第11話 間抜け

 「ていうか、君は容疑者の娘としてイジメられなかったの?」


随分歩いた知らない場所から、とりあえず各々の帰る場所に歩き始める際に、僕は聞いた。自分のことを話さないで、他人のことばっかり聞くのは最低だと思ったが、なんとなく彼女のことを知りたかった。きっと、お互いに希少な属性という共通点がそうさせているのかもしれない。


 「それは大丈夫。風魔法による高速移動だって言ったらみんな信じてくれた。そ

れに、父は四年前に失踪してたから、あのゴミクズ…いや、私が小さいころに亡くな

った母の、弟に育てられたし」


 「苗字もそれで変わった、ってことか」


 「そう。今の苗字は風間。風間セカイ」


 「苗字が苗字だから、風魔法で信じてくれそうだね」


 「そう」


 それっきり、彼女も僕も、何も喋らなかった。


 「あんたは、こっち?」


 「いや、こっち」


 「じゃあ、ここでお別れか」


 僕もよく知っている大きな通り。正面に見える、二手に分かれる道で彼女は言っ

た。


 そして、次に放った一言が、またしても僕を驚かせた。


 「じゃあね、時魔導士の人。またどっかで会おう」


 「えっ!?」


 「だって、ここ」


 僕に何かを示すように、自分の左手首を右の人差し指でトントンと突く。


 「あっ!!」


 どうやら、僕が彼女の手を引いた時に、時魔法使いだということを確認していたみ

たいだ。


 「あんた、やっぱり鈍いのね」


 「やっぱり!?」


 呆気にとられた僕を、彼女はゲラゲラと笑った。


 「なんかホケーっとしてて間抜けそうだし」


 「う、うるさい…!」


 僕は生まれて初めて、女の子に怒鳴った。






 「もう! 心配したんだよ!」


 マンションの玄関を開けると、一つのドアが素早く大きく開き、薄桃色の髪をし

たキレイな女性に抱きつかれた。


 「ほ、ホムラさんっ!?」


 「今日はすぐに帰って来るって言ったじゃん!」


 「ちょっ、ホムラさん、苦しい!」


 「いいもん! 壊れるくらいに抱きしめてあげる! このおバカさん!」


 柔らかいが、戦闘力の高い彼女の身体に締め付けられると、やっぱり痛い。


 痛い意外にも問題があって、それは僕より少し高い身長の彼女の胸が、僕の首元

に当たっている。心配している彼女の気持ちを無視するように、ズボンのある一点を

少しずつ前に膨らませる僕は、わざとではないが、やっぱりおバカさんなのだろう。


 嬉しかった。


 こんなきれいで優しい人に、僕は心配されている。


 「ありがとう、ホムラさん」


 「…うん。おかえり」


 「心配されないくらいに強くなるから、もう少し待ってて」


 「うん、早くレベルをあげて、付き合おうね。ずっと一緒にいようね」


 次は、僕のことを優しく抱きしめた。


 そして、僕の耳元で優しく囁く。


 「付き合ったら、毎日いっぱい、イイコトしようね」


 「は、はひゃあ!? はい…!!」


 さすがは炎魔法の使い手。


 僕の身体は、あっという間に火照った。



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