ると一変する景色。今回は、土魔法を巧みに操るプロの建築士たちが

作り上げたという廃墟フィールドが舞台だ。


 出場者一人一人のレベル、魔力、武器の扱い、戦闘技術、チーム力。魔物や特定

の人としか闘たことのない素人の僕でも、学生最強が集まっていることがすぐに分

かった。


 練習の成果あってか、何とかして八人組のチームを一つ、五人組のチームを二つ撃

退した。


 でも、上には上がいることを、僕たちはすぐに知らされることになる。


 「オラの親父はクリスタルのために建てられた新タワーを一年で建築したプロ建築団の一人だ。この防御は誰にも破らせねえ!」


 しばらくして、僕たちは、土属性魔法を使う巨漢と対峙した。


 巨漢を取り巻く四人の男たち。


 巨漢は、自分たちの真下から廃墟のビルを凌ぐほどの大きな塔を生成し、その頂

上から土属性による岩を落とし始めた。


 「オラは親父を越える建物を作る。そのために一見関係ない戦闘の経験から、

市民を守るための防御を鍛える。クリスタル破壊を簡単に許したポンコツ設備なんて、もう二度と言わせねえ!」


 百メートル程の高さからでも届く大声から、彼の強い意思が伝わった。


 誰もが単に最強になるために参加しているわけではない、と改めて気づいた。


 僕だって、認めてもらうんだ。


 退院したあの日から、帰ってこなかった彼女を取り戻すために、闘う。


 僕はレベル以上にやれるってことを、大好きな彼女に証明してみせる。


 「セカイさん!」


 「うん! 二人で駆け上がるわよ!」


 言葉の通り、塔を下から駆け上がる。


 上から降り注ぐ岩石を、それぞれの魔法を駆使して避ける。一つ、また一つと、

避けて、頂上にたどり着き、僕は一人に切りかかった。


 持って日の浅い真剣は、強敵との戦いを経て、次第に慣れた。


 「なっ!?」


 相手の棍棒を上に飛ばす。短時間微加速で予備動作を急に加速させたことで相手の

動揺を誘い、獲物を握る力をコントロールし、握りが緩い瞬間を一気に見極めて弾

く。


 「ぐはあ!」


 そして、その相手に斬撃を浴びせた。


 一方のセカイさんは、もう一人の背後に瞬間移動し、軽々と意表をついてから首

元をナイフで切り裂いた。


 残るは、巨漢を入れて三人。


 「うぉぉぉぉ!」


 巨漢は、その体躯に見合う巨大な魔力を身体から発した。


 「オラが纏めて、ぶっ飛ばず!」


「シノブ君、本気モードだ!」


「シノブって、忍びみたいな名前のくせにデブだなって言われたときに、耐え忍ぶ方

の意味のシノブだからってムキになって怒った日以来の迫力だ」


 「それは余計だ!」


 仲間に突っ込みを入れた直後、巨漢にしては素早いスピードで僕たちに急接近し

た。


 しかし、その時だった。


 この廃墟全てを崩壊させるほどの暴風が、頑丈な土魔法のタワーを根元から破壊

し僕らを吹き飛ばしたのは。


 「セカイさん!」


 こんな乱暴な魔力を巧みにコントロールしている術者は、僕とセカイさんを反対

方向に引き離した。




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