第5話 今川の姫

 朝、俺は机に向かい勉強していた。 すると、ジャージ姫が現れた。


「話があるのだが……」

「なんだ?あらたまって」


 千夏姫は真剣な面持ちで俺に近づいて話始める。


「実は本能寺に今川義元の隠し子が一緒に居てな」


 戦国時代……敵の子供を面倒見るのは珍しくないのかと首を傾げる。


「多分、この時代に来ているはずなのだが」

「俺にどうしろと?」

「拾ってきて面倒みて欲しいのだ」


 は? 俺の顔が歪むと……。


「絶対、ご飯もあげるし、面倒もみるから」


 凄いな……犬や猫扱いか……勝った側の強みだな。 とにかく、朝の勉強は終わりにするか。


「その話はまた後だ、学校に行くぞ」


 俺達は自転車で登校するのであった。 それからショートホームルームの時間の事である。 俺の隣の席が空いている。


???


 俺が首を傾げていると……。 髪をアップにまとめた女子が座る。それは姫の様に凛とした面持ちであった。


「あなたは誰ですか?」

「わたしは烈姫です。父の仇となる織田信長の娘の千夏姫を探していたらここにたどり着きました」


 タイムリーだな。朝、話していた、今川の姫か……。


「烈ちゃん、ここにいたのね」


 美穂が寄ってくると烈姫と話し出す。


「美穂、お前の知り合いなのか?」

「うん、家の居候の烈ちゃんよ」


 あー美穂の家に居候していたのか。俺のアパートに来なくて良かった……。


「なんか、道で拾ってね、転校手続きをしていたら今日になったの」


 はーなるほどね。 烈姫が千夏姫と目が合うと、烈姫は腰から何かを取り出す。

いきなり仇討ちか? あれ?取り出したのは水筒であった。


「千夏姫、お茶です。飲みますか?」

「お、お、飲むぞ」


 千夏姫は完全に怯えている。 朝の話と違うなと思うのであった。 しかし、微妙なのが増えたな。


 さて、授業まで時間があるな。ジュースでも買いに行くか。 俺は一階の自販機に向かう途中で綺麗で姫の名にふさわしい烈姫ついてどう接するか考えていた


 俺がジュースを飲んで教室に帰ると千夏姫が泣いている。烈姫もムスっと座っていた。


「何かあったのか?」


 美穂に聞いてみると烈姫が千夏姫を泣かせてしまい気分が悪いそうな。


「こやつ、我の事を『チビ』と言うのじゃ」

「チビの事をチビと言って悪いのですか?」


 美穂はサバサバと言い切る烈姫に「鈍感チビ姫でも必死に生きているのです」と言ってしまいとどめをさしたらしい。 千夏姫は俺の胸に飛び込んでシクシクと泣く。 しかし、俺はどうしていいか分からず困り果てるのであった。


「千夏姫は小さくても可愛いから大丈夫だよ」


 俺は無い知恵を絞って励ますのであった。 上目づかいで「ホント」と聞いてくる千夏姫に俺は照れを隠せないでいた。


「やっぱり、鈍感姫だ……」


 美穂がヤレヤレといった感じで呟く。 烈姫の機嫌はさらに悪くなりジト目で見てくる。 これはイカンと思いくっついていた千夏姫をはがす。


「ここは教室なのでそろそろ泣き止め」

「はい……」


 素直な千夏姫をいとおしく感じる俺は間違っているのかと自分に問う。 とにかく俺は泣き止んだ千夏姫に飴ちゃんをあげるのであった。


「美味しい……」


 千夏姫に笑顔が戻ったので烈姫は機嫌が直り机に向かうのであった。


「で、わたしはこの場所で何をするのですか?」


は? 高校の教室だから勉強だよな??? 烈姫の問いに言葉が詰まる。


「美穂、教えてないのか?」

「スク水メイド・カレンちゃんのライバルのスク水巫女・イワウちゃんの服を着てくれると約束してくれたので……」


 それと烈姫がここに居るのと関係があるのであろうか?更に美穂を問いただすと。


「高校生コスプレプレイヤーは需要が多くてね。だから、高校生にしちゃいました」


 美穂の顔がペ〇ちゃんになっている。 俺は頭が痛くなり自分の椅子に座り込む。

隣に座っている烈姫は不思議そうに俺を見ている。 小さな顔に大きめの瞳は綺麗の代名詞と言える。 スク水巫女・イワウちゃんか……。 とにかく、学校は勉強する場所だと教えるのであった。


 英語の授業の時間である。千夏姫は机に丸くなり、耐えている様子だ。英語は意味不明らしい。


「英語はだめなのか……」


 千夏姫の挙動に感づいた様子で英語の先生は呟く。


「烈姫はどうだ?」


 烈姫は教科書を開いて読みだす。うーん……ネイティブな発音であった。


「烈ちゃんは拾ってから入学までの間に勉強してたの」


 美穂が小声で不思議そうにしている俺に教えてくれる。頭がいいのか……羨ましい限りである。


「千夏姫に英語を教えてあげていいか?」


 英語の先生は烈姫に個別指導をお願いする。


「イヤです」


 表情ひとつ変えずに即答しるのであった。


「……仕方ないな、イナズ先生に頼むか……」


 あの電波幼女先生?外国で博士号を取っているとはいえ、お子様である。


「先生、自分が楽をしないで教えてあげたらいいと思います」


烈姫は英語の先生に厳しく言うのでった。しかし、烈姫の言動は、いろんな意味で失う物がないからなと思うのであった。


「なら、課題として千夏姫に教えることにしたらどうだ?」

「授業の一環ですか」


 どうやら、この学校は進学校でないので英語の先生はネイティブに教科書を読んだので教える事がないと判断したらしい。


「はい、分かりました」


烈姫は嫌がる事無く即答する。ホント、気難しい姫だ。しかし、その高貴なオーラで誰もが許してしまうのである。千夏姫は烈姫に英語を教わることになり、ブルブルと震えている。確か、拾ってきて、面倒をみるとか言っていたな。どうやら、父の信長あっての関係だったらしい。

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