第4話 ポッキーとタダ券プール

 夕方にジャージ姫がポッキーをつまんでいる。 姉貴に買って貰ったらしい。

俺も甘い物が欲しいが言い難い。


「千夏姫は甘い物が好きだな」

「我は育ちがいいからな」


 確かに魚の干物が好きな姫は嫌だな。 ま、可愛いなら魚の干物が好きでもかまわないと思う。 俺は頭をかきながら洗面所に行って顔を洗う。 最近は千夏姫を意識し過ぎていけない。 戻ってくるとジャージ姫がポッキーをくわえて目を閉じている。

ポッキーゲームのつもりなのか? 姉貴なのか変な事を教えたのは……。 一瞬の沈黙の後である。


「無防備な我はどうじゃ?」


 やはり、姉貴に違いない。最近、俺が千夏姫に魅かれているのを知っての悪行を教えたはずだ。 千夏姫は目を開けてポリポリとポッキーを食べ始める。 俺は半分やけを起こして、ポッキーを一本貰う。 ポッキーをくわえて、千夏姫の様子をうかがう。


「ほ、ほー、なんだ、知っているじゃん」


 千夏姫は俺に近づいてポッキーをくわえようとする。


「こ、これは危険なゲームだぞ」


 俺は慌てて千夏姫を止める。 自分のおこないながら、恥ずかしくなるのであった。


「危険ね……姉貴殿は面白い事を教えてくれるな」


 ニタニタと笑みを浮かべるのであった。 これは、ジャージ姫がSに目覚めた……。 俺は決してMではない、ごく普通の高校生だ。 うん?姉貴がコンビニの仕事から帰ってくる。 助かった……。この気まずい雰囲気から抜け出せる。 ジャージ姫はテレビを見ながらポッキーを再び食べ始める。


 姉貴は夜の工場の清掃の仕事が休みらしい。座り込んでビールを飲み始める。

俺も勉強しよう。 目を閉じてポッキーをくわえる千夏姫は可愛かったなと思い出すのであった。


 季節の変わり目のある日の事である。何故か、大型温水プールに来ていた。 姉貴がタダ券をどこからか貰ってきたからだ。 千夏姫は白いフリルのビキニを着けてご機嫌だ。 姉貴はパーカーを着て座っている。 しかし、姉貴の水着姿など需要があるのであろうか?


「なんだ、その失礼な目線は」


 姉貴がなにかを感じ取ったらしい。


「姉貴殿はそのセクシーなオーラをパーカー着て隠しているのだぞ」


 はー、 千夏姫の説明に妙に納得するのであった。


「とにかく、二人で泳ごう」

「おう」


 二人で流れるプールに入ると大きな浮き輪に乗り流れながら、バシャバシャと遊ぶのであった。 すると、周りから視線感じる、千夏姫の方は出るところが出て引っ込むところはスレンダーだからだ。俺達は周りからはどう映っているのだろう?やはり、恋人同士なのかな……。千夏姫は初めてのプールにテンションが高い。どう見ても初デートのカップルだ。とにかく、一通り、楽しんで姉貴のもとに帰ると。


「そろそろ、本気を出すか……」


 パーカーを脱ぎ赤いひもビキニを見せつける。


「お、ぉ、流石、姉貴殿ですな」


 千夏姫が感心していると姉貴は売店に行きアイスクリームを買う。 俺は姉貴の本気とやらをもう少し様子をみる。 ベンチに座り姉貴がアイスクリームを食べていると、二人組の男達が声をかけるのであった。


「姉貴殿、フィッシュオンですな」

 

 千夏姫の微妙な言葉の覚え方は凄いな。 それで、声をかけられた姉貴はどうするのだのうか?


「おーい、チョット、来い」


 俺??? 姉貴は俺に向かって声をかける。


「なんだ、連れがいるのか……」


 と、言って去って行く二人組であった。


「姉貴、これでいいのか?」

「ふ、声をかけられただけで満足」

「姉貴殿、キャッチ&リリースですか」


 だから、その表現は微妙だぞと思うのであった。


 それから、俺達は温水プール内のレストランで食事である。


「たい焼きはないのか?」


 千夏姫はたい焼きが好物になったらしい。しかし、イタリアンのこの店では不可能だな。


「また、買ってやるから我慢しなさい」


 ガッカリした様子でテーブルに寝転ぶのであった。


「で、何が食べたい?」


 千夏姫は料理のメニューを見てアサリのシーフードパスタを指さす。俺も同じでいいや。注文してしばらく待つと。アサリのシーフードパスタが三つ届く。姉貴も同じ物を頼んだらしい。俺が千夏姫と同じ物を頼んだからだと姉貴は言う。


 しかし、千夏姫の決めた物と同じでいいとは個性の無い姉弟だなと感じるのであった。そんな事はともかく、パスタを食べよう。俺が食べ始めると千夏姫が固まっている。


「は、箸が無い……」

「このホークとスプーンを使うのだよ」


 千夏姫は手に取ってみるが、やはり使えないらしい。ホークとスプーンは無理か。


「すいません、お箸を一つお願いします」


 俺は普通に店員さんに頼むのであった。それから、箸が届くと、千夏姫は顔を赤らめて俺にお礼を言う。か、可愛いな、俺の胸はドキドキと高鳴るのであった。そんな俺を見て姉貴がブルーハワイを注文する。カクテルかと思いきや炭酸ジュースである。


 それは大きな入れ物にストローが三本さしてあった。普通に飲み始める姉貴と千夏姫をよそ眼に水を飲む俺であった。


「一緒に飲むか?」


 姉貴め……からかいよって。


「俺はお腹がいっぱいだよ」

「そうか?これ美味いぞ」


 ブルーハワイの独特の青い色に千夏姫は不思議そうに飲み続けるのであった。しかし、千夏姫は前かがみになり胸が強調されて見える。俺は頭をかきながらコップの水を飲み干す。ホント、鈍感姫だ。

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