第10話ゲームミュージック

「しかし、ホリー君。感のいい人間なら、わたしがゲームの作曲をするつもりだって気づくかもしれないね。そうなれば、『スギヤマ先生エロゲ制作に参加?』なんてかきたてられちゃうね。いやあ、そうなるとホリー君は注目されちゃうよ」


「されますかねえ、スギヤマ先生」


「されるされる。手前みそだけど、わたしが作曲すれば売れるからね。そんなわたしに作曲される敏腕プロデューサーホリー! これじゃあ君もモンスター娘風俗を楽しめなくなるね。しょうがない。いっしょに作ったゲームでいっしょにオナニーしますか。若いもんには負けてられないからな」


 スギヤマ先生が俺のゲームに曲を提供してくれることはありがたいんだけれど……


「スギヤマ先生。その、ギャラの方は……とてもじゃないけれど、大先生に払える額は用意できないんですが……」


「歩合でいい。君のゲームが売れたら大もうけ。売れなかったらくたびれもうけってことでいい。そのパーセンテージも法外な要求はしないつもりだよ」


「その法外なんですがね。ゲームの作曲ってのが前例のないことでして。どれだけが法外でどれだけが常識的かも決まってない有様なんですね」


「ほほう。じゃあ、君の『ポートピアアドベンチャー』のあのピコピコ音は誰が作ったんだ」


「それは、そこでつったっているチュンが作ったものでして。ゲームの曲ってのはたいていそんなものだと思います。プロの作曲家が作ったゲームミュージックなんて聞いたことがありません」


「なるほど。あれはチュン君が作ったのか。しろうとにしては悪くない。だが、しろうとレベルだな」


 これは一応チュンがほめられているのかな。


「前例がないのならわたしが前例になろう。それで、ホリー君。どんなゲームを作るんだね」


「はあ、勇者がさらわれたお姫様を助けて、倒したドラゴン娘といやらしいことをするゲームを作るつもりですが……」


「なるほど、なら歩合は映画音楽の時と同じでいいかい。映画だと、戦闘シーンの音楽とか、濡れ場の音楽とか作るから似たようなものだと思うが」


「ですけど、ファミコンの音源なんてオーケストラを指揮するようなスギヤマ先生には満足できるしろものじゃないですよ。なにせ、この通りピコピコですから」


「心配ない。シンセサイザーと似たようなものだろう。最近若いのが妙なピコピコ音を出す楽器でなにやらわけのわからん音楽をやっとると思っとったら、あっというまにわたしですら『これは!』なんて思うものを作り出して来やがった。負けてられんとわたしも勉強し始めたところだ」


 へええ。スギヤマ先生も。トミタイサオやYMOにヒラサワシン、TMネットワークを意識してるんだ。てっきり『なんだ、あんなやかましいだけの騒音は』なんて文句言ってるのかって思ってた。


「で、勉強には実戦が一番いい。心配するな。わたしにもプロとしてのプライドがある。このスギヤマコ◯イチの名がクレジットされるならばハンパなもんは作らん。細かいシチュエーションは後で聞くとして、とりあえず技法だな。あのピコピコ音の原理を説明してくれ」


「それでしたら、俺よりチュンの方が……」


「そうか。こら、そこのチュンとやら、いつまでつったっとるんだ。お前はどうやってあの『ポートピアアドベンチャー』のピコピコ音楽を作ったんだ」


「は、はい。それはですね、電流を正弦波や矩形波にしてですね……」


「理屈はいい。実際に音を出してみろ」


「はい、スギヤマ先生」


 とりあえず、作曲の仕方はチュンに説明してもらうか。しかし、あのスギヤマ先生に作曲してもらえるのか。これはすごいことだぞ。いままでチュンにできなかったあんなリクエストやこんなリクエストもできるかもしれない。


「よし、大体のところはわかったぞ」


 え、もうわかったのか。スギヤマ先生はロートル……お年を召されているからこの手のテクノロジーの理解は大変だろうななんて思ってたんだけど。


「さあ、ホリー君。どんなシチュエーションの曲が欲しい。好きなリクエストをしてみろ」


「それじゃあ、ダンジョンってわかりますかね。洞窟みたいなものなんですけれど。そこを探索するときの曲をお願いできますか」


「洞窟ね。こんな感じか」


デレデレ デレデレ デーデッデデー


「それで、奥に奥に行くに連れて、プレイヤーの不安をあおると言いますか。緊迫感が増すような雰囲気になるようにできますかね」


「そんなのは簡単だ。少しキーを下げればいいんだからな」


デデデデ デデデデ デーデッデデー


 おお、これならダンジョンを潜るに連れて不安感が増すな。


「それなら、メインテーマーを作ってください。剣と、魔法の中世風ヨーロッパ世界。人間とドラゴン娘が戦う。そんな世界観を象徴するような音楽を」


「ふふふ、気楽に言いおって。しかし、わたしにも経験があるからな。これでどうだ」


 テーテテーテーテーテーテッテテー


 おお。ファミコンのピコピコ音源でこんなメインテーマーが出せるのか。


「ホリー君。自分で言うのもなんだが、わたしはこの曲が気に入ったぞ。わたしのコネクションを総動員してこの曲を国営放送交響楽団で演奏してみせる」

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