第2話ポートピアアドベンチャー娘

「どうも、お待ちしてましたよ、ホリーさん。とりあえず、お入りください」


 『お入りください』はいいけれど、あいかわらずチュンの部屋はパソコンばっかりだな。チュンってオナニーのおかずはどうしてるんだろう?


「それでなんですけどね、ホリーさん。日本じゃあ、いきなりウルティマやウィーザードリーみたいなゲーム出しても売れないと思うんですよ。たとえキャラクターデザインを日本人好みのアニメちっくなものにしてもです。仮にキャラクターデザインのおかげで売れも、ユーザーはチンプンカンプンでクソゲー扱いされるでしょうね」


 おっとそうだった。チュンのオカズなんてどうでもいいんだ。チュンの言う通りなんだよなあ。日本人にはダンジョンに潜って宝探ししたり、ドラゴン娘を倒したりする文化がないからなあ。まず、テーブルトークRPGおなじみのHPやMPが何かなんてことすらわからないだろうからな。


「だから、まずはアドベンチャーゲーム形式なんてどうでしょう。モンスター娘を倒しに海岸に行ったり灯台に行ったりするんです。そこで、『たたかう まほう ぼうぎょ にげる』なんて選択肢を選ぶんです」


 なるほど、アドベンチャーゲームか。それならモンスター娘との戦闘でHPとかMPとか考えなくてもいいから、テーブルトークRPGに馴染みがない日本人でもとっつきやすいかもな。


「とりあえず、基本のゲーム画面だけ作ってみたんです。どうですか、ホリーさん」


 どれどれ? 『俺くん、どこでモンスター娘を退治していけないことしようか?』なんてメッセージウインドウと『そうげん さんがく かいがん しんりん さばく ひょうが さんばし てんぼうだい』なんて選択肢が出てきたな。


「行き先をどこか選んでくださいよ、ホリーさん」


 じゃあ、かいがんで……


『はなしにならないな!』


 おい、いきなりやられたんだが……


「不満そうですね、ホリーさん」


「当たり前だ、チュン。いきなりこの展開はあんまりだろうが」


「僕にはシナリオは作れませんからね。そこでどんなモンスター娘と出会ってどんなやりとりをするかはホリーさんが考えてくださいよ。ただ、最後にはやっつけられる展開にしてください」


「やっつけられる? 主人公がモンスター娘にやっつけられるのか? そんなんでゲームになるのか?」


「まあまあ、とりあえず8ヶ所全部に行ってくださいよ」


「せっかくチュンが作ってくれたんだからやってみるけどさ……」


『かえりうちだ!』『にんげんにモンスターがたおせるか!』『おとといきやがれ!』『よわすぎる!』『しね!』『なかまのかたき!』『まおうさまのめいれいだ』


 8ヶ所全部でやっつけられたんですが……おや?


『全滅だね、俺くん。しょうがないな。あたしがデートしてあげる』


「おい、チュン。これって」


「そういうことですね、ホリーさん。8人のモンスター娘全員にやられると、モンスター討伐にさそった友人キャラといい雰囲気になるようプログラムしたんです。どうですか、このアイデア」


「どうって……いいんじゃないか。結局しあわせの青い鳥は実家にいましたみたいな展開で。最初にあったどの選択肢もハズレでしたなんてのは『金の斧 銀の斧』みたいだし……これ、ゲームを始めていきなりこのデートしてくれる友人キャラとこんないい雰囲気にはならないんだろ」


「そうですよ。8人のモンスター娘にやられるというフラグを建てることで、友人キャラと仲を深められるんですね、ホリーさん」


 なるほど、プログラマーのチュンらしいアイデアだな。


「というよりですね、ホリーさん。8人のモンスター娘にちゃんとしたイベントを用意できるような容量がないんです。容量的に、モンスター娘8人分の顔グラフィックでかなり食いますからね」


「そんなに容量がカツカツなのか、チュン」


「それはもう。ラストの友人キャラのムフフなグラフィックにも気合を入れたいですし……となると、とてもじゃないですけど8人のモンスター娘のキャラを掘り下げるだけの容量はありませんよ」


「じゃあ、アドベンチャー要素も無しだ。攻撃手段を剣にするか魔法にするかなんて選択肢は無くしてしまおう。プレイヤーができるのはモンスター娘8人にやられる順番を選ぶだけ。そのかわりテキストには気合を入れる。このモンスター娘はあのモンスター娘の次に会うからテキストもそれに合わせるとかでどうだ」


「なるほど、それならモンスター娘との会話文のテキストに容量をさけますね。ナイスアイデアです、ホリーさん。では、どんなモンスター娘にしましょうか。せっかくだから場所にあったモンスター娘がいいですね。さんがくでは有翼のハーピー娘とか……」


「いやいや。まずは友人キャラのグラフィックだ、チュン。これが肝心だぞ。なにせ、友人キャラといやらしいことをするんだからな。性別不詳、メガネをかけた地味なデザインのドット絵にするんだ」


「その地味キャラが、ご褒美のエロ画像では、僕みたいなコンピューターオタク好みの黒髪ストレートの巨乳ちゃんになるんですね、こんな感じの」


 わ、チュンのやつ、ディスプレイにエロ画像表示させやがった。しかし、これは股間にビンビンくるな。こんなものがあるから、エロ本やエロマンガなんてものがこの部屋にないんだな。

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