第7話 単なる日常の……2
休日の朝の事である、ジャージ姿の千夏姫が俺を見ている。
「なんだ、ジャージ姫?」
その姿はこの部屋の主である。
「その、黒い汁は美味しいのか?」
千夏姫が興味を示したのは俺が飲んでいるコーヒーである。
「飲むか?」
ブラックだがよかろう。インスタントコーヒーにお湯を入れて千夏姫に渡す。フーフーして一口、飲むと。千夏姫は嬉しそうにする。
「なかなか、いけるな」
ま、一瓶、1500円の高級品だからな。 コーヒーを飲み干す千夏姫は、ほんわかオーラをだす。 うーむ、俺も久しぶりに喫茶店でコーヒーを飲みたくなった。 昔は一杯400円だったが今はもっと値上がりしているだろうな。 ついでに千夏姫も連れて行くことにした。
「もっと、美味しいコーヒーを飲みに行くか?」
「おお、ついていくぞ」
自転車で数十分、走ると目的の店に着くと、そこには人影がなく閑散としていた。 あれ???閉まっている。 臨時休業でもなさそうだし潰れたのか。
「ここまで来て飲めぬとな」
このままでは千夏姫の機嫌が悪くなる。仕方がない。 WバーガーでホットコーヒーのSを頼もう。 つまりは百円である。 少し自転車で走ってWバーガーに着く。
「ホットコーヒーのSを二つ」
俺は小首を傾げた。直感的に足りないと思うのであった。 ナゲットもつけよう。
「五ピースのナゲットを一つ」
数分間の待ち時間で手渡される。 ホットコーヒーを飲み始める千夏姫だが幸せそうでない。
「我は百円が安い事を知っておるぞ」
ま、百円の味だよな。Wバーガーにそれ以上の事を求めても無駄だろう。
「俺の分のナゲットやるから機嫌を直せ」
千夏姫は嬉しそうに食べ始める。 なんか、食べる話ばかりだなと思うのであった。
ある夜の事である。 俺は風呂から出てきて、千夏姫に風呂に入るか聞こうとした時である。 千夏姫はアパートの窓から半分の月を見ていた。
「月など見て、どうかしたのか?」
俺は切なそうな千夏姫を見て、このまま消えしまう様な気がした。
「我は負け戦の姫じゃ、父上の願いでこうして生きている。この大平の世でも死は怖くない」
この世界から消えそうな千夏姫に俺は心が傷んだ。 千夏姫が禁術でこの現代に居るのだから、何がきっかけで消えてしまうのか分からなかったのである。
「悲観的になっても仕方がないよ、俺も色々あって姉貴と二人暮らしだった」
「そうか……」
言葉に詰まる千夏姫に俺も沈黙が続いた。 そう、消えそうな千夏姫に俺は昔の事を少し思い出した。 離婚して父親と暮らしていたが、父親が会社の数万円のお金を横領してクビになり。成人していた姉貴と暮らす事になったのだ。
「俺は人生の厳しさを少し知っている、ここに転がり込んだのも何かの縁だ、気楽に生きようぜ」
それは自分に言い聞かせている感じであった。しかし、千夏姫は焼ける本能寺にて父親の織田信長による禁術でこの現代に舞い降りたのだ。 俺には想像もつかないが、月明りだけは昔と変わらないらしい。 それは千夏姫が何故か急に遠くに感じるかは俺にも分からなかった。でも、俺は今の生活がいつまでも続くのを望んだ。 ひょっとしたら不可能かもしれない事である。 真っ白になった俺の頭は答えを探していた。
ふぅー
俺は深呼吸をして再起動する。 試してみるか……。 俺は冷凍庫からたい焼きを取り出す。 レンジで温めてみると……。 半分の月を見ていた千夏姫がトローンとする。
「たい焼きの香りじゃ」
安心した、やはり、千夏姫だ。 俺は禁術とかよく分からないが美味しそうに食べている千夏姫に心を打たれたのだ。
「今日は姉貴の帰りが遅い、たい焼きを食べ終わったら、一緒に動画でも見るか?」
「おう」
スマホを取り出して、YouTubeを開く。 子供の様にはしゃぐ千夏姫を見て、俺の過去も癒された気分であった。
午前中に授業を受けると美穂の様子がおかしい。 目が点になって、授業は聞いてない様である。 俺は昼休みに声をかける事にした。
「美穂、目の焦点が合ってないぞ」
美穂はやはりあさってな方を向いている。
「美穂殿は演劇部の部室でDVDが禁止されたそうな」
烈姫が近寄ってきて、なにやら説明するのであった。
「カレンちゃんのDVDが……」
うわ言の様に呟く美穂は見ている方が切なくなる。
「おぉ、和修、カレンちゃんが、カレンちゃんが……」
ようやく俺を認識できたらしい。 しかし、俺に泣きつかれても困るがなんとかせねば。そう、美穂は禁断症状が出ているのであった。
「烈姫、スク水巫女イワウちゃんになるのだ」
俺は我ながらアホなセリフを吐いたなと頭をかく。
「は!あ?え……」
烈姫は顔赤くして微妙に壊れる。 イワウちゃんの格好には一度きりで、あれから着ていないらしい。 俺は腕を組んでどうしたものかと考える。
「我がカレンちゃんの格好をすればいいのでは?」
は?千夏姫が変な事を言い出す。 美穂の表情は豹変するのであった。それは獲物を捕らえた猛獣の表情である。
「いただきます!」
と言うと美穂は千夏姫を演劇部の部室に連れ込むのであった。 そこから出てきたのは、千夏姫の変わり果てた格好であった。 そう、ミニスカートにお腹スク水で胸がメイド服のカレンちゃんである。
「美穂、これ胸がきついぞ」
カレンちゃんの衣装は手作りなので美穂のサイズに合わせてある。ま、これ以上の説明は不要である。
「あい?」
聞き直す美穂は眉間にしわをよせている。
「胸がきついぞ」
空気を読めない千夏姫に美穂は両頬をつねるのであった。
「む、ね、が……」
「まだ言うか?この姫は……」
面倒くさいが俺は美穂を止めるのであった。
「せっかく、カレンちゃんの格好しているのだ。記念に一枚撮ったらどうだ?」
「お、お、それは名案だ」
美穂は携帯を取り出して、カシャ、カシャと取るのであった。
「和修……」
なにか言いたげな千夏姫であったが自分から言いだしたのだ、俺は美穂が飽きるまで待つのであった。
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