第16話
それから数日過ぎてジークさんが村を出る日がやって来た。
人気者が居なくなるとあって村人のほとんどが見送りにやって来ていた。
年頃の女性達は少しでも自分を売り込もうと手作りしたお守りやマフラーなんかを渡そうとしていたが、日持ちする食料はともかく他は荷物になるからとジークさんにやんわり断られていた。
せっかく手作りしたのに可哀想な気もするが旅をするジークさんにとっては身軽な方が良いのだろう。
一人一人に挨拶を済ませたジークさんは最後に私達家族の所にやって来た。
「ウォルトさん、ソニアさんお世話になりました」
「また何かあったらいつでも来い」
「体に気を付けて、元気でね」
お父さんとソニアさんに頭を下げ握手を交わす。
ジークさんがやって来て半月もたたないのにこんなに寂しくなるのは私もどこかで彼を慕っていたのだろう。お父さんを取られたみたいで妬いた事もあったが「もし兄がいたらこんな風に頼りにするのかな?」と思うこともあった。
お父さん達と言葉を交わし終えたジークさんは私の前に立つ。
「ジークさん、体に気を付けて。またいつでも遊びに来てくださいね」
いろんな人に言われた言葉だろうけどそれ以外気の利いたことは言えそうになかった。
それどころ直前までそんな気配すら無かったのに寂しさが強く込み上げて視界が潤んでいく。
「スザンナが作ってくれた食事は美味しかった、また来たときに作ってくれるか?」
私が泣き出しそうなのを悟ったのだろう。ジークさんは大きな手でポンポンと頭撫でてくれる。
こくりと頷けばぽろっと一粒涙が落ちたけれどそれを袖でぐいっと拭いにっこり微笑んで見せる。
「次はもっと美味しいもの食べさせてあげますから期待しててください」
「あぁ、楽しみにしてる」
ジークさんは微笑みを返し村の人達に深々と頭を下げると歩いて行ってしまった。
私はその背中が見えなくなるまで見送りながらまた会えるますようにと小さく祈った。
ジークさんを見送った後、私は一度自分の家に戻った。
この後はまたいつものようにリンダさんのお店で働く事になっている。
その準備をしなければと自分の部屋に戻ると、部屋のドアの足元に小さな箱が置いてあるのに気がついた。
なんだろうと拾い上げてみると『スザンナへ ありがとう ジークより』と文字が書かれたカードがついていた。
箱を開けて驚いた。
中には木を削って作ったと思われる小さな薔薇の形のブローチが入っていた。
ジークさんがわざわざ私のために作ってくれたのだろうか、器用すぎる。だが素直に嬉しかった。
私が兄のようにジークさんを慕っていたようにジークさんも私を妹として、それでなくとも友人として大事に思ってくれていたのは充分に伝わった。
この日ジークさんにもらったブローチはお母様のペンダントと同じくらい大事な宝物になった。
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