第17話スギヤマ先生の対抗心
ふう。トリヤマ先生ったらあわただしく自分の職場に戻っていっちゃったな。では、俺は『ファイナルニャンタジー』を再開するか。これはあくまで敵の研究であって、俺が続きをしたくてしたくてたまらないわけではないんだからな。
それにしても、このサイドビュー戦闘。たくさんのイベントでキャラクターを立たせた味方のパーティーメンバーがモンスター娘に攻撃したり攻撃されたりしてる。これはこれで興奮するな。
味方が攻撃するときはその場からちょっと動いて武器を振り回しているだけだからともかく、相手のモンスター娘に魔法攻撃されて自キャラが燃やされたり凍らされたりしてる描写はグッとくるな。
俺の『ドラゴン娘クエスト』の戦闘はフロントビューだから、自キャラが攻撃されているシーンはグラフィックでは表現できずに効果音と画面の点滅ですませてたもんなあ。くそ。ひとの前例を研究し尽くして新しいパターンを作り出しやがって。このスクエーアって会社気に入らない。
ん? なんだ、『飛空船』だと。これは!!!
「おい、チュン。フィールドの上空をめちゃくちゃ速く移動しているぞ。こんなことがファミコンでできるのか!」
「ホリーさん、僕も驚いているんですよ。こんな高速でのスクロールがファミコンで表現できるなんて」
「しかも、モンスター娘とのエンカウントがない! これだとワールドマップの移動が実に爽快だ。空を飛んでいるというワクワク感がとんでもない。あれだけ凝ったサイドビューの戦闘をあえてなくすことでこんなに俺の胸をときめかせるとは」
「いやあ、この飛空船での移動はドキドキするね。なにせ、敵モンスター娘とのエンカウントがないからゲーム音楽がとぎれない。これは作曲家のわたしとしてはうならされるねえ」
そうか。たしかに戦闘に突入してバトルミュージックにならないから音楽がとぎれない。このこともワクワク感を高めているのか……
「わ! スギヤマ先生! どうしてここに?」
「もちろん『ファイナルニャンタジー』が発売されたからだよ。こんなものが発売されてしまったら、のほほんとプレイするだけじゃおさまらないよ。是が非でもこの『ファイナルニャンタジー』の上をいく作曲をしないとおさまらないよ」
なんだかトリヤマ先生と同じようなことを言っているな。
「いや、わたしはねホリー君には感謝しているんだよ。『ふっかつのじゅもんを入力するときの音楽にはこだわってほしい。プレイヤーが一文字一文字ひらがなを入力するんですから、そのときのバックミュージックは重要です』なんてホリー君の依頼はしごく当然だし。おかげでいいものができた。
そうなんだよなあ。スギヤマ先生ったら、『ドラゴン娘クエスト2』では、新人アイドルに曲まで出させてそのメロディーをふっかつのじゅもんを入力するときに流すんだもんな。大作曲家のスギヤマ先生はやることが違うというかなんというか。
「だからこそ、この飛空船でワールドマップを縦横無尽に飛び回る爽快感には負けられない。ホリー君もそうだろう。きっと、ホリー君の頭の中には飛空船に負けない空を飛ぶ乗り物のアイデアがあるんだろう? 遠慮なく言ってくれ。わたしはそれにぴったりの曲を作ってみせる。なにせ、モンスター娘とのエンカウントなしにわたしの音楽が流れるんだからな。これは気合が入るよ」
『飛空船に負けない空を飛ぶ乗り物のアイデア』だって、スギヤマ先生。
「そりゃあ、飛空船が空を飛んだ瞬間に『俺ならこうする』なんてアイデアは思いつきましたけど」
「やはりあるのか、ホリー君。ぜひ聞かせてくれたまえ」
「世界に散らばる七つのオーブを集めたら伝説の不死鳥がよみがえって、それに勇者パーティーが乗って世界を飛び回るというものなんですが」
「不死鳥! それはいい! 飛空船なんてメカメカしいものも悪くないが、『ドラゴン娘クエスト』のファンタジーな世界観には不死鳥の方が良く似合う。いいぞ。音楽のメロディーが頭の中からあふれてくる。ホリー君、不死鳥なんだろ。ということは大空を優雅にゆったりと飛ぶんだろ?」
「そうです。よくわかりましたね。飛空船なら高速でピューンと飛ぶのもいいでしょうが、不死鳥なら大空をエレガントにはばたいてもらいたいですからね」
「そうだろうとも。わたしの頭の中にさっきから流れっぱなしのメロディーもそんなエレガントで優雅なメロディーなんだよ。この飛行船で飛んでいるバックに流れている勇ましいメロディーとは全然違うんだ。やはりホリー君と仕事ができて良かった。では失礼して楽譜にこのメロディーを起こさせてもらうよ」
ふう、スギヤマ先生も出ていったな。おや、チュン。ホッとした表情をしているな。どうした、『あんな高速スクロールを俺のゲームでも実装しろ』とでも俺がいうとでも思ったのか。
安心しろ。そんなことをさせたら、RPG本家の『ドラゴン娘クエスト』が『ファイナルニャンタジー』のパクリ扱いされかねない。そうならないためにも、俺たちは大空を華麗に飛び回る不死鳥をゲームで表現するんだ。その名もラーミア!
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