姫様の事情

霜花 桔梗

第1話 焦げた姫様

 俺は近所の清土神社で願い事をしていた。 お賽銭は十円である、例え貧乏でも願いを叶えてすれる事が大事である。つまりは、小さな事にこだわる神様はいらないのであった。


 そう、最小限のコストで願いを叶える、これこそ俺の生きる道だ。 そして願い事はズバリ学業である。 姉貴と二人暮らしで大学に行くには結果が大事である。


「今度のテストでいい点が取れますように……」


 苦労して勉強し、神頼みでさらになるテストの点アップを望むのであった。 うん?いきなり空が暗くなったぞ。


 しかも、体が動かない……。


 俺の目の前に黒い空間が現れる。 落雷の様な一瞬の輝きの後で、黒焦げになった着物姿の女子が現れる。


「ここは???」


 黒焦げの少女は不思議そうに辺りを見回す。 俺はその品の良さから、もののけのたぐいではないと思い声をかけるのであった。


「大丈夫か?」

「我は千夏姫である、この焦げた着物を変わりはあるか?」


 えーと、着替えが欲しいとな。 やはり、関わるのはよそうと神社から帰ろうとすると。


「そなた、我を見捨てるとな、父上こと信長に頼めば斬首であるぞ」


 あぁ……痛い人か……どうする……。姉貴に頼めはそれなりの着替えがあるはずだ。 少し、コミュニケーションを深めよう。


「俺の名前は『折葉 和修』だ。それで、千夏姫様の歳は?」

「一六であるぞ」


 あー……同い年か……。 ま、可愛いし拾って帰るか。 運命の出会いかもしれないが、俺の受難の始まりであった。


 神社からの帰り道、俺は自転車を押して千夏姫と一緒に歩いていた。 千夏姫は街並みが興味深いのか、キョロキョロと辺りを見ているのであった。


「お前は何処からきたのだ?」


 キョトンとしている千夏姫に俺は普通に問いてみた。


「安土城じゃ」


 ほ、ほーう。ずいぶんと遠いな。 関東圏のこの街からかなり遠いのであった。 見たところ火事にあったらしいが家出だと面倒だな。


「家出か?」

「違う、本能寺で死にかけてな、父上が命がけで助けてくれたのじゃ」


 確か父親が織田信長とか言っていたな。 これは深く考えない方がいいと感じるのであった。 姉貴に判断を任せる事にしよう。 そんな簡単な雑談をしていると、我が家のあるアパートに着くのであった。


「姉貴、帰ったぞ」


 この時間は夜勤の関係で寝ているかな……?


 千夏姫を家に上げると姉貴が酔っていた。 あー面倒くさいな。


「工場の清掃とコンビニのシフトは?」

「今日は休み。それより、その焦げた娘はなんだ?」


 姉貴は千夏姫を見て質問をする。 焦げた格好だ、当たり前か。


「神社で拾った。姉貴の服を貸してあげていいか?」


 千夏姫は酔った姉貴に脅えるのであった。無理もない。姉貴の酒癖は最悪だからだ。


「服かいいぞ、ただし有料だ」

「ふん!金など持っていないぞ」

 あいたたた、脅えていたのに開き直った、流石焦げた姫である。ま、お金を持っている方がおかしい。


「姉貴の方が悪い、タダで貸してくれ」

「ケチ、このジャージでも着ていろ」


 姉貴は高校時代のジャージを取り出して千夏姫に渡すのであった。 とりあえず、焦げた姫は卒業してジャージ姫の誕生である。


「似合う、似合う、この娘、行く所がないとな、この家に好きなだけ居ていいぞ」


 いかん、姉貴は酔っている。 このジャージ姫が居候とかしてしまう。


「千夏姫だったな、こんな狭い家は嫌だろう?」

「仮の住まいには丁度よからろう」


 OKなのかよ!と、心の中で呟く。千夏姫は姉貴と一緒に寝る事になった。

敷居など無いに等しい部屋に俺が寝るので妙な緊張感が生まれるのであった。今夜は眠れそうにないほど緊張した。


 朝、俺が学校に行く支度をしていると。 千夏姫が一緒に行きたいと言い出す。

姉貴と同じ高校だったのでジャージ姫なら目立たないかと思い、連れて行くこのになった。 自転車では不味いな、バスで行くか……。 バスに乗るとやはり千夏姫は目を白黒させる。

 

 本当に戦国時代から来たのだと思うのであった。 それから、学校に着くと体育館の水道の前で待つように言う。 いくら、ジャージ姫とはいえ校舎の中は目立つのであった。 一限を終えて水道の前に行くと居ない。


 旧体育でバレーボール部の自主練習に一緒に参加していた。 順応性あるなーと感心しつつも不味いので連れ戻す。


「せっかく、バレーボールなるものが覚えかけたのに」とブツブツ言うので、購買で菓子パンを買ってあげてご機嫌を取る。


 メロンパンを口にすると。


「甘い~この食べ物、気にいったぞ」


 さいですか……と、覚めた目で見ていると。 自転車が通り過ぎる。


「おや?あれは自転車なる乗り物、我にもくれ」


あぁん? 自転車が欲しい? 俺たちは自転車置き場に行くのであった。 すると、作業服を着た用務員さんがいる。 ダメものでいらない自転車が有るか聞いてみる。


「このパンクした自転車は持って行って構わないよ」


 結局、帰りにパンクした自転車を押して帰る事になった。


「姉貴なら直せるかな……」


 姉貴は機械修理などスペックが高く。 いつ、異世界に転生しても大丈夫なのであった。 さて、問題はジャージ姫の着替えだ。 ここはお決まりの下着選びからスタートだろうな……。

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