第13話 バカ

 「リンきゅ~ん、おかえりっ!」


 ピンクを基調とした布地にハート型の模様が散らばった可愛らしいエプロンを着

たホムラさんが、僕の帰りを出迎えてくれる。


 「あ、ただいまです、ホムラさん」


 かわいくて、活発で、強くて、そして優しいホムラさん。今日も僕は、彼女の優

美さに高揚してしまうはずなのに。


 「どうしたの?」


 今の僕は、誰から見ても、一目で分かってしまうくらいには苦悩の表情を顕著に

浮かべていたことだろう。


 「いいえ、何でもないです…。楽しみですね、ホムラさんの手料理」


 「話して」


 「えっ」


 「いいから」


 誤魔化そうとする僕に、不安を隠せないでいたのだろうか、彼女は見逃してくれ

なかった。


 「実は…」


 せっかくの、彼女の手料理を食べる楽しみを僕の悩みごときで台無しにしてしまったことが悔やまれる。


 逃げも隠れもできそうになかった僕は、とうとう他の女の子のことで悩んでしま

っていることを恐る恐る吐露した。


 今日、セカイさんに聞いたこと。彼女が、叔父から強制的にレベルアップさせら

れていた過去、それにより止まったままのレベルのこと。






 翌朝。


 「ねえ、あの女だれ?」


 怒る、というよりか本当に疑問を持っているように、セカイさんが僕に問うた。


 「いやあ、ちょっと、大人の力を借りようかなと、思って…」


 路地裏に急に引っ張り出された僕は、恐る恐る、セカイさんに説明した。


 ここで、彼女は何かに気が付いたように血相を変えて、捲し立てるように僕に尋ね

た。


 「あんた、まさか…!」


 「い、いい、いっ、言ってないよ!? ただ、最近できた知り合いが、未成年で

依頼を受けられないかも、って言っただけで」


 他人の、痛々しい過去を、無責任に話してしまった、なんて口が裂けても言えな

い。


 「そう」


 彼女は、安堵した。


 「じゃああの人は、単なる協力者ってわけか。大人だけど、あんたの知り合いな

ら、なんとなく信用できるわ」


 「うん、そうそう。ホムラさん、めちゃくちゃ良い人なんだ!」


 僕もまた、ホッとしながら彼女の紹介をする。


 しかし、彼女は再び何かを焦っている様子で、


 「あの人、あんたと付き合ってんの?」


 と、僕に問うた。


 「きゅっ、急に何を!?」


 僕は、思わぬ問いに、動揺を隠せなかった。


 「だって、急にあんな美人連れてこられたら。しかも年上の」


 それもそうか、と思い直して、彼女に説明する。


 「えっ、と、それは…。まだなんだ」


 「まだ?」


 「まだ、付き合ってないけど、僕がレベルを50まで上げたら付き合ってくれるん

だ! だから、好き…な人のために、頑張ろうと思って」


 「そう、なんだ…。早く到達するといいね」


 「うん!」


 応援の言葉が、素直にうれしかった。


 しかしセカイさんは、心なしか落胆しているようにも見えた。緊張した後にホッ

としたからかな。


 「二人とも、何話してたの?」


 「ああ、ホムラさんの魅力を…」


 「へえ~、私のこと褒めてくれたんだ~」


 「ええ、まあ、えっへへへ…」


 ホムラさんの元に戻り、ダンジョンの方角へ歩き始めた。


 「バカ…」


 セカイさんが、僕に何かを吐き捨てるように言ったような…、気のせいか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る