第10話 たい焼きの結ぶ絆

 今日はバスで登校した為に俺と千夏姫は学校から伸びる銀杏並木を歩いていた。季節がめぐり銀杏が色付き初めていた。千夏姫は上を見上げ右手を伸ばす。


「我は生きているのか……」


 千夏姫の眼は遠い時代を越えている様に見えた。


「本能寺での事が怖かったのか?」


 俺の問いに千夏姫はなにも言わなかった。それでも、右手は銀杏に届かないが必死でつかもうとする。


「この時代に来たのは父上の願いじゃ、我は泣かないぞ」


 やはり、強がっていたのかと俺の心は痛む。泣きそうな千夏姫を俺は頭を撫であげると、寄りかかる千夏姫は悲しげであった。横にいる千夏姫を抱き締めるか迷うほどである。この通りも秋が深まれば銀杏が可憐に舞うだろう。それまで千夏姫はこの時代に居るのであろうか?姉貴と等価交換など絶対にさせない。バス停の前まで着くと俺は自販機でホットレモンを二つ買う。小さい口で千夏姫はホットレモンを飲み始める。俺は、くううぅとお腹が鳴る千夏姫を見て安堵した。


「たい焼きを買って帰るが?」

「うん、嬉しいぞな」


 俺達はバスに乗ると少し眠気を感じる。毎晩、古書を読んでいる為だ。俺は慌てて、いつもより一つ前で降りる。たい焼きを買う為である。俺は四つのたい焼きを買い二つを千夏姫に手渡す。


「はむはむ、美味しいぞな」


 俺もたい焼きを口に運ぶ。美味いな……。心魅かれる人と食べると、さらに美味しい。


「もう一つ、食べたいぞ」


 千夏姫の言うままにもう一つ買うのであった。さて、帰るか……。千夏姫と歩く道のりで俺は後悔だけはしたくないと心に刻むのであった。


 美穂が新しいアニメにハマっているらしい。


『魔法少女ベギラゴン』である。


 内容は異世界から来た精霊が普通少女のるるると合体して魔法少女ベギラゴンになる話である。 戦う相手はプロフェッサーみみちゃんの率いるアイドル親衛隊Z9である。 プロフェッサーみみちゃんはその魔力により、アイドル親衛隊Z9を作ったのである。 そうプロフェッサーみみちゃんはアイドルなのである。 今はアニメがスマホで観れる時代なので、 俺と千夏姫は見いるのであった。


「これ、つまらないぞ」


 千夏姫は二話で見るのをやめてしまった。美穂は三話目に魔法少女ベギラゴンが瀕死になって。異世界の王様に復活の呪文で生き返るのよと説明する。俺も『あー』と唸り見るのをやめる。何故、オッサンホイホイのアニメに美穂はハマるのであろう?魔法少女ベギラゴンは貧乳に白いフリフリスカートである。それに比べて、プロフェッサーみみちゃんは制服に白衣と露出があまりない。美穂はどちらのコスプレ衣装を作るか迷っているらしい。


「いっその事、普通少女るるるの衣装にしようかしら」


 るるるは眼鏡をかけた地味な制服姿である。


「俺もるるるの方がいいぞ」と進言する。


 そう、どうでもいいのであった。それから数日後のことである。独自のルートで手に入れた生地を使い普通少女るるるの衣装が完成していた。魔法少女ベギラゴンになる前なので普通少女である。地味な制服に眼鏡姿の美穂は上機嫌であった。


「闇を切り裂く一輪の花、普通少女るるる参上」


 何故か決めポーズがある。さて、千夏姫と冷凍たい焼きを食べる支度を始める。


「美穂、お前も食うか?」

「おう」


 普通少女るるるの格好でたい焼きを食べ始めるのであった。

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