第16話 化け物
「ホムラさん!」
僕が魔物の頭部に放った一撃により、ホムラさんを縛り付けた蔓が緩んで、彼女
が落ちてくる。
先ほど宙ぶらりんになった僕は、今度は逆に、落ちてくる彼女を受け止めた。
「リン君…」
彼女はあの主から、随分と魔力を吸収されているようで、疲れ切っている様子
だ。まるで女優が芝居をするように目を細めて苦しむ顔も綺麗だ、と場違いにも思
ってしまう。さっきの蔓で、いつも以上に開いた胸元を、恥ずかしいのか隠しなが
ら素早く直す。場違いにも興奮してしまいそうになる。
「ホムラさん、僕…」
「うん、おめでとう」
僕の、手首に印字された刻印を指でそっと撫でる。
レベル:30
魔法:短時間微加速
「はぁっ…、ガキの分際で、ちょっと魔法が使えるようになったからって、調子
に乗るなよ…!」
ダンジョンの主は、頭部にクリーンヒットしたのに、意識があった。強力な魔物
だけに耐久力が優れているのか、ただ単に僕の振りが鈍く不安定だったのか、きっ
とその両方だ。
「ぎぃええええい!!!」
奇声を発しながら、何かを仕掛けてくる。
「俺様を怒らせたこと、後悔させてやる!!!」
ホムラさんから吸収した魔力を、存分に発揮してやると言わんばかりに奮い立つ
主。
今出ている蔓は五本。蔓の本数を増やしてくるだろうか。
それとも、室内に散らばった手下たちをさらに増やしてくるだろうか。
蔓一本の攻撃でも魔法を使って避けるのがやっとな僕と、魔力を吸われてきっと疲
れ切っているホムラさん、手下たちを牽制しているセカイさんで対応できるだろう
か。
しかし、そのどちらでもなく、主は今ある五本の蔓で僕たちに攻撃を仕掛けてき
た。
素人には分からないけど、きっと、吸収した魔力は今ある蔓に集中させて放ってい
る。僕はそう直感したし、心なしかそれらは先程よりも速く見えた。
「ヤバい、ホムラさん。僕が防いでみせ…」
「ふっ!」
いつの間にか、ホムラさんは僕の元を離れていて、先ほどの拘束で落としていたサブ
マシンガンを拾い、魔力の節約か、炎の弾丸を三発だけ、連射を器用に制限し、相
手の顔にそれらを命中させた。
五本の蔓は、僕の手前で止まり、やがて地面にへたり込んだ。
「遠距離が苦手だから、俺様はいつまでも難度Dなのか…! クソッ…クソ
ッ…!! ぐあっ、この化け物め…」
化け物は、ホムラさんを睨みつけながらそう吐き捨てて、やがて消滅した。
「誰が化け物よ。ていうか、ニヤニヤしながらレディのデリケートなところに触
ようとすんなっつの、この変態蔓不細工」
消滅した相手に向けて毒を吐き捨てるホムラさんは、どうやらマジギレだった。
僕も同居人という立場に甘んじて下手に変なことできないな。そんな度胸はないけ
ど。
「リン君っ! 危ない!」
僕ら魔法使いの召喚魔法とは違い、魔物の召喚は術者が消えても残るらしい。後ろ
から、植物の魔物が襲い掛かってきた。
驚いて魔法を使うタイミングを失った僕は、このまま攻撃を受けると覚悟した。
しかし。
その魔物の頭部に、深くナイフが刺さり、全身が粒子になって天に舞い上がり、
消滅した。
「あんた! 油断しすぎ!」
さっきの主と同じような指摘を、怒号に乗せたセカイさん。
「ご、っごめん! …ていうか、セカイさん…、魔物を…」
僕は、面食らったように彼女を見つめた。
「うん。やっと。今回だけかもしれないけど…、よかった」
彼女は、本当に嬉しそうな様子で、
「やったよセカイさん!! それに今回だけじゃないよきっと! 明日も明後日
も、明々後日だって、魔物を倒せ…」
飛び掛かる植物を、僕を連れてワープで避ける。
「だから油断すんなっつってんだろこのクソバカが!!!」
「ふひぃ!」
主より怖い顔で僕をディスった。
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