魔王と願いを叶える三つ星

まほうつかい

プロローグ

これはどこかの世界のきっと本当にあったお話です、

いえ、もしかしたら無いかもしれません、

けれどあったと思う方が楽しいではありませんか。


ある日、一人の人間が一日の用を終え、帰路につきます。

彼、もしくは彼女が…これではちょっと不便ですね、

では、この人間はどこかの世界のあなた、

という事にしておきましょう。

あなたは何時ものように帰る途中、

少し疲れていたのかもしれません、

貴方は普段使わない道を歩いていました、

少し振り返って戻ろうかとも考えましたが、

幸いその道は近道の様です、

もう夜も遅いですし、

早く休みたいあなたはそのままその近道を歩き進みました。

けれど不思議です、なんだかいつまで歩いても同じような景色です、

一本道でしたし、ちょっとした裏路地の様でしたから、

辺りの景色が代り映えしないのも解ります。

けれど、すぐ横に這ってある古びたポスターは何度も見た気がします、

何枚もある同じポスターというよりは全く同じものです、

破れ方も、かすれ方も、まったく一緒です。

同じところをぐるぐる回っているような気分です、

けれどあなたは途中絵横道にそれた事はありません。

どんどんあたりが暗くなって行きます、

不安になったあなたは早足に裏路地を進みます、

今度は横道にも気を向けます、

しかし脇道は一つも見つかりません、ずっとずっと一直線です、

貴方どれほどの視力を持っているのかはわかりませんが、

視界の届く限りずぅーーーっと道が続いています。

振り返っても同じです、貴方は焦りながら道を進みます、

少しずつ歩幅も大きくなり、

いつの間にか走り出していました、

同じポスターがあります、

同じゴミ箱があります、

同じ空が貴方を見下ろし続けています。

息を切らすほど走った頃、ふとあなたを強烈な眠気が襲いました、

貴方はとても焦っています、だってこんな出来事普通じゃないでしょう?

あまり明るくない夢物語の世界に巻き込まれたような気分です、

焦るあなたは何もできませんでした、

きっと焦らなくても同じだったと思います、

貴方は眠気に身を任せざるを得ませんでした、

いつまでも続いている一本道の真ん中で、

突っ伏して眠りに落ちました。


しばらくして貴方はすっきりと目を覚ましました、

さっきまでの気だるさが嘘の様です、

すっかり元気に放ったものの、冴えた頭は直ぐに寝る前の状況を思い出します。

貴方は辺りを見渡します、

やはり寝る前と同じような景色です、

しかし違う点がありました、

まずは空です、

何だか重たそうな鈍色の雲に覆われています、少し不気味です、

多少は明るいですが霧が出ているせいで気分が悪いです。

もう一つは…

果たしてあなたはどこから入って来たのでしょう?

そこは四方を壁に囲まれた長細い場所でした、

窓も何もない武骨な壁に囲まれていました。

今気がつきましたが遠くから何か機械が動くような音が聞こえます、

ガシャガシャと文明を感じる音です、

貴方は壁に駆け寄って必死に助けを呼びました、

しかし誰も来ませんでした、

貴方は助けを呼びました、


しかし誰も答えませんでした、


貴方は助けを呼び続けました、


しかし誰も来ませんでした。



彼女の名前はアルメーナ、所謂野良の魔術師と言われる家系の出身でした、

野良の魔術師…いわゆる全てが我流の魔術師です、

大抵の野良の魔術師はならず者が多く、白い目で見られる事が殆どです、

彼女も例外ではありませんでしたが別にならず者という訳ではありませんでした、

むしろ至って真面目です、

ただ思ったことをそのまま言ってしまう彼女の性格を嫌う人は多かったようです。


彼女は今日もボロ布に両腕と首を通す穴をあけたものを初めに被り、

その上に外身だけでも小奇麗に、と必死で探した

暗い緑色のだぼっとしたコートを羽織ります。

頭には申し訳程度の魔術師要素であるコートと

同じ色の三角帽子を深くかぶり、

その三角帽子の外側についたベルトを締め付け、

アルメーナの少し小さな頭にもピッタリの大きさにします。

最期に何時だかに拾って来た黒い長靴を履き、

いつものアルメーナの姿になります、残念ながら靴下はありません。


「くぁー、ねむ…おはよ、今日は何だっけ?」


まだ眠たそうな眼をこすりながら

アルメーナは先に起きていたパートナーに話しかけます、


「今日は最終スクラップ場での仕分け、

その後に街の清掃をして夜には郵便物の配達だね。」


アルメーナのパートナーのインテンシィはそう答えます、

彼は無地の白いTシャツの上に安っぽい紺色のジャケットを羽織っています、

下にはそこそこのジーンズを履き、

靴はやはりどこからか拾って来た白いスニーカーです。


灰色の街の端の方にひっそりと建っている小さな建物、

そこにアルメーナとインテンシィの何でも屋は在りました。

二人は来る日も来る日も少ない依頼をかき集めて暮らしています、

一つ一つの依頼の報酬は少なく、

一日にいくつもこなさないと二人は生活が出来ませんでした、

いつも太陽が昇る前に起き、月が沈みかける頃に眠るのです。

さぁ今日もお仕事です。


二人はまず灰色の街にいくつかあるスクラップ場の内、

最終スクラップ場へ来ていました、

最終スクラップ場には役目を終えた車だったり、

古くなったラジオだったり、

使い捨ての魔法箱だったりが棄てられています、

これらの仕分けは人の手で行われることはあまりありません、

しかし少し前に仕分けをする機械が壊れてしまったので

仕方がなく人の手で行います、

ただ、スクラップ達を人の手で仕分けるのはとても危険です、

あちこちに尖った金属片や落下しそうな物がありますし、

誰かが失敗した毒素を持つ魔法薬などもあります、

ですから全く人が集まりませんでした、

そこで巡り巡ってみすぼらしい二人の営む"何でも屋"に依頼が来たのです。

二人は貧乏でしたしいつも依頼があるとは限りません、

いつも綱渡りの様でしたからこの依頼を断る理由は在りませんでした、

幸い報酬はとても良いのでしばらくは楽をできそうです、

勿論ここから生きて帰れたらですが。

さて、件のスクラップ場には放置された廃棄物が滅茶苦茶に積みあがっています、

これらを機械廃棄物と魔法廃棄物に分けることが今回の依頼内容です。

アルメーナは魔法を使って巨大なモノや重たいものも移動させられますが

魔法の使えないインテンシィはそうもいきません、

ですので仕事を分担することにしました、

このスクラップ場の仕事はアルメーナが、

街中の掃除を足の速いインテンシィがやることにしました、

まずはアルメーナの方から見ていきましょうか。


インテンシィを見送ってからスクラップ場の中に彼女は足を踏み入れます、

いくつかある山のそばに劣化していて見辛いですが

"機械""魔法"と描かれた四角のエリアがあります、

まず手始めにアルメーナは廃車3台程の塊に手をかざし、集中します、

塊の輪郭に薄っすらと水色の光が這うのを確認すると一気にそれを引き抜きました、

廃車達は空中に引っ張り出され、何一つ抵抗せずに

"機械"と書かれた四角のエリアの中に置かれます、

次にフラスコや試験管などのガラス片の塊を引き抜き、

"魔法"と書かれたエリアの中へ置きます。

ひたすらそれを続けます、たまに使えそうな廃品を見つけると

こそっとコートの中に隠しました、

大体半分ほどでしょうか、それくらいの山の仕分けが終わったころ、

何やら不審な影が目に入りました、

気になってアルメーナはその後を追います、

丁度山の影に隠れたそれを見つけた途端、

アルメーナは急いで身を引きました、

直後アルメーナの頭の在った場所へ致命的な熱量を持つ光線が放たれました、

その影の正体はなんとロボットでした、

正円の赤い目のようなもの付いた球体の周りに三つの三角錐が浮いています、

無機質な灰色のボディを持つそれは無人警備用に創られたロボットでした、

浮遊するその正円の本体は上下左右、

いつでもどの向きでも視線を向けられるように、

その周りの三角錐は不審な人物や要注意人物を見つけた時に

威嚇射撃をするための砲門でした。

そのまま廃棄されたようですが電源がまだ生きていたようです、

廃棄するときには必ず発電機とバッテリーを取り外すように

規約に書いてあるのに…。

アレを放っておいてはおちおち片付けも出来ません、

仕方がないのでアルメーナはそのロボットを破壊することにしました、

どうせ後でスクラップにするのです、状態は問いません、

魔法使いであるアルメーナにはいくらでも手段がありました。

リミッターか何かが外れたのか、やたらと高速で

あちこちに飛び回るロボットを魔法で狙い打ちます、

炎の魔法はあちこちに引火すると処理が大変ですし、

雷の魔法は周辺の地域の機械に影響を及ぼすかもしれません、

水や氷の魔法も同じです、

ですのでアルメーナは周辺の端材を投げつける事にしました、

これであれば投げつけた後も彼女の操作が及びますし、

空中に飛ばし、そこに留まるので空飛ぶもののない

この地域では実に扱いやすい魔法でした、

大きいものは動きが遅くなってしまうので

金属片やガラス片などを選んで飛ばしました、

常に高速で動き回る上に小柄なロボットに当てるのは至難の技で、

実際いくつも金属片を飛ばしていますが全く当たりません、

ロボットはアルメーナを完全に敵と認識したようで

彼女に向かって何発も赤いレーザーを飛ばします、

流石はロボット、優れた計算能力によって動き回りながらでも

正確にアルメーナを狙い打ちます、お見事です。

アルメーナはたまったものではありません、

相手のロボットにはちっとも攻撃が当たらないうえ

何発も当てないと静かになってはくれません、

対してアルメーナは一撃でも当たれば致命傷です、実に不公平でしょう?

アルメーナも同じことを思っていました、

必死に逃げ回りながら何か策を考えます、そこでふと、ある考えが浮かびます、

別にわざわざモノを投げつけなくても

ロボットを直接魔法でつかんでしまえばよいのでは?と、

いえ、実は初めからその考えは在りました、

ただ警備用ロボットですから当然相手が魔法使いであることも想定されています、

なのでその体は魔法を弾くように出来ている事が普通なのです、

なのでこちらの魔法は通用しないだろうと考えていました、

しかしよくよく考えればあのロボットは型落ちしている機体です、

もしかしたら魔法への耐性が弱いかもしれません、

と、いうのも最近の警備用ロボットの宣伝文句が

"旧型機に比べて魔法耐性が何%アップ!"と言ったものが殆どでしたから、

逆に考えれば旧型機は魔法への耐性が今と比べて弱く、

強化する必要があったという事になります、

まぁそれ以外によい考えも浮かびませんでしたから、

アルメーナは影から少しだけ顔を出し、手をロボットにかざします、

ロボットの輪郭に途切れ途切れで薄い水色の光が這いました、

何だか微妙ですが振り回すには十分でした、

思いっきり床にたたきつけました、


グシャ


っとおよそ金属らしくない音を立ててロボットは地面に這いつくばります、

アルメーナは右手の魔法でそのままロボットを押さえつけ、

もう片方の手で巨大な塊を持ってきました、

相手が動かないのであれば何も問題は在りません、

質量で押しつぶしてしまいましょう、それがアルメーナの考えでした、

ロボットは逃げ出そうとも ぞもぞと もがきますが

向きを変えることが精いっぱいの様です、

頭上に巨大な暴力が到着しました、後は落とすだけです、しかし、

ロボットが苦し紛れにレーザーを放ち、

そのうちの一発がアルメーナに向かって来ました、咄嗟に彼女は横に飛びます、

急な出来事だったのでうっかりロボットを手放してしまいました、

しまったと思いロボットの方を向くと…

どうやらあと少しだったのでしょう、

叩き落とされたスクラップの塊の端に先程のロボットのカメラが転がっていました、

どうやら予定通り下敷きになったようです、結果オーライです。

横槍が入りましたがアルメーナは本来の作業に戻りました、

どうやらそれ以降特に問題は起きなかったようです、

さりげなく報酬の増額を請求して無事スクラップ場の作業は終了しました。


さてその一方そのころ街の清掃をしているインテンシィですが…

えぇと、これは何でしょう?道路標識?と戦う羽目になってしまったようです、

時折街の物が化け物になったりすることはあります、少し珍しいですが、

あーあーあー、何だか元は一本の標識だったのでしょうが、

棒の部分の途中から枝分かれして滅茶苦茶に標識が生えてしまっています。

さらにその棒の部分が伸びて振り回されています、

これでは掃除どころではありません。


ぶん


と振り回された標識がインテンシィの腹を殴りつけようとします、

しかし、インテンシィは以前言った通り

とても足が速いですから走って逃げきる事が出来ました。

もうそんなやり取りを小一時間しています、

というのも標識の鈍重な動きを躱す事など

インテンシィにとっては容易い事でしたが、

インテンシィの攻撃を耐える事は

標識にとって容易い事でした、

つまりお互いがお互いに何一つ有効打が無いのです、

インテンシィの今の持ち物は竹箒一つだけです、

金属の体に打ち付けても自分の手がしびれるだけです。

ですがインテンシィは力持ちでもあります、

同じ金属で勢いを付けて思いっきり殴りつければへし折る事が出来ます、

なので先程から金属バットなり鉄パイプなりバールなりを探しているのですが…

今いる場所は貧民街、そういったものは全くなく、

周囲の住人も協力的では無いので困り果てていました、

インテンシィは手持ちの物だけで何とかしなければなりません。

今彼が戦っている場はながーい一本道です、

その両脇には昔彼自身が住んで居たようなぼろ小屋や

棄てられた二階建てのビルなんかがあります、

そのいずれも整備はろくにされておらず、モノも残っていません、

こういった建物は物取りの餌ですから…

ここでインテンシィはちょっとしたことを思いつきます、

どちらかというと先に体が動くタイプのインテンシィは

有効かどうかはあまり考えずに試しました。

まず彼は標識に背を向けて思い切り走りだします、

インテンシィは足が速いと言いましたが、

その"速い"は学校のクラスで一番足が速い、とか

地域で一番速い、とかそんなものではなく、

水面の上を走る、とか、

スポーツカーを余裕で追い抜く、とか、

夕日まで届く、とか…

そういったおよそ人間の限界を圧倒的に超えたものでした、

もちろんそれなりの助走をつけて走る必要がありましたが、

さてそんなことを話しているうちに

もう何10キロもある直線の端へたどり着きました、

10秒もかかっていないかもしれません、確か新記録です。

インテンシィはその勢いを殺さないように無理矢理方向転換し、

道を超高速で戻って行きます、

あ、例の標識が見えてきました、そこでインテンシィは少し飛びました、

暴力的な速度をそのまま標識へぶつけようというのです、

足を突き出し、

思い切り蹴り飛ばす、

いえ、真横に踏みつけ、

そして抜けます、

金属のねじ曲がる確かな感触と自身の足へのダメージを確認すると

インテンシィは全く振り返らず走り続け、

道の端までたどり着くとまた振り返り、

再び逆側から踏み抜きます。

前から後ろから、

何度も何度も。

スニーカーが使い物にならなくなり、足が血まみれになる頃、

ようやく標識は折れました、物理的に。

これでようやく掃除に戻れます、

いい加減新しい丈夫な靴を手に入れるためにも掃除を頑張りましょう。


最後は新聞配達のお仕事です、

幸い朝のお仕事のようなトラブルはありませんでした、

時間もありますし、二人はゆったりと今日会った事を話していました、


「アンタその足どうしたの?」

「ちょっと余計な作業が増えちゃってさ。」

「へぇ、余計な作業?何があったの?」

「標識を蹴り倒してた。」

「えぇ…何がどうして…化け物にでもなったの?」

「うん、暴れてたし"掃除"の範囲にも入ってたからね。」

「てことはそっちも報酬増額だね、やったわね。」

「そっちもって事はアルメーナも何かあったの?」

「うん、旧型の警備用ロボットがバッテリーも発電機も抜かれないまま

破棄されててさ、それに襲われた、まったく、

企業様はお子様にも出来るお片付けすらできないのかしら、

自分たちが扱っている物がどれだけ危険かちょっとは考えてほしいもんだわ。」

「あはは、アルメーナは相変わらず辛辣だねぇ。」

「当ッたり前でしょ?簡単に人殺せるんだからアレ、この前の廃品処理場でも

魔法カートリッジが入ったままの魔法箱とか捨ててあったし、

しかも中身は爆発の魔法。

最近ちょっと多過ぎよ、廃棄物の処理不足。アンタもちったぁ怒った方がいいわよ?」

「いいよ、別に、慣れてるし、それに追加の作業が増えれば増えるほど

報酬むしり取れるからね。」

「………やっぱりアンタが店の主で正解ね。」

「そうかな?」

「そうよ、さぁ、さっさと配達終わらせちゃいましょ?アタシ今日はもうくたびれちゃった。」

「うん、そうだね。」

「にしても今日の配達物…なんだか人探しの手紙が多いわね、やぁね、

神隠しだの人さらいだのって、物騒で嫌だわ。」

「最近あまり警備員の人も来てくれないしね、

元から良かった訳ではないけれど最近の灰色の街の治安は

本当に悪くなったと思うよ。」

「まったく!あんなに沢山いるクセになぁにやってるんだか。」

「まぁウチの稼ぎが増えるのはうれしいんだけどね、

あ、今のが最後の配達物だったみたいだね。」

「あら本当、んじゃあさっさと自転車返して帰りましょうか。」

「そうだね。」


郵便配達を無事終え、報酬を受け取ってインテンシィの新しい靴と

アルメーナの靴下を買ってから

二人は自分たちの何でも屋に帰宅します、

あ、そうそう、そういえば何でも屋は二階建てです、

一階が仕事をするためのスペース、二階は二人の生活スペースです。

二人が戻るとポストに新しい依頼が投函されていました、

いくつかはいつも通りゴミ掃除や清掃などですが、

ちょっと変わった依頼がありました。

"幽霊の調査と退治"何よソレ?とアルメーナが言います、

取りあえず明日詳細を聞いて向かう事にしました、明日は他に仕事が無いのです。


二人は軽く体を洗ってから、

二階に上がりカーテンで仕切られたそれぞれのスペースの寝床にに寝転がります。


「今日もお疲れ様、明日もよろしくね。」

「アンタもね、おやすみ。」


翌日の朝、二人は幽霊退治の依頼主に話を聞きに来ていました。

なんでも本当につい昨日、自動再開発中の領域から

助けて…助けて…という声が聞こえるのだそうです、

けれど監視カメラを確認しても立ち入った人は誰一人いません、

虫すら入っていないというのです。

このままでは不気味ですし、もし何かの間違いで人でも迷い込んでいたら大変です、

そこでインテンシィ達へ依頼したいとの事でした。

どうして管理会社に依頼しないのですか?とインテンシィは質問しましたが、

どうやらセキュリティに穴があった可能性を認めたくないようです、

アルメーナは馬鹿みたいなプライドね、と一蹴していました。

依頼場所は自動で再開発中の領域、常に壁や建物が動き、

構造が変わる危険な領域です、

何も知らない人が迷い込めば巻き込まれて死んでしまうような場所です、

その危険性は言うまでもなく、

そこでの作業という事で報酬は破格です、

危険を承知で、二人は自動再開発領域へ向かいました。

ガシャンガシャンと無機質な音が常に響き渡る灰色の迷宮です、

二人が侵入しても構わず活動しています、なんて薄情。

床が壁が天井が絶え間なく動き回ります、

その間を縫って奥へ奥へと進んで行きます、

大体声が聞こえるという領域に近づいて来たころ、

二人のどちらでもない声が聞こえてきました。

助けて…助けて…

情報道理の声です、近くに声の主が居るはずです、

ですが辺りを探しても気配は在りません、もしかして本当に幽霊?

そう思っているとふと、壁の向こうから声が聞こえていることに気がつきました、

今まで探していたところは長い長方形の外周です、

もしかしたらこの長方形の内側に空間があるかもしれません。

二人は中に侵入できる場所は無いか探しますがどこにも侵入経路は在りません。

助けを求める声が徐々に弱っている気がします、急がなければいけません。


「って言ってもどうする?どうやって開けるんだろうコレ。」

「道が無いんだからもう決まってんでしょ、喰らえ月光の魔法!」

「え?ちょ…」


アルメーナが目の前の灰色の壁に手を向け、蒼い光を放ちます、しかし一撃では壊れません。


「かったいわねコレ、さっさと壊れなさい!どうせ幾らでも代わりはあるんでしょ!?」


アルメーナは次々蒼く光る魔法の球を打ち込んでいきます。

辺り一帯が塵や埃で出来た霧に覆われた頃、

ようやくその壁に風穴があきました、やはり空洞はあったのです。

霧が晴れ、空洞の奥が見える様になります、そこには見知らぬ人が立っていました、

ええ、お待たせしました、そう、あなたです。

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