第四章 女の子と協力して学生大会を勝ち抜く

第26話 開会式

 「おわあ…」


 今日、僕たちは人、人、そしてまた人が、ぎっしりと詰まっている円に囲まれてい

た。


 まさか、ここまでの規模で開催されるとは思ってなかったから、僕は文字通り度

肝を抜かれた気分だった。


 ウィザーズセントラル学生大会。


 この国の中心となる大会。学生を始めとする若者たちの、優勝をかけたバトルロ

ワイアル。


 開会式が今行われており、僕らと同じ年代の若者たちもまた、ずらりと敷き詰め

られている。出場者だけで三百人はいるんじゃないか。


 「キョロキョロすんな」


 隣に立つセカイさんが、周りにせわしなく顔を動かした僕を注意する。


 「ああ、ごめんごめん…」


 「私だって興奮してんだから」


 戦闘に慣れている彼女は、僕と同様、どうやら大会には出場したことがないらし

く、これが初めてだという。


 すると、セカイさんの隣から声がした。


 「セカイっち、興奮してんの!? そこの少年に?」


 褐色の肌に赤い短髪の女の子が、セカイさんに慣れた口調で話しかける。


 「ちょっとアカネ!! 何言ってんのよ!?」


 セカイさんが、大声を上げて隣の女子を怒鳴る。


 「あら、恋人と学生大会だなんて素敵ですわ」


 赤髪の子の隣にいた金髪の美少女がクスクスと笑う。


 「ヒカリ! あんたも黙れ!」


 「せ、セカイさん…!」


 僕は、どうにかして彼女の怒声を沈めようとする。


 突然、場が無音になり、周囲の視線がこちらに集中していることに気付いたから

だ。


 「元気なのは分かるけど、もう少しだから、静かにしてくれないかな?」


 壇上で大会の概要を伝える会長が、困ったように僕たちを見た。


 「はい、すいません!」


 僕は、恥じらいながらも仲間の失態を謝る。


 「はーい、以後、気を付けまーす!」


 話しかけてきた赤髪の子、は不本意と建前を十分に含んだ謝罪をする。


 「ふんっ!」


 セカイさんは論外で、あからさまに嫌いな生き物『大人』に反抗的な態度をと

る。


 ようやく、本題に戻ることが出来た。みんなの視線は再び壇上へ向く。


 「良くも悪くも賑やかな連中ですわ」


 赤髪もセカイさんも大概だが、一番真っ黒なのはこのお嬢様だな、と苦笑しなが

ら僕も会長の話を傾聴した。


 「ルールは、各校で配布された募集要項に書いてたように、チーム戦で行います。

一チームに何人いようが構いません。武器も自由。銃器や爆弾を用いてももちろん

可。魔法も、禁止されたものはありません。基本的には禁止事項なしの大会になり

ます」


 会長がルールの確認を行う。


 僕が、一番驚いていた事項だ。


 「これは、正々堂々な戦闘の実力を測るものではありません。勝つ力をぶつけ合

うものです。チームの人数を拡大できるのも、銃器や爆弾を用意できる財力も、強力

な魔法を撃てるまでのレベルに達したことも、すべて個人の生まれ持った才能、培

った努力。これらの実力に誰も文句は言わせない。文句のある人間はいないよ

な!」


 「「「おおおー!!!」」」


 会長の、急な喝を合図に、主に男子たちの賛同の叫びが何重にも響いた。敵チー

ム同士で息がぴったりだったので、毎年恒例のやりとりなのかもしれない。


 「…うむ、ありがとう。しかしただ一つ、今回も出場者の諸君には防護魔法を全

身に纏ってもらいます。ウィザーズセントラル現市長監修、雷属性の防護魔法。痛み

や衝撃をほとんど削減し、さらに、命の危険を瞬時に察知し、それが致死量に近い

状態、または頭部などの急所に剣先や銃弾が直撃する直前に、強制的にステージ端

に張り巡らせた雷魔法のパルスから外に放り出される仕組み。つまり、まず死亡は

ありえない環境下で疑似的に死んだら即終了のバトルロワイアルになります」


 「わたくしのお父様の魔法ですから、百パーセント死にませんわ」


 お嬢様が、自慢気に微笑む。


 「では諸君、検討を祈る」


 会長は、前年度の優勝者の話などをした後に、壇上を降りた。






 「私たちに会うまで負けないでよ、セカイっち!」


 「健闘を祈りますわ」


 「はいはい、あんたら二人とも返り討ちにしてやるんだから、他人の心配してない

で存分に闘いなさい。優勝するのは、私とリンなんだから」


 三人の女の子たちの会話を見て、友達だけど、それでいていいライバル関係だなと

思う。


 僕だって、負けられないよな。


 「よお、なんか久しぶりだな」


 「カズキ君!」


 「リン、そうか、お前…」


 僕の手首を見て、彼がまるで自分のことのように喜ぶ。


 「早く俺に教えてくれたっていいのによお。同じチームとして闘えただろ?」


 「びっくりさせたくて。それに…」


 僕は、数秒溜めてから、旧知の友に言った。


 「カズキ君のライバルとして認められたいから」


 目の前の彼は、僕の言葉に面食らった。


 「僕を守ってくれたカズキ君に、僕はここまで強くなれたことを、『チーム』とし

て守るんじゃなくて、『対戦相手』として真剣にぶつかることで伝えたかったか

ら」


 「そうか…。分かった。手加減なしだ。むしろ、お互い全力で闘おうぜ!」


 カズキ君が、手を差し出す。


 昔、イジメられて、うずくまる僕を引き上げるために差し出してくれた彼の優しい

手は、今はライバルを認めるような強くたくましいグーに変わっていた。


 「うん! 僕が勝つ!」


 人生で初めてのグータッチをした。

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