第4話 ウィザーズセントラル

 「やっと着いたね~。ここまで長かったなあ~」


 間延びした声で、身体を棒のように伸ばすホムラさん。かわいい。


 「はい。長い道のりでした」


 僕もまた、長い距離を歩いて、道中のスライムと闘い、心身はくたびれていた。

レベル1なもんだから何体か倒しただけでレベル4になった。


 ウィザーズセントラル。


 この国では最も大規模な都市で、経済、政治、芸術、すべての最高峰が集結してい

ると言っても過言ではない場所。


 林立するビル群が、僕の町で見た時よりもまばゆい光を放っていた。


 ネオンと、炎魔法や雷魔法で輝く街並みに圧倒されながら、僕たちはホテルを探

した。


 「ホムラさん!? きゅっ、急になんですか!?」


 急に彼女が、僕の方に顔を近づけた。彼女のいい香りが僕の鼻腔を支配する。


 目を細めてニヤリと笑う。


 「また同じ部屋がいいなんて思ってるでしょ~?」


 「べべべ、別にそんなことは…!」


 顔がかあっと熱くなってきた。汗が出てくることにも恥じらいながら、僕は歪み

そうな口元を懸命に止める。


 「別に、あたしはいいんだけど。キスは、まだダメだよ」


 キス、の二文字を耳にするだけで、あの夜の光景、音、匂い、感触、そして味を

思い出す。変態か、僕は。


 「い、いいえ! 部屋は、二つ取りましょう!」


 僕は、変態な自分を否定したくて、きっぱりと言った。


 それに、一緒の部屋にいても、何もできないなんて、なぶり殺しにも程がある。

犯罪者になるのはごめんだ。


 「へえ、真面目ね、リン君は。かわいい」


 不意に、人差し指で僕の頬を突いた。


 「はひぃ!?」


 多分おそらく世界で最も気持ち悪い声が出てきた。


 「でもさ」と、ホムラさん。


 「お金、どうするの?」


 「あっ…」


 僕は、考えてなかった。決していやらしいことにしか焦点を当てていなかったので

はなく、戦闘や移動の疲れで、細かいことを考えるのが億劫になっていたからだ、

と自分の中で言い訳する。


 「きっ、きっと、安い宿が見つかりますよ! あっはは…」


 そこから小一時間、街を周ったが、どれも異常に高かった。


 六軒ほど周ったが、そのどれもが、先日泊まった宿屋の倍以上はする値段だっ

た。


 「そんなにお金を使ったら、帰りのご飯代が無くなってしまうじゃないか。もう

少し、おばちゃんに甘えるべきだったか。いや、いかんいかん。そんな考えは邪道

だ。第一僕はこういうことを後先考えられていなくてそんなんだから友達少ないし

女の子にもモテなくて…」


 「リン君?」


 「はっ…、はい!」


 「あたし、お金あるから。二部屋取ってあげるよ?」


 「ううぅ…」


 彼女からの申し出に、今すぐにでも縋り付きたかったが、女の人にお金を払わせ

るなんて情けないから、なかなか頷けないでいて、しばらく声になるかならないか

分からない音量で唸った。


 何か、いい方法がないか、と目まぐるしく辺りを見やると、一つの張り紙を発見

した。


 「…これだ!」


 「え?」


 僕の視線と同じ方向に視線を向けるホムラさん。彼女が意見を言う前に、僕は、

自分の意見を言った。


 「お金がないなら、稼げば良いんですよ!!」


 「稼ぐって…」


 否定されるかと思ったら、案の定だった。


 「そんなのしてたら、レベル上げ出来る時間、無くなっちゃうよ?」


 僕のために、心配してくれるのは嬉しかったが、僕は彼女に負担をかけさせるの

だけは嫌だった。


 「大丈夫です! そっちもちゃんと頑張るから!」


 「…分かった。あんまり無理しないでね?」


 「はい!」


 彼女は、納得いかない様子で数秒悩みながらも、折れてくれた。


 良かった。


 これでずっと、ホムラさんと一緒にいられる。お金不足で、離れるのだけは嫌

だ。


 それに、本来の旅の目的だって果たせる。


 『運び屋募集。主な届け先は以下の通り  ※ウィザーズセントラル郊外の食料

品工場~ウィザーズセントラル国立士官学校』


 仕事をしてお金を集めながら、カズキ君にだって会えるかも。


 「まあ、仕事をするのは良いことだから、もっといい男になってね」


 ホムラさんは、僕の指の隙間に、自分の指を絡めた。


 「ふひぃ!」


 再び、気持ち悪い声が出てきた。


 やっぱり一部屋のままで良かったような。


 ちょっぴり後悔した。



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