第21話 アラート
「今日は、セカイっちの彼、ベッドで寝てないの?」
「彼じゃないから」
女子寮の同室の生徒二人といつものガールズトーク。どうやら私が、リンを女子寮
の医務室に寝かせたことが噂になっているらしい。
「あの人は…」
男の子が大好きな女の医者を思い出す。
「ねえねえ、ぶっちゃけどうなん? 確かあいつ、この前学校に忍び込んだ草食
くんでしょ?」
武道の達人の父を持つ女子生徒、アカネは捌けた女で、学内の成績などお構いな
しに誰にでも人懐っこく堂々と、話しかけてくる。
「ダメですわよ。レディには秘密にしておきたい、いやらしい恋もあるんですか
ら」
ウィザーズセントラルの市長の娘で、雷属性による防御魔法に定評のある女子生
徒、ヒカリは、品行方正なお嬢様でありながらも、他人をからかうのが大好きだ。
「あんたら…」
私の浮ついた話はラブレターをもらったとか男子から告白されて振ったのがこれ
で何回目だとか、そう言ったつまらない内容だったから、今回は毎晩同じ男に会っ
ているということで、恋愛経験豊富な二人からは、ホムラのサブマシンガンのよう
な怒涛の質問攻めを喰らう羽目になった。
「じゃあ、二人が仲良くなったいきさつ、教えてよ~ん」
「アカネさんはホント野次馬根性というか、知りたがりですわね。で、どうなん
ですか、殿方とのいやらしい展開は?」
「ヒカリも気になってんじゃない!? てことで、近接戦闘を教えた師匠のアタ
イと、魔法のコントロールを教えてくれた先生のヒカリが聞きたいって言ってまー
す!」
「そうですわよ? わたくし達にもう少し見返りというものを下さらないかしら
~」
「ズルい! それを出すなー!」
「空間魔導士ってこともみんなにバラしちゃおうかな~」
「それはマジでやめろ」
叔父の家から抜け出して、アカネの家にお世話になって、アカネの知り合いだとい
うヒカリとも仲良くなって、そして二人の教えの元で私は空間魔導士としてここまで
来ることが出来たし、まあいいか。
私は、彼との出会いについて、『付き合ってください事件』の部分は割愛して二人
に語った。
「あの男嫌いのセカイが…」
「一人の殿方と長いお付き合いなんて…」
二人とも、まるで自分のことのように涙を流す。
「何泣いてんだ…」
「だってセカイっち! 男と一生仲良くならずに無色透明の人生を歩みそうだっ
たから心配で…!」
「なんだか泣けてきましたわ! セカイさんのご祝儀も用意しなきゃですわ!」
「あんたら…」
私は、いつものイジリのような、二人の余計なおせっかいに呆れながらも笑みが
こぼれる。
『成長してるのは、君だけじゃない』
『どうして、泣いてるの?』
『魔法は、使える!』
彼のことを語りながら、スライムから守ってくれた彼、涙が止まらない私の肩に
優しく手を置いてくれた彼、未熟ながらも強敵に立ち向かう彼の姿が映像としてし
っかり頭の中に残っていることに気付く。
「そっか、私」
「ん?」
「どうしましたの?」
「あいつのことが、好…」
耳をつんざくような鋭い轟音のようなブザー音が、部屋中に、いや街中に鳴り響い
た。
「!?」
「市の指名手配者発見アラートですわ!」
殺人などの大きな犯罪を犯し、逃亡した人物が発見されたときに流れる警報。ク
リスタルを破壊されてインターネットが繋がらない今では、テレビの速報のような
役割を果たす。
そして、機械的な要素の混じった無機質な女性の声が街中に情報を伝えた。
『たった今、ウィザーズセントラル北部の記念公園付近にてクリスタル破壊事件
の容疑者と思しき人物が逃走中。特殊警備隊員の雷魔法によるパルスで一時的にそ
の人物を閉じ込めたものの、それを透過し、回避した人物は、そのまま郊外へ北上
したという情報が流れてきました。全身を埋め尽くすほどのコートで、フードを目
深に被っているとの目撃情報も確認できております。特殊警備隊員の魔法によるパル
スを回避するほどの実力があり、危険性が十分にありますので一般市民の方は外出
を控えるようお願い申し上げます。この後も情報が入り次第お伝えします』
私たちは名門の士官学校の学生らしく、大人しくそれを最後まで聞いた。
沈黙を破ったのは、アカネだった。
「クリスタルをやった指名手配犯って…」
私の方に向けたそうにする彼女は、それでも友達想いに頭を下に向けてくれたま
まだった。
「私、ちょっと行ってくる!」
「ダメだって! 特殊警備隊員の魔法もすり抜けるんでしょ!」
アカネは、今度こそ私の顔を見て外出を静止した。
「外出禁止を促されるほど危険性があるとも言ってますわ! それに、彼を匿っ
たらあなたも同罪…」
二人は、私の前に立ちはだかった。
それでも。
「「あっ!」」
二人が、不意を突かれたことに気付いた時には、私は部屋の外に転移していた。
「『一般市民』は、でしょ? 私は特別な魔法使いだから!」
外からドア越しに、二人に言った。
「魔法も格闘もあんたたちにみっちり仕込まれてるんだから、ちゃんと帰って来
るって!」
二人からは返事がなかったが、そのまま例の場所へ短距離転移を駆使しながら廊
下を駆けた。
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