第8話ファンレター

「というわけで、トリヤマ先生が『ドラゴン娘クエスト』のキャラクターデザインをすることになった。チュン、お前に相談もせずにこんなことになってしまったが……なにせあのマシリトとあのトリヤマ先生が言い出したことで、とても断れるような状況では……」


「ホリーさん。トリヤマ先生が『ドラゴン娘クエスト』のキャラクターデザインをするんですか!」


「そうだよ。ほら、これがトリヤマ先生の直筆キャラクターデザインだ」


「うわ、すごい! エロい! ホリーさん。ちょっとトイレでオナってきていいですか」


「いいよ。俺もトリヤマ先生にそのキャラクターデザイン受け取った直後に出版社のトイレで自家発電したし」


「あ、ズルい、ホリーさん。トリヤマ先生がキャラクターデザインをすることには僕も大賛成ですけれど、トリヤマ先生の直筆キャラクターデザインでのオカズ体験を独り占めするのは許せません。しょうがないからホリーさんが使用していないキャラクターデザインを使用します。ホリーさん、どれを使用したんですか」


「全部使用した」


「全部って……キャラクターデザインは十何パターンもあるじゃないですか。それを全部使用したんですか。僕のぶん残しておいてもくれたっていいじゃないですか」


「だって、あのトリヤマ先生のキャラクターデザインだからなあ。一人だけ楽しんであとのモンスター娘は後回しってわけにはいかないじゃないか。でも、変なもので汚していないから、チュンも安心して使用していいぞ」


「そういう問題じゃないですよ。あああ、このトリヤマ先生のキャラクターデザインは、すべてホリーさんに使用された中古になってしまったんですね」


 なにが中古だ。そんな馬鹿げた処女信仰をしているからお前は童貞なんだ。俺みたいに風俗通いを続けていると新品とか中古とかはどうでもよくなってくるぞ。だいたい、それはただの絵だ。


「それにしても、トリヤマ先生のキャラクターデザインは実にエロいな、チュン。こんな外見のモンスター娘が実際にいるかと言えば、いないな。実際のモンスター娘はこんなに目が大きくないし。だいたい、『∂ ∂』で目と認識できるようにしたトリヤマ先生は偉大だな」


「ホントですね、ホリーさん。どこからどこまで目で、どこからどこまで皮膚なのか

『∂ ∂』じゃあよくわからないのに、もうすっかり僕はこれを目と認識しちゃいますからね。この目の描き方になじんだら、もうアメリカのバタくさいキャラクターデザインじゃあ満足できませんよ」


 そういうことだ、チュン。俺はモンスター娘風俗で生身のモンスター娘ともいろいろいたしているからいいとしても、お前みたいなマンガやアニメのキャラクターでしか自家発電したことがないようなコンピューターオタクが生身の女のあそこを見たり実際にことに及んだらどうなると思う?


 『なんか思ってたのと違う』とEDになること請け合いだ。そうならないように、お前の童貞は俺がしっかり守り通してやるからな。


「それはそうと、ホリーさん。『ポートピアアドベンチャー』をプレイした人からファンレターがたくさん届いたんですが……こんなファンレターがあったんですが」


 どれどれ。


『このゲームとても面白かったです。新作を作るのなら連絡してください。わたしは作曲をなりわいにしておりますから力になれると思います。スギヤマコ◯イチ。Tel〇〇ー△△△△ー□□□□』


「おいおい、チュン。スギヤマコ◯イチって言ったら有名な作曲家だぜ。ゲームとかマンガとかのサブカル方面が専門の俺ですら顔も名前も知ってるビッグネームだ。そんな大御所作曲家が、『ポートピアアドベンチャー』なんてエロゲすると思うか? 新人アイドルとか好きなだけとっかえひっかえできるお人だぞ。こんなのいたずらに決まってるよ」


「やっぱりホリーさんもそう思いますか。でも、トリヤマ先生がキャラクターデザインしてくれるようなミラクルが起きたんですから、ひょっとしたらひょっとするかもと思いまして」


「そりゃあ、トリヤマ先生もビッグネームだけどさ。一応同じ週刊少年漫画雑誌に連載持ってるマンガ家と、そこに記事を書いてるライターってつながりがあったじゃないか。押しも押されぬ国民的大作曲家のスギヤマさんがハガキで仕事をさせてくれなんて頼んでくると思うか?」


「ですけど、万が一とか、億が一とかがあるかもしれませんし……」


「そこまで言うのなら俺がこの電話番号にかけてやるよ。どうせ、ハローワークにつながるなんてオチになるに決まってるさ。くだらないエロゲなんか作ってないで、まっとうに仕事しろってことだよ」


 ええと、ハガキに書かれた電話番号はと……ダイヤル回してジリンジリンと。


「はい、スギヤマです」


 ……


 スギヤマなんてありふれた苗字だもんな。同姓の誰かさんに俺は話してるんだろう。

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