第24話 レベル
指名手配犯・刹那トオルの身柄を拘束し、乗り込んだヘリ内。ヘリを見ると、昔、爆破させたことを思い出すのは毎度のことだ。
俺は、迷っている。
いったい何が正解なのか。弟に、あそこまで教え込んで、単に自分の首を絞めて
いるだけではないだろうか。
俺が旅立つとき、心配してくれたおばちゃんに、弟に渡すように頼んだナイフ。死
んだ父さんが、あの空間魔導士のおっさんからもらったというナイフ。
今日、弟の懐に、それがあった。
嬉しかった。弟は、それを使わずに、ここまで来ることが出来た。昔から喧嘩が
弱く悲観的で思い込みの強い弟で、心配してはいたものの、それはどうやら俺の過保
護だったらしい。
そうだ。
俺は、リンが魔導士である以前に人間として一人前になってくれればそれでいいん
だ。魔法が使えるのは、一般社会に順応するための手段だ。あいつが乗り越えきれ
ないような困難を破壊するのが俺の仕事なんだ。
かつての、魔法が使えなかった時代の自分と同じ目には絶対に遭わせたくない。
魔法が使えない身体を四六時中、研磨し鍛錬し、格闘技術をいくら習得しても、
人並みの努力しか積んでない、ただの一般人の火球・水流・雷撃・風の斬撃一発
で、その努力を簡単に否定された過去。
地元の人間から拡散され、クリスタルが存在していた時代に受けた言葉の暴力。
全く知らない人間たちから受けた、インターネット越しの中傷。
だから俺は…。
今の俺は、おそらく幸せだ。努力して魔法が使えるレベルに到達したら、そこか
らは大きな器から長い時間かけて一滴ずつ入れてきた水が溢れ出すように、人生が
うまくいった。
数多の人間を蹴落として手に入れた『特殊警備隊隊長』としての立場と、魔法が使
えないときに習得した戦闘力と思考力。そして、時魔法。
ついに俺は、最強と呼ばれるまでになった。
ただ、俺の過去は消えない。あの日受けた心の傷を、許せない。幸せで余裕のあ
る今だからこそ、その部分は顕著に表れる。時折、今まで俺をからかった人間を一
人一人見つけ出して、血反吐が出るくらいにボコボコにしてやりたい気分になる。
そんなことをしても、きっと虚しいだけなのに。そう思いながらも、心の中の傷
は一向に癒えなかった。
リンには、そんな人間になってほしくない。
どうか犯罪者に利用されないでほしいと、願った。
手を汚すのは、俺だけで充分だ。
レベル:46
属性:時
左腕の、肘のあたりに記されたステータス。
「あと少しで、俺は…」
時魔導士が覚える中では、最後から3番目の魔法なのに、世界の秩序を破壊でき
るほどの効力を持つ。
そういう魔法を、俺はあと少しで使えてしまう。
今まで意図して街周辺の魔物退治は他の人間に任せていたが、弟のために、いざとい
う時のために、これも習得してしまおうか。
作り物のように丸くきれいな満月を、見上げながら思った。
ウィザーズセントラルのスラム街。
私は、探していた。
逃走中の指名手配犯を。
今警報された空間魔導士ではない。むしろ、鉢合わせたら面倒になるから避けた
い。
陰気な感じが漂う中、街の失業者などが、欲望を前面に出し、私に舐めるような視
線を送りつける。視線を浴びることは慣れっこだから、私は特に気にしない。
ボロボロのテントの並びから、紫色の毒々しい色のそれを見つけると、その中にい
る人物を訪ねた。
お目当ての、人間だった。
その『男』は、私に驚き動揺しながらも、周りの人間のように私の外見に期待を膨
らませた。私の露出した肌をやはり舐めまわすように見つめる。
「初めまして」
声を受けた彼は、さらに緊張を増し、硬直していた。
そんな彼の頬をお構いなく人差し指で軽く突いて、言った。
「あなたの力を、貸してほしいの」
禿げあがった頭髪と病的な印象を受けるほどの痩身だが、過去の記録によれば、高レ
ベルの男。特殊警備隊に務めていた時代もあったが上司のパワハラと同期からのイ
ジメにより辞職したらしい。
盗み見た首元の刻印が、特殊警備隊に在籍できるほどのレベルを証明している。
リン君。ごめんね。
あなたをあてにした私が馬鹿だったわ。
大衆が注目する中、私は大胆にその禿げたガリガリの男を抱擁し、
濃厚なキスをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます