第16話トリヤマ先生の対抗心
ううう。いかん。涙が止まらない。最初フィールドの放り出されてしまった時には何をすればいいのか見当もつかなかったが、まさか序盤の山場でこんなに感動的なシーンを持ってくるとは。
俺はまず王様の部屋に勇者を配置して、王様から勇者に冒険の目的を説明させた。そうでもしないとプレイヤーにはチンプンカンプンだと思ったからだ。そして、そのおかげで日本のプレイヤーに『RPGならまず最初に装備を揃えたり、町の住民に話しかけて回ったりしないとね』なんてお約束を植え付けた。
そんなお約束が出来上がったところで、自キャラをまずフィールドにほっぽり出す。そして、町の住民に話しかけたり装備をととのえたところで最初のダンジョンをクリアさせる。
そして初めて、冒険の目的を明示させて橋を渡ったところでこの感動的なプレリュード。
いかん。この展開は俺が日本でRPGのお約束を作り上げたからなんだぞ。俺の『ドラゴン娘クエスト』がなかったらこの『ファイナルニャンタジー』は生まれてすらいなかったんだ。それなのに、どうしてこんなに涙がちょちょぎれるんだ。
こんな、RPGでもなんでもないドット絵のキャラが好き勝手にメッセージウインドウでプレイヤーが意図していないセリフをしゃべりまくるゲームになんで俺は感動しているんだ。
「いやあ、まさかこんなゲームが出てくるとはねえ」
その通りです……おや、誰だ? チュンじゃないな。
「ト、トリヤマ先生! なんでここに?」
「なんでって。こんなゲームが出てきたんだから、ホリーさんとキャラクターデザインをさらに練り上げないわけにはいかないじゃないですか。この『ファイナルニャンタジー』のキャラクターデザイン。自分のとは全然違いますもん。僕にはこんなデザインは描けないなあ」
そうだよなあ。『ファイナルニャンタジー」のキャラクターデザイン……アマノって人が描いたのか。耽美というか。トリヤマ先生のキャラクターデザインをポップとするなら、このアマノのキャラクターデザインはアーティスティックって感じだな。
「ねえ、ホリーさん。『ドラゴン娘クエスト』のキャラクターデザインと『ファイナルニャンタジー』のキャラクターデザインどっちがいい?」
「そんなのトリヤマ先生のキャラクターデザインの方がいいに決まってるじゃないですか」
ここでアマノさんのキャラクターデザインの方がいいなんて言えるわけがない。
「そうですか。このアマノって人はですね、タツ◯コプロでプロの絵描きをしていたそうなんですよ。それがゲームや小説のキャラクターデザインをするようになったみたいです。なんだか自分と経歴が似てますね」
「はあ……」
「それで、ホリーさん。次回作では自分はどんなキャラクターデザインをすればいいんですか? 次回作ではホリーさんはどんなキャラクターを登場させるつもりなんですか?」
「それは……主人公の勇者が、戦士、武闘家、魔法使い、僧侶、商人、遊び人、賢者の職業の中からパーティーメンバーを三人選ぶゲームシステムにしようと思っていましたから。トリヤマ先生にはその職業のキャラクターデザインをまずお願いしようかと思っていたんですが……」
「そのキャラクターは男ですか、女ですか?」
「どちらでもプレイヤーが選べるようにしようと思っているんですが……だからトリヤマ先生には両方ともデザインしていただければと……」
「男も女もデザインするんですね。ということは、『肉弾戦をするはずなのに、なんでそんな露出度が高いビキニアーマーを着ているんだ』とつっこみたくなるようなデザインの女戦士を描いていいんですね」
「ぜ、ぜひお願いします、トリヤマ先生」
「いやあ、前からビキニアーマーの女戦士を描きたかったんですよね。でも、『ドラゴン娘クエスト』では男勇者だけ。『ドラゴン娘クエスト2』では女の子が味方パーティーにいても魔法使いポジション。自分は欲求不満だったんですよ」
「そうだったんですか」
「そうなんです。ハリウッド映画でビキニアーマーの女戦士が出てくるのを見て、自分でもビキニアーマーの女戦士を描いちゃったりしてたんですね。ほら、これです」
どこからともなくトリヤマ先生がキャラクターデザインを描いたスケッチブックを取り出したな。そこに描かれてるのはトリヤマ先生によるとビキニアーマーの女戦士……これは!
めちゃくちゃシコれる! ハリウッド映画のビキニアーマーの女戦士は俺も見たことあるけど、あれは主役のボディビルダーが相手をするからエロく見えるんだからな。やはり俺みたいな日本人がオカズにはしにくい。
しかし、このトリヤマ先生の女戦士は実にエロい。これこそ日本人の俺が求めていた女戦士のキャラクターデザインだ。
「どうですか、ホリーさん」
「最高です。トリヤマ先生。ほかの職業のキャラクターデザインもこんな感じでよろしくお願いします」
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