第8話 急に
カズキ君が、無事でよかった。
クリスタルの破壊で連絡が取れなかった彼に再開したことで、僕のそもそもの目
的は達成した。後は、レベルを上げてホムラさんとずっと一緒にいれるように頑張ろ
う。
彼と、しばらく話し込んでから帰った。彼は今、学校で頑張っていること、模擬
戦闘の月間勝率が学年八位だったこと。レベルを上げたり勉強しても敵わない相手が
いること、その人を見て打ちひしがれるよりもむしろ超えてやろうと意気込むとこ
ろ。それらすべてが彼らしく、命の無事以外にも昔と変わっていない彼らしさに安心
した。
「そろそろ戻らないと」
せっかくだからゆっくりして帰ってこい、と僕の長居を許してくれた先輩に甘えす
ぎた。下校の時刻まで長居しすぎた後ろめたさが帰還を急かす。
しかし、帰りはとても気分がよかった。今までかかっていた靄が一気に振り払わ
れて、澄んだ空気を吸い込んでいるような清々しい気持ちだった。
なのに。
「もう帰るんだぁ~。この弱虫」
また、毒霧のような声を出して、いじめっ子の彼は僕を呼び止めた。
「…」
「相変わらず俺には冷てえじゃねえか。いや、俺が怖いだけか。お前、変わってな
いな」
変わってないのは君もだろ、と胸中で毒づく。
「どうせ、カズキみたいに強い奴がいないと何もできない甘ちゃんなんだよ。お
前のお兄さんはウィザーズセントラルの特殊警備隊なのに、弟のお前は何もできな
いお荷物だな。お荷物のくせに運び屋やってんのかよ。っははははは!!」
「黙れ!!」
僕は怒鳴った。
「なんだよ、その態度?」
いじめっ子は僕を侮るように威嚇する。
「…ああそうだったな。お前、昔からお兄さんと比較されるの嫌だったもんな。
でもさ、出来が違うもん。地位もそうだけど、あの人は時魔法が使える前から自分の
身体で魔物と闘ってたし。対してお前はどうだよ? 勇気を出して闘えないビビり…」
「黙れって言ってるだろ!!」
図星だった。声を上げずにはいられなかった。
「生意気だな。お前、俺が有名士官学校の生徒だからって手を上げないとでも思っ
たか?」
彼は、僕の態度が気に食わない様子で、逆上した。
「俺が稽古つけてやるよ。昔みたいに、小便垂らして無様な姿晒せや!」
突然、彼は下げていた木剣を取り出し、水色の魔力を付与した。
彼の属性は水。水圧をコントロールして鋭い斬撃や重い打撃を加えるなど、変形に
特化した属性。
「俺のレベルは23だ! 殺さないように手加減してやるよ!」
そのセリフを皮切りに、厚みのある水剣を構えながら僕の元へ走り出す。
僕もすかさず、木剣を構えるが、この魔力、水圧を完全に凌ぐほどの防御はなかっ
た。
だから僕は、昔みたいにまた彼の攻撃を身体に打ち込まれながら、敗北の事実を
突きつけられるのだろう。
一気に間合いを詰めて、剣を振りかぶる水魔導士。
負けることを確信した、その時。
「ぐはあっ!」
悲痛の声が聞こえた。
声を上げたのは僕じゃない。
いじめっ子の頬に、小さく白い拳が文字通り、めり込んでいた。
『少女』は、急に現れた。
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