第2話 オタの美穂の事情

 週末、俺と姉貴と千夏姫は予想通りスーパーの下着売り場にいた。姉貴が千夏姫を着せ替え人形の様に扱っている。妹が欲しかった気持ちも分かるが姉貴はご機嫌である。白や黒のコーディネートを恥じらいもなく千夏姫は下着姿を俺に見せるのであった。


 予想はしていたがかなり刺激的であった。いかん、目がチカチカしてきた。ここは戦線離脱である。俺はガチャガチャコーナーの椅子に座り休息をしていると。


 同じクラスの美穂がガチャガチャで遊んでいた。美穂はクラスの優等生で俺にとっては高嶺の花だ。


「何で出ないかな……」


 美穂は千円札を何枚も使いガチャガチャをしている。少し近づいてみると。


 今、流行の『スク水メイド・カレンちゃん』であった。優等生の美穂がオタアニメのガチャガチャをしている?これは見てはいけないモノかもしれない。


 不意に目が合う……。


「やあ……」


 言葉につまり、俺はどうしていいか混乱するのであった。


「見てた?」

 

俺は美穂の問いに静かに頷くのであった。それは動物的なカンで色々を味わうのであった。


「わたし……隠れオタなの……命が欲しければ黙っていてね」

「はい……」


 俺が恐怖のなかで返事をすると。それは狼が獲物を見るような視線であった。


「おい、和修、結局、スポーツブラとパンツの白と黒を買ったぞ」


 買い物が終わった姉貴と千夏姫が現れる。


「おや?友達か?オタの様だが……」


 姉貴は大声で言うのであった。に、に、逃げたい。優等生の秘密など要らぬからここから消えたい。


「え、ええ、オタの美穂です」


 モテない姉貴にオタでなければモテる美穂との視線がぶつかるのであった。なんだ!この雰囲気は???数分間の沈黙の後で、二人は笑顔で握手をしてなにか認め合うのであった。


 正に絶望と希望の狭間である。


 美穂から逃げるように大手スーパーを後にすると、何故か裏通りの学生服の店に行くのであった。


「あ、言ってなかった?千夏姫ちゃんは月曜日から高校に通うの」


 はい?いくら私立とはいえ、そう簡単に通えるのか?これは姉貴の謎のスキルであることは理解できたが……。大人の事情をバッサリと可能にしてしまうのであった。学生服の店に行くと俺の高校の制服が出てくる。千夏姫が試着して、くるりと一周すると見た目は可愛いのであった。


「なんか、ヒラヒラした着物じゃな」


 あー、喋ると何かが壊れるなー。姉貴はうんうんと納得して制服を購入する。ちなみに、姉貴も制服を試着して自撮りしていたのは内緒だ。再び大通りに戻ると、回転寿司に入る。Wバーガーと迷ったが千夏姫が生の魚に興味を示した為に回転寿司にしたのだ。


「千夏姫、欲しい物が来るまでオアズケは出来るか?」


 千夏姫は小首を傾げるが理解できたようである。


「お、お、生の魚だ!!!」


 姫様とはいえ、戦国時代では生の魚は珍しいらしい。ガツガツと寿司を食べるが十皿で手が止まる。姉貴は外の喫煙所で電子タバコをすーはーしている。

禁煙は明日かららしい。姉貴だけ世界観が違うのか禁煙の明日はいつも来ないのであった。戦国時代から姫が来たくらいだ、世の中には不思議なこともあろう。しばらくすると、千夏姫がプルプルと手を震えながら十一皿目を取ろうとする。


 俺は「また、回転寿司に連れてきてやるから止めておけ」と言う。


 インスタントのお茶を千夏姫に渡して、姉貴の帰りを待つ。しかし、普段、回転寿司などには来ないので十皿が多いのか不明であった。


 姉貴が帰ってくると。


「あ、今日は夜勤だ」


 頭をかきながらスマホの予定長を見ている。昼間はコンビニ、夜は工場の清掃と姉貴は忙しい。


「二人とも美味かったか?」


 少ない休みで回転寿司に連れてきたくれた姉貴に感謝するのであった。そして、普通に満足して店を出ると家路に着くのであった。


 月曜日に千夏姫と自転車で学校に向かうのであった。貰った自転車を姉貴が直してくれたものだ。教室に入ると何故か千夏姫の席があり、担任もスルーである。姉貴が凄いのは前からだが、改めて感じるのであった。


 うん?


 ショートホームルームの前に美穂に呼び出される。あいたたた……。絶対、スク水メイド・カレンちゃんの件だ。美穂の所属する演劇部の部室に行くのであった。

そーっと、扉を開けて中に入ると……。


「純粋、正義の味方!スク水メイド・カレンちゃん参上!!!」


 それは、短いスカートにお腹の部分はスク水が露出して胸にはヒラヒラのメイド服の美穂であった。なにやらステッキも持っている。


「さ、寒くないですか?」


 俺の言葉に少し素に戻る美穂であったが。目つきが違う、そう悟りを極めた視線で合った。


「カレンちゃんはマジカルな力で守られているのです」


……。


 開いた口がふさがらない……。


「おおお、なんと素敵な格好なのだ」

千夏姫は目をキラキラさせて美穂のカレンちゃんの姿を見入るのであった。

「やはり、その娘にはこの格好の良さが分かるようですね」


 千夏姫と美穂は意気投合して語りだす。


「我もスク水メイド・カレンちゃんの元が見たぞ」


 美穂は勝ち誇ったようにDVDを取り出す。


「放課後にこの部室を訪れなさい。円盤が擦り切れるまで見せてあげるわ」

「ところで……何故その格好なのです?」


 美穂の変わり果てた姿に自然な疑問が沸く。


「オタだとバレたからには布教活動です」


 はー、布教活動ね……千夏姫がどっぷりハマっているからな。さて、授業でも受けるか……俺は知らなくていい世界を見た気分であった。

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