第3話 たい焼きと恋

 そして、放課後の事である。千夏姫を演劇部に連れていくと。高校の制服姿の美穂が待っていた。


「あれ?カレンちゃんの格好でないのか?」

「ふふふ、カレンちゃんは人々がピンチの時だけ現れるのです」


 ま、俺には関係ないがな。すると、右手にスク水メイド・カレンちゃんのDVDが握られていた。


「早速、上映会の始まりです」


 美穂の手によって素早くDVDがセットされ、カレンちゃんのオープニングが流れ始める。ほーオタアニメでも気合が入っているなと感心する。


……。

 

 はて、この手のアニメは妖精が変身セットをくれるのが一話目のお決まりなのに唐突に変身しているな。俺が美穂に問うてみると。


「カレンちゃんはおっきなお友達がメインなのです。妖精さんは淫獣扱いされるのでピアなおっきなお友達の為に居ないのです」


 要するに妖精=淫獣となるアニメが多く出過ぎた感じだな。さて、美穂にカレンちゃんは何話あるか聞いてみると。


「13話です」


 うん?


「一話はDVD特典の温泉の回です」


 確かにおっきなお友達向けだな。しかし、その割には千夏姫がどっぷりとハマっているな。面白い物はジャンルを問わずか。

二話目のオープニングが流れだすと「おぉ!!!」と歓声を上げる千夏姫であった。


「千夏姫、今日、見るDVDは一巻だけだぞ」

「そうね、一度に見るより寝かせた方が記憶に残って、また見たくなるわ」


 オタの美穂が言っているのだ、間違いはない。しかし、布教活動とは言えさらにどっぷりハメようとする美穂は怖いな。美穂はうんうんと頷き千夏姫を見守るのであった。


 昼休みに中庭のベンチで千夏姫と一緒にご飯を食べているのであった。千夏姫は余程メロンパンが気に入ったらしい。小さな口でガツガツ食べる。


 俺は焼きそばパンだが、日替わりでカツサンドやタマゴサラダと決まっていない。空が青く見えるベンチでの食事はつまらない日常のスパイスであった。


 しかし、千夏姫は食べてばかりである。俺より小さな体によく入るなと感心するのであった。これでは食費が大変である。俺もバイトしようかな……。経緯は複雑だが姉貴と二人暮らしである俺の家庭は姉貴が働いて生計を立ている。


 千夏姫の物欲が食べ物だけにあるのが救いだ。それでも三人になったので、俺は空を見ながらバイトの事を考える。あぁ、ダメだ、これ以上成績が落ちたら問題だ。姉貴は成績のよい俺を大学に行かせることが生きがいである。俺はペットボトルのお茶を飲み干して、千夏姫にもお茶を渡す。


「まろやかな味じゃな。この時代の庶民は贅の限りじゃな」


 ま、俺も贅沢はしたことがないがそんなものかと思うのであった。


 そこに……。化学の先生である『イナズ』こと年齢不詳の幼女先生が現れた。


「はーい、元気してる?」


 また、面倒くさいのに目を付けられた。この幼女はMITだったかな???とにかく、外国で博士号をとってお国の実験台として高校で化学を教えているのだ。


「AHHHH,購買のパンですか、先生も同じです」

「はあぁぁ……?」

「ベンゼン環より焼きそばパンですよ」


……。


 ヒューと風が流れる。正に、さいですか……。


「幼女先生には興味ないですよ」


 イナズ先生は一部マニアには絶大な人気があり、文化祭で行った、簡単な化学実験は大賑わいだったらしい。


「オウノウ、ワタシ、ショックです」

「日本語を話して下さい」


 誰に対してもフレンドリーなイナズ先生だが、俺の事が気に入ったらしい。そして、俺の素っ気ない態度に幼女先生は首を傾げると、手のひらをポンと叩き。


「えーと、名刺、名刺」


 ダボダボの白衣の胸ポケットから名刺ケースを取り出して。幼女先生は俺に名刺を手渡す。それはこの高校で使われている正規の名刺であった。


「これで、フレンドね」

「はあ~」


 俺が困った反応にも関わらず上機嫌の幼女先生であった。そして、幼女先生が高そうな腕時計を見ると。


「おっと、時間だ、さよなら、さよなら」


 急いで校舎の奥に向かうイナズ先生であった。この名刺どうしよ……。


「千夏姫はイナズ先生と仲良くできそうか?」

「悪意のない、いいガキだな」


 千夏姫と精神年齢が近いと感じたが何か違う。俺も腕をくみ首が45度まで傾げる。


 ま、幼女のすることだしな。と、納得するのであった。


 学校からの帰り道、俺は千夏姫と一緒に自転車で下校する。俺は小腹が空いた時の常連であるたい焼き屋に寄るのであった。


「おばちゃん、たい焼き四つね」

「あいよ」


 おばちゃんの威勢のいい返事が返ってくる。たい焼きの注文は千夏姫の分も考えて四つであった。そう、この店のたい焼きは白あんで普通に美味しい。俺は千夏姫に二つ渡して食べるように言う。


「あ、あっつ、あっつ……」


 幸せそうに食べる千夏姫を見て、俺は平和な気持ちになった。直ぐにたい焼きをたいらげた千夏姫は物欲しそうに見つめてくる。仕方がない、もう一つ買ってやるか。俺は追加でたい焼きを一つ買うのであった。


「ほら、もう一つだ、ゆっくり食えよ」

「お、お、お、ありがとう……」


 小さな口でハムハムとたい焼きを食べる姿は可愛いのであった。そんな千夏姫を見て俺は少し心が痛んだ、恋かもしれない……。スマホを取り出して千夏姫の食べる姿を画像に残す。こんな一枚だが宝物を得た気分であった。あ、今日は姉貴が夜勤であった事を思い出す。


「コンビニにも寄っていくぞ、姉貴が夜勤だからカップラーメンでいいな?」

「うむ、我は幸せじゃ」


 俺は帰り道で少し考えた、俺に千夏姫は釣り合うのであろうか……。

頭をかきながら帰路につく。それから、家に帰ると、千夏姫は制服からジャージに着替える。ジャージ姫は夕食のカップラーメンをすする。姫として育ったのにジャージにカップラーメンとは考えものだ。


 仕方があるまい、現代にタイムスリップして我が家に転がり込んだからだ。ジャージ姫は俺の前にゴロンと横になりまったりするのであった。む、無防備な……。


 俺は気分転換にコンビニで買ったアイスを食べ始める。む、ジャージ姫がアイスを食べているのに気がつく。


「アイス、食うか?」

「あい、食べるぞ」


 俺は冷蔵庫からジャージ姫の分のアイスを取り出す。やはり、心が痛い、これは恋なのか……?少し自問する俺であった。



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