第17話
ジークさんとの出会いからさらに四年の月日が流れ私は十七歳になった。
前世の記憶だと私は悪役令嬢としてマリーナをいじめる年齢だ。
だが今の私はただの村娘。
公爵家とは関わりのないただの平民。関わることはまずない。
リンダさんのお店で働きつつ友達や家族とすごく日々は充実している。
変化があるとすれば最近よくリンダさんの息子であるアルトくんに声をかけられる事が増えたくらいだ。
昔に比べ一緒に遊びに行くことは減ったけれど時々一緒に少し遠くの街に行こうだとか、二人で森の中に散歩に行こうだとか誘ってくれる。
二人きりだと危ないからお父さんには必ず友達と数人で行くように言われているからなかなか行けないけれど。
たしかに街へ行くにも森に行くにも道中で獣に襲われたりすれば危ない。アルトくんは大丈夫だというけれど油断大敵だ、万が一もある。
お父さんにも自然の厳しさを侮ってはいけないと言われた。
「それでアルトはまたくだけ散ったのね」
アルトくんの誘いを断る理由をティファナに聞かれたので話すとそう言われた。
リンダさんのお店が休みのある日、私はティファナとルナと自分の部屋で女子会をしていた。
その中で出たアルトくんの話題。
質問に答えたらなぜか呆れた顔をされた。
「くだけ散った……?」
首をかしげるとティファナは隣にいたルナを見る。
「良かったわね、ルナ。スザンナはアルトのことなんとも思ってないって」
にまにましながらそう口にしたティファナにルナが顔を赤く染める。
「も、もうっ!ティファナちゃんからかうのは止めてくださいっ!」
恥じらうように俯いてしまったルナを見てぴんときた。
つまりルナはアルトくんに気があるのだ。確かめるようにティファナを見れば彼女は悪戯っぽく笑って頷く。ティファナはルナの気持ちに気付いていたのだろう。
「そっかそっか、ルナがアルトくんを……」
「スザンナちゃんまでっ!」
つい世話焼きおばさんのような口調になってしまった私を見てルナがぷくっと膨れる。
その姿は年相応に可愛らしかった。
「私のことよりティファナちゃんですよ。聞いてください、スザンナちゃん!ティファナちゃんてば街に恋人がいるんですよ!」
「ルナ!?何で知ってるの!?」
ルナの発言にティファナが顔を真っ赤にしてあわてふためく。
ルナに負けずティファナも可愛い。
詳しく話を聞いてみると街にお使いで出掛けた時に靴屋の青年といい感じになり、お付き合いすることになったのだとか。
「黙ってるつもりはなかったのよ!?ただ、話すタイミングが無かっただけなの!わ、私のことよりスザンナはどうなのよ?」
「え、私?」
友人二人が可愛くて撫で回したいと思っていると今度は私が聞かれる番だった。
ルナのように好きな人がいるわけでもないし、ティファナのように異性とお付き合いした経験等ない。
「うーん……今のところは恋愛とかいいかなぁ。リンダさんのお店で働いてこうして皆と話す時間もあって毎日楽しいし、恋人とか要らない」
「年頃の乙女がいう台詞じゃないわよそれ」
渋い顔をされてしまった。
「せめて理想のタイプとかないんですか?お付き合いするならこんな人がいいとか」
ルナに問われて唸りながらも考えてみる。
一瞬ジークさんを思い浮かべたがあれは兄として慕ってるに過ぎない。理想と言えば理想だがそれを言えばこの二人は嬉々として私をからかう気がした。
「お父さんみたいな人、かな」
かわりに呟いた私にティファナだけでなくルナまで渋い顔をした。
「スザンナちゃん、そろそろ親離れした方がいいかと……」
その時、急に外が騒がしくなった。
誰かが何か叫んだりバタバタと人が行き交う音や何か大きなものを運ぶような重い音がする。
「何かあったのかしら?見に行ってみましょ!」
部屋を出たティファナに続いて廊下の窓から外を伺ってみると大きな馬車が村の入り口に止まっているのが見えた。
それと村の男性達に囲まれながら誰かが地面に倒れているのも見える。怪我をしているのか人々の隙間から見えた足には血がついていた。
「怪我人かしら……私達も手伝いに行きましょ!」
ティファナの言葉に私達は家を出て馬車が止まっている場所へと向かう。
そこには既にお父さんがいた。
「お父さん!何があったの?」
声をかけると村の男性に何か指示を出していたお父さんはこちらを向いた。
「おぉ、スザンナか。ティファナにルナも。どうやら森を抜けようとした貴族の馬車が山賊に襲われたらしくてな、山賊は殲滅したんだが御者の男と中に乗っていた女二人が怪我をしたらしい。女の方は軽傷だったからリンダさんに任せてるが男の方が少し厄介でな……スザンナ、家から包帯と止血剤を持ってきてくれないか。それからティファナとルナはアルトを連れて街まで行って医者を呼んできてくれ。村の医者じゃ手に負えないからな」
お父さんの言葉に私達は顔を見合わせて二手に別れる。
私は家に戻ると棚から薬箱を取りだし必用なものを集め再びお父さんの元に戻った。
「お父さん、持ってきたわ!」
「あぁ、助かる」
包帯と止血剤を渡すとお父さんは負傷した男性の手当てを始めた。
男性の足や腕は刃物で切りつけられたのかスッパリと切れていて血が溢れだしている。
「スザンナ、ここは俺達がやるからお前はリンダさんを手伝ってやってくれ」
私が男性の傷を見て青ざめていることに気が付いたらしくお父さんはそう言ってくれた。小さく頷きその場を離れリンダさんのお店に向かう。
「リンダさん、お父さんから怪我人が運ばれたって聞いて来ました。お手伝いできることはありませんか?」
店に入るとリンダさんは薬箱を片付けているところだった。
「丁度いいところに来たわね。怪我の手当ては終わったけど、襲われたうち一人がどうもいいところのお嬢さんみたいで気が動転してさっきから泣き止まないの。落ち着く効果のあるハーブティーを用意するから彼女達を少し見ていてくれる?」
「わかりました」
そのまま店の奥にいるという女性達の元に向かう。
「失礼します。怪我の具合はいかがですか?今、店主がお茶を――」
女性達がいる場所に足を踏み入れながら発した言葉は途中で途切れる。
涙を流し震えるピンクブロンドの髪をした少女と黒いお仕着せを着て少女を慰める女性に見覚えがあったからだ。
怪我をして手当てを受けたという女性二人は乙女ゲームのヒロインマリーナとあの日私が家を出る手伝いをしてくれた侍女リエナだった。
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