第3話ドラゴン娘クエスト・着想
「ホリーさん、『ポートピアアドベンチャー』が発売された途端にもう大評判ですよ」
そうだろうそうだろう。チュンが言うように『ポートピアアドベンチャー』がバカ売れするのも当然だ。なにせ俺が担当しているゲーム記事で絶賛したからな。それを読んだ全国のちびっ子が『ポートピアアドベンチャー』を購入して、ご褒美のエロ画像でモンモンしたかと思うななにかグッとくるな。
「なんといっても、ホリーさんの書いたモンスター娘のセリフが受けてますよ。今まであんなふうにシナリオを重視したゲームはありませんでしたからね。もう、全パターン読みたくて何周もしてるプレイヤーが続出ですよ」
当然だ。宣伝であおるだけあおって中身がクソゲーでしたでは、次回作を出せやしないからな。それでは俺が作りたい俺好みのキャラクターデザインのRPGが作れなくなってしまうからな。それでは意味がないんだ。
だから、モンスター娘の会話には気合を入れたぞ。容量に制限があるからこそ、その内容を練りに練ったのだ。わずか数十文字のために悩みに悩み抜いたのだ。
「で、友人キャラとエンディングで結ばれるという展開もプレイヤーに驚かれました。あんまり驚かれたんで、『ヒロインは地味子』なんてネタバレが一人歩きしちゃいましてね。『ポートピアアドベンチャー』をやったことがない人でも『ヒロインは地味子』という言葉は知ってるのが当たり前になっちゃったっんですよ」
そうかそうか。『ポートピアアドベンチャー』が、通しての内容は知らないけれどどんな仕掛けがされてるかは知ってるという名作の仲間入りをしたのか。『猿の惑星』や『そして誰もいなくなった』みたいに。
「おかげで、『早く次を作れ』っていろんなところからせっつかれてるんですよ。ホリーさんも販売会社のエニークスからせきたてられてるんじゃないですか?」
そのとおりだ。ちょっと前まではしがないゲーム記事ライターだったこの俺が、あっという間にスゴ腕ゲームプロデューサーになってしまったのだ。ああ、自分の才能が怖い。
「で、次回作のアイデアあるんですか? ホリーさん。あるなら教えてくださいよ。僕も早くホリーさんのゲームをプログラムしてプレイしたいです」
「あるにはあるが、チュン。その前にひとつ確認しておく。エニークスから次回作の予算としてこれだけぶんどってきた。これだけあれば、HPやMP、それに経験値や所持金をゲームに落とし込めるようプログラムできるか?」
ほら、チュン。名前も売れてないただのゲーム記事ライターが作るなんだかよくわからないゲームじゃなくて、一発当ててしまった敏腕プロデューサーの次回作だからな。会社も気前よく制作予算を出してくれたぞ。
「どれどれ……うわっ。これだけあれば、『ポートピアアドベンチャー』とは比べものにならないだけの容量がプログラムできますよ。技術の進歩でROMの容量も増えてますし……よし。僕は独立します。独立してエニークスからホリーさんのゲームの開発の依頼を正式に受けます」
「おお、そいつはすごい。チュンも社長様か」
「なにを言ってるんですか。エニークスからこれだけの予算を引き出したホリーさんがいてこそですよ。お金があるからこそ、ホリーさんのゲーム開発を僕の本業にできるんです。それで、ホリーさんのリクエスト通りにプログラムしますから……どんなゲームにするか教えてくださいよ」
「では教えてやるか。悪いドラゴン娘にさらわれたお姫様を勇者が助ける話だ」
「王道ファンタジーじゃないですか。そんな王道ファンタジーなRPGを日本のコンピューターゲームで作れる時代が来るとは思いもしませんでしたよ。でも、それって『ウルティマ』とか『ウィーザードリー』の日本版ってことでしょう。日本であれが受け入れられますかねえ」
「そんのことは百も承知だぞ、チュン。アメリカではテーブルトークRPGの文化があった。一人のゲームマスターに複数がいろんな職業を選んで立ち向かうというダンジョンアンドドラゴンズがあったからこそ『ウルティマ』や『ウィーザードリー』が受け入れられたんだ」
「でも、日本にはそんな文化ありませんよ、ホリーさん」
「そう。だから、まずはプレーヤーが操作するのは勇者一人だけだ」
「えええ、それじゃあ、ゲーム開始時にどんな職業のキャラでパーティー編成するかの楽しみがなくなっちゃうじゃないですか」
「たしかに。俺もダンジョンに潜る前にパーティー編成を考えている時が一番楽しい。しかし、日本人のそんな楽しみをさせるにはまずHPやMP、それに経験値や所持金の概念を理解させる必要があるのだ。だから、シンプルに勇者一人でいく。相手のモンスター娘も一人で戦闘するぞ」
「なるほど、そういうことですか。RPGなんてものになじみがない日本人にはそのほうがいいかもしれませんね。容量的にもグッドアイデアです、ホリーさん」
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