第8話 等価交換と決意
今日の夕食はあり合わせである。千夏姫はカップラーメンを食べいる。
「美味いか?」
「あ、ぁ、なかなかだ」
満足そうに笑う千夏姫見て俺もサバ缶を開けて箸でつまむ。カップラーメンを汁まですすり、姉貴の帰りを待つ。そう、今夜は姉貴が夜勤ではないが、帰りが遅い。
「帰ったぞ」
アパートのドアが開き、姉貴が帰ってくる。噂をすれはだ。
「千夏姫の焦げた着物が直ったよ」
「なんと!」
姉貴は手にしていた紙袋から着物を出すがボロボロである。
「クリーニングだけでは無理があるか……」
姉貴は千夏姫に着物を着せたいが先立つ物がないのであった。 俺はジャージ姫でもかまわないが、姉貴は綺麗な姫様でいて欲しいらしい。
「自分は妹が欲しくてな、可愛くツーショットでも撮りたいですよ」
姉貴は千夏姫を可愛がっているから。千夏姫も姉貴になついて、妹みたいな気分になったのだろう。
「姉貴殿、気配り、ありがとう」
「あれ?俺に姉貴なんていたかな?」
俺の言葉に千夏姫は絶句する。 俺は首を傾げた、確かアパートに一人暮らしだったはずだ。
「これは時間軸の擦れだ。和修殿、そなたが姉貴殿の事を忘れてしまったら、姉貴殿のいない世界になってしまうぞ」
千夏姫の話によると俺には姉貴がいるらしい。 辺りを見渡すと、つまみを片手にビールを飲む姉貴がいた。
「俺はなにを勘違いしていたのだ……?」
千夏姫は顔が真っ青であった。
「やはり、我はいてはならぬ存在なのか……」
俺は禁術で現代に来た千夏姫の存在について考えてみた。 もしかしたら、千夏姫のいる時間軸には姉貴がいないのかもしれない。
「等価交換じゃ……和修殿、我の消える方法を知りたいか?」
千夏姫が呟く。
「なんだよ、それ、千夏姫はもう家族だろ。 俺に姉貴と千夏姫を選べと言うのか?」
「始まりがあるという事は終わりがあるのじゃ」
俺は少し夜風にあたってくると言い、外に出ると現実から逃げ出したい気分であった。
『禁術』
明智光秀が主君の織田信長に持たせたくなかったモノか……。
「和修、お前、演劇に興味はあるか?」
美穂が休み時間に聞いてくる。文化祭で軽音楽部の演奏なら観た事があるが、演劇はないのであった。
「印刷室の掃除を頼まれた時に台本の切れ端を読んだが興味は湧かなかったな」
しかし、美穂は演劇部に所属しているがカレンちゃんの事しか考えていないと思っていた。
「今度、市民文化会館で発表するのだ」
???……来いと言うつもりなのか?
「演劇で使う衣装が多くてな、カレンちゃん関係の物を預かってくれぬか」
俺の家は貸倉庫でないので断ろうとすると。
「ぐへへへ、千夏姫か姉貴が消えそうらしいな。色々手伝ってやってもいいぞ」
おい、『ぐへへへ』は悪意を感じるぞ。ま、コミ障害の美穂らしいが……。仕方なく、大量の荷物を三人でアパートに運ぶのであった。家に着くと大きなため息がでる。フィギュアにコスプレ衣装、クレーンゲームの景品らしき物まである。
「おい、このスク水巫女・イワウちゃんの衣装を着てみたが大きいぞ」
いつの間にか、千夏姫がイワウちゃんの衣装を着ていた。
「烈姫の体系に合わせてあるのでは?」
烈姫にチビ姫、チビ姫と言われていたからな。しょぼんとする千夏姫であった。
「ところで、美穂、お前の演劇の役柄はなんだ?」
「わたしは裏方よ、主に衣装を担当しているの」
美穂はぱっと見は綺麗だから主役かと思ったのであった。
「華のある、お前が出ないとはたいした演劇部でないな」
「アホな事を言うな、主役のクラスのオーラは芸能人並みだぞ」
はー。そんなものか……。美穂が裏方だから、それで市民文化会館での発表会に俺は呼ばれなかったのか。
「こんにちは、入りますよ」
別行動をしていた烈姫が俺のアパートに入ってくる。
「たい焼きの差し入れですわ」
ホカホカのたい焼きが大量に持ち込まれるのであった。千夏姫はふにゃふにゃになりたい焼きを食べ始めるのであった。
俺は隣の部屋で眠る千夏姫を見ていた。ふう、見とれている暇はない。俺は机に向かい、街の大きな図書館で借りた本を山積みにして禁術を調べているのであった。
千夏姫の話では、禁術を使えば、元の時代に帰れるらしい。近所の神社に伝わる神具を使うらしい。千夏姫はその神具に導かれてこの現代に来たとのこと。
戦国時代で信長のおさめてた安土城は焼け落ちた。そう、千夏姫は負け戦の姫である。
俺はこの大平の現代に千夏姫を残すか迷った。姉貴と等価交換と言われ、俺はさらに禁術について調べている。近所の神社に伝わる神具は日本刀である。先ずは妖刀について本を借りた。
そう言えば、烈姫はどうなのであろう?俺は調べ物の合間に烈姫にメッセージを送るのであった。本能寺で焼け落ちるのをふびんに思って信長の優しさでこの現代に来たらしい。色々、いわれある信長でも烈姫にも優しいかったらしい。
「たい焼き、もう食べられないよ……」
千夏姫の寝言であった。少し休もう。俺はコーヒーを入れて、眠い目をこする。
「帰ったぞ」
夜勤の姉貴が帰ってきた。次元の狭間で姉貴と会話している気分であった。遠くて近いモノ……遅くて速いモノ……。姉貴との会話で感じた違和感である。俺は疲れた様子から姉貴に寝るように言われる。まだ、時間はある。
「た、たい焼きの洪水じゃ」
ふぅ、どんな夢を見ているか疑問に思いながら。
休日に千夏姫と二人で大型チェーン店のスーパーに来ていた。歩いているとふと千夏姫がいとおしくなる。それは気まぐれであった。スーパーの二階のアクセサリーショップで千夏姫に何か買ってやる事にした。完全な気まぐれである。ワンピースにスカート等、女子の服を買ってやったがジャージがいいらしい。俺がジャージ姫と言っても気にしないでいた。しかし、千夏姫にもう少し女の子らしい格好をと思ったのである。
「何が欲しい?」
千夏姫は銀色の指輪を指さすのであった。半分おもちゃみたいな指輪であった。まあ、よかろう。
「どの指にはめるのじゃ?」
俺は少し考えたが分からない。ネットで調べたら、右手の薬指でいいらしい。
「ありがとう、着けてみる」
気まぐれのプレゼントに少女の様にうかれる千夏姫であった。俺は頭をかき照れを隠すのであった。
「お客様、紫陽花の花言葉はご存知ですか?」
突然、アクセサリーショップの店員さんが問うてくる。俺がアタフタしていると。
「忘れて下さい、熱々の二人に対するざれごとです」
どうやら、からかわれたらしい。店員さんは笑顔で去って行く。俺はネットで紫陽花の花言葉を調べてみた。
……。
本当だからかわれた。しかし、そんなにバカップルだったのか?ジャージ姿に安い指輪か……。恋愛の事などよく分からないが、きっと、お金で買えないモノを俺は手にしたらしい。
俺は戦国時代に千夏姫を返すのを諦めた。素直な気持ちはこの時代で俺の横にいつまでも居て欲しいであった。
……店員さん、ありがとう……俺は決心がついたよ。二人でスーパーの二階を一緒に歩くと、千夏姫はしゃいで、俺の前を舞う様であった。
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