第20話:秘密の言葉
突然の隕石襲来を察知し、人類は新たなステージへと進化を遂げて、超能力者達が覚醒したのか。
それとも、突然人類が新たなステージへと進化を遂げた為に、覚醒した超能力者の中の誰かが隕石を呼び出したのか。
「イタコさんに捕まって、私と
その次は
時恵の顔を見ながら話を聞いていた
「あ、もうそのリアクションなしにしよっ? 私も別にあんたに当てつけで言ってる訳じゃないんだから。あくまで必要だから言ってるだけ。じゃないと説明出来ないから。分かった?」
「う、うん……」
納得は出来ないまでも、とりあえず返事だけする記代子。返事を聞きつつまた大きな欠伸をする時恵。時恵にとってはそれほど深刻な話をしているつもりがない様子。
その姿を見て、記代子も何気なくポップコーンに手を伸ばす。
「そうそう、透の話ね。
えっと、透を仲間にした何回目かの時ね。イタコさん達を避けてあの山の展望台まで行って、隕石が降って来るところを見せたのね。
そしたら透、クリティカル・インパクトみたいだって言ったの。その時は何の事か分からなかったんだけど、後で聞いたらね、隕石が降って来る前日に、クリティカル・インパクトっていう映画がやってたんだって」
私は観てなかったんだけどね、と時恵が呟く。
(クリティカル・インパクト、私も観た。隕石というか、映画では小惑星だったけど)
小惑星と隕石の具体的な呼称の違いについて、時恵達仲間全員が意識した事がなかったので、便宜上あれを隕石と言っているに過ぎない。
(小惑星とかメテオとか恐怖の大王とか
などと当時の事を思い出しつつ、時恵が続けて話し出す。
「重要なのは、前日に隕石が降って来る映画がテレビで放送されていたって事。映画でやって、隕石が降って来て、その2つと全く同じタイミングで超能力が使えるようになった。
そんな説明よりも、超能力を手に入れたから昨日観た映画みたいに隕石降らせてみた。の方がすんなり来ない?」
「言われてみれば、確かに」
「実はね、そう言い出したのは記代なのよ」
「私が?」
透が隕石が出現する前日にテレビでクリティカル・インパクトという映画が放送されていた事に言及し、そしてその影響で超能力に覚醒した誰かが隕石を生み出した、あるいは呼び出したのではないかと言い出したのは記代子であると、時恵は話す。
「記代子も観てたんでしょ?」
「えっ? えぇ、まぁね」
(透が好きそうな映画だなぁって思って、観たのよね……)
振られたけれど、記代子は透を諦められていなかった。だから、透が好きそうな映画を放送すると知り、わざわざその映画を観たのだ。
しかしまさか、その映画が現実の物になるとは思いも寄らず。
「透はさ、ハルマゲドーンの事、言ってなかった?」
「言ってた。同じような内容の映画がほぼ同じ時期に製作されてたんだってね。でもクリティカル・インパクトの方が公開が2・3ヶ月早かったって」
透にとっては親の世代の映画であり、劇場公開された時は生まれてすらもいなかった作品。透は割と映画好きであり、洋画・邦画・アニメなど分け隔てなく見るタイプだ。
その中でも何故透がクリティカル・インパクトとハルマゲドーンの裏話まで知っているのかというと。
「どっちの映画も透のご両親がデートで観たんだってね」
「へぇ、それは初めて知ったよ」
記代子は知っていたが、時恵は知らない情報だった。何度も繰り返したループの中で、透の口からは語られなかった内容。
「透のご両親はどちらも映画好きで、今もよく家族で映画を見に行くんだって」
(その話も初めて聞いたな……)
時恵は透の口から語られた事のない話を記代子から聞き、そんなに親密な関係だったのに何故記代子は振られたのかと疑問に思う。そして何故記代子を振ったのか、透に聞いた事がないという事に今さら気付く。
(透と
時恵にとって、新しい情報にはなかなか巡り会えない。何度も同じループを経験している為、ほとんどの事が知っている事なのだ。しかし、記代子の口から時恵の知らない透の情報がもたらされた。
そして、その話を聞いた以上、何で透が自ら言わなかった情報が記代子の口から出て来たのかという事も気になってしまう。
気になったなら聞きたくなる。記代子には辛い話かも知れないが、それでも気になるのだ。ほぼ全ての娯楽に飢えている時恵にとって、それは仕方のない事だった。
「ねぇ記代。どうしても聞きたいんだけど、いいかな?」
時恵がポカルの入ったペットボトルのラベルをいじいじしながら記代子に切り出す。
「気を悪くしないでほしいんだけど……」
「えっ、何?」
今まで一度も聞いた事がなくって、でも今急に気になりだして、だから聞きたいんだけどね、でも答えたくなかったら答えなくてもいいんだけど……、とぶつぶつ言い出す時恵。
そんな時恵を見て、記代子も何を聞かれるのかと構えてしまう。
「何よ、言ってみなさいよ。今まで時恵が私に一度も聞いた事がない話なんでしょ? それはもう本当に聞かないと分からない事じゃない」
そう? じゃあ聞くよ? とまたワンクッションを置いてから、時恵が訪ねる。
「記代ってさ、透に何で振られたの?」
「あ~……、その話はまだ私も透もしてなかったのね。なるほどなるほど」
いざ切り出してみると、記代子はそれほど嫌そうな顔をしなかった。想いは断ち切れていないようだったけれど、振られた事に対しては受け入れているのだろうか。いや、それであれば透の記憶を書き換えてまで付き合おうとは思わないはずだが。
時恵があれこれと考えていると、記代子がその理由を話し出す。
「透とは小学校から同じだからね、今さら恋愛関係にはなれないって言われたのよ。仲が良過ぎたのか、それとも高校に入ってから知り合った子の方が女の子ってより意識したのか。
時恵ははっきり言わなかったけど、透の彼女は夢子なんでしょう? 夢子とは小学校も中学校も別だからね、小っちゃい頃から知ってる私じゃなくて、高校生になってから知り合った夢子の方が、良かったんじゃないかな? 最初から女として意識したからとか」
それに、身体はあんまり成長しなかったしね。と笑う記代子。
(あぁ、これは確かに言いにくい話だわ……)
やっぱり悪い事を聞いたかな、と後悔する時恵の肩を、記代子がバシバシと叩き出す。
「自分で聞いといて後悔しないのっ!
それより、渡と時恵はいつから? ループが始まった後、なんでしょ? 渡に彼女がいるなんて聞いた事ないし」
「そうよ、でもまぁ吊り橋効果ってのも十分にあるけどね。
渡から秘密の言葉を聞いてるから、それさえあれば渡は私が言う事、全部信じてくれるのよ」
「秘密の言葉? 合い言葉みたいなもん?」
秘密の言葉。本人しか知らないであろう秘密を、時恵の口から本人に伝える事で、時恵が言っている事が本当であると信じさせる魔法の言葉。
仲間を何度も失って、何度も同じ説明をしなければならなかった。それも簡単には信じてもらえない事を知っている時恵は、仲間達に自分しか知らない秘密を教えてもらい、それを本人に伝えれば確実に信用してもらえるという方法を取る事にしたのだ。もちろんその時の仲間達の同意は得ている。
「へぇ……。ちなみに、私の秘密の言葉は?」
「おっぱい体そ、むぐっ!?」
「きゃぁぁぁぁ!!!!」
時恵に風呂上りに人知れず自室で行っている秘密の習慣を言い当てられ、他に誰もいないのに慌てて時恵の口を塞いでしまう記代子。
(確かに信じざるを得ないわ……)
納得する記代子だった。
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