第2話 宮瀬日和という人は

全校生徒から恐れられている生徒会室の扉の前に、おれは何故立っているのだろうか。それは見捨てられるはずの平常点のためだ。



遡ること10分前。

現代文の教科係だった自分は、土日月の週末課題を集めて提出しなければならなかった。

「佐倉さんの出ていないな」

隣の席の蒼井奏あおいかなでが「佐倉さんなら生徒会室じゃない?生徒会書記だし」と話してくる。

いつもだと一番に提出するのになあ。

提出物が平常点の一部になる。数学や化学などの苦手教科で毎回、赤点のギリギリを生きているおれにとっては平常点の大切さを痛いほど分かっていた。佐倉奈帆さくらなほさんは毎回高得点を取っていて私の心配も無用かもしれないが、もしかしたら、ただ出し忘れただけかもしれない。

一部の人にとっては、平常点は本当に本当に大事なんだよ泣。



「千夜、生徒会室に行くの?今日は火曜日だけど」

奏が心配そうに聞いてくる。

「奏。分からないかもしれないが、平常点のありがたさを知ってるか?失われる平常点があるのなら助けに行くだけだ!毎回全教科92点以上取りやがってえええ」

佐倉さんも奏も高得点を取っている。密かにこの2年B組では、佐倉さんや奏を入れたB組内の5人が天才ジニアスファイブと言われているのだ。



ジニアスファイブの足下にも及ばない宮瀬日和みやせひよりは生徒会室に向かって走る。






宮瀬日和は一人称は『おれ』だが、女子生徒であった。一種の方言だと思ってほしい。母も祖母も東北地方出身で、自身を『おれ』と呼ぶ人だった。幼い頃からその環境で育ったため、現在も使い続けている。初対面の人や教師と話すときは『私』を使っている。


宮瀬日和には一つ弱点があった。極度の人見知りだということだ。蒼井奏との会話ではそんなことはわからないが、親しい人にだけに見せる宮瀬日和の性格だった。小学生の時にはすでに人見知りが激しい方で、同学年の女子に「ぶりっ子だよね」と言われ、更に人見知りをするようになった。そして、中学校でもそのようなことがあり、仲の良い人にしか素の自分を出さないようになった。

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