第2話【スーパーの2階】

いちばん古い夢です。3歳の頃の夢です。


やけに現実感のある夢でした。私は母と一緒に近所のスーパーに買い物へ行きました。

いつも母はスーパーに着くと、カートにカゴを乗せてから、私の手を取り「ここを持ってなさい。」とカートに捕まらせていました。迷子になると怖いからと言って。

その日の夢の中でも母は私の手を取っていました。


しばらく食品売り場で買い物をしていると、何やら違和感を感じました。違和感の正体を探るべく恐る恐る母の顔を見やると、母だと思っていた人は全くの別人でした。

人見知りが酷かったこともあり、また母から離れてしまったことの不安もあり、私は恐ろしくなってカートから手を離して走り出しました。一先ず母を探さなければいけないと、ただその一心でした。


ですが、幾ら食品売り場を回っても母は見つかりません。そのスーパーはそこまで広くなく、また大体1周すれば確実に出会えるはずなのに、母の姿はどこにもありませんでした。


もしかしたら私を探して2階に行っているのかもしれない。そう思った私は、いつもは1人で乗ることを禁止されているエスカレーターに迷わず飛び乗りました。何故かエスカレーターがひどく長く感じましたが、その時の自分は孤独感と不安感で胸がいっぱいでそれどころではありませんでした。大体半分ほど上がったところでしょうか。下から私の名前を呼ぶ母の声がしました。


「どこ行ってたん!アカンで、2階についたらそこで待っときや!お母さんが行くまで動いたらアカンで!!」


食品売り場にいなかったはずなのに…

そう思いながらも、やっとお母さんに会えると思った当時の私はそれだけで幾分か気持ちが楽になりました。

エスカレーターで2階にあがりきり、母の言う通りにその場で待とうとしていた時、何やら足音が聞こえました。


コツ、コツ、コツ、コツ、カッ、カッ

パンプスやヒールを履いたような音が聞こえたかと思うと、女性の集団が現れました。


彼女達は見た目も動きも皆同じで、黒髪のショートカットにスーツ、まるでOLのような服装をしていました。また、見た目は大人なのに、当時3歳の私と身長がほぼ同じでした。ですが頭身は大人のそれという奇妙なもの見た目をしていました。


彼女達は靴を鳴らしながら私の周りをぐるぐると回り、囲み、だんだんと円をすぼめるように近付いてきました。


「来た」

「来た」


口々にそう言ったかと思うと、彼女達はけたけたと笑い始めました。首をガクガクと前後に揺らしながら、でも目だけはしっかりと私を見据えていました。

私はこのままではいけないと逃げ出そうとしました、ですが、足を1歩後ろに動かした時に母の声がエスカレーターの方から聞こえました。


「アカンで!お母さんが行くまで待っときや!!」


逃げてしまえば怖くなくなるというのに、逃げてお母さんとまたはぐれてしまうということが怖かった私は、なかなか来ない母に苛立ちを覚えつつ、また奇妙な女達に恐怖しながらその場に立ち尽くしました。そんな私を嘲笑うかのように女達は話し始めました。


「来ない、来ない、お母さんは来ない」

「お前はこっち」

「一緒にいよう」

「エスカレーターに乗って来たのはお前だ」

「もう逃がさない」

「逃がさない」

「逃がさない」

「逃がさない」


そこでぶつんと、夢は終わっています。




現在私は20歳ですが、それでもまだこの夢を覚えています。個人的に霊感などはないとは思うのですが、当時そのスーパーの2階の天井が異様に気になって仕方がなかった記憶があります。

そのスーパーは、1階の天井はすごく綺麗なのに2階の天井はどこか暗く、汚く、何やら重い雰囲気を醸し出していたのです。親も「お前はいつも2階に行ったら天井を見てた。」と言う程です。

今は改装してしまい、何も感じることはありません。あの天井の違和感と大量の女は、なにか関係があったのでしょうか。

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