不本意の入れ替わり

「おはよう由理。」

「香夜おはよう。」


香夜はクラスのムードメーカー。入って早々女子バスケ部の時期エースでこのクラスのリーダー的存在でもある。それに比べて私は、能力を発動しないように帰宅部で目立たないようにしている。そんな私にいつも朝、香夜は話しかけてくれた。これは入学してから2ヶ月が経った朝の話。


「由理なんで部活入らないの?バイトとかしてないんだよね。」

「私は一人でいる時間が好きなの。」

「私にはそうは見えないよ。話しかけたら話返してくれるよね。」

「それは…。」


部活に入って憧れが出来てしまえば能力が発動してしまう。それに仲良くなったチームメイトと楽しく会話なんてして良いなとか思ってしまっても入れ替わるのだから、正直香夜ともあまり会話したくない。


「一人でいたいなら無視すればいいのになんで?」

「私に構わないで…。」


私は憧れや親友を作ってはいけないのだ。心配してくれたのに拒絶してしまったんだ。これでもう話しかけてくることはないだろう。


「なんでそんな表情でそんな事言うの。何か理由あるの?悲しそうだよ。」

「悲しくなんか…。」


心にぐさって来てしまった。私だって親友は作りたいし、憧れを持ちたい。でも入れ替わってしまったら私の体で2時間何されるかと思うと恐ろしい。入れ替わった相手だって自分の体で何されるのか不安になるはずだ。


「折角、クラスメイトに慣れたんだし悩み話してごらん。相談でもなんでも乗るよ。」


ここまで心配されたのは、初めてだった。入学して経った2ヶ月しか経ってないまだよく知らない他人なのに。私は幼い時にこの能力を知ってから人を避けるために冷たい言い方であしらって来た。今回も冷たくあしらったのに。


「ありがとう。でも構わないで…。」

「話せないんだね…。話せる時になったら話して来てね。私は待つよ。じゃあ席に着こうか。」


そういうと席につき、暫くして先生が教室に入ってきて朝のホームルームが始まった。そして一日の授業を終え、私は家に帰宅した。


「ただいまお母さん。」

「おかえり由理。」


お母さんは私が帰宅するといつも出迎えてくれる。


「ねぇ由理。高校生活はどう?」


お母さんは毎日のように私に聞いてきた。新しい環境に馴染んでいるか気になるのだろう。


「大丈夫だよ。異能の発動はしてないし、仲良くしてないよ。」

「由理、無理させてごめんね。」

「大丈夫だよ。慣れているから。」


本当は仲良く出来そうな子と仲良く出来ないのがきつい。でもお母さんを悲しませたくはなかった。


「私部屋に行くね。」

「ご飯になったら出てくるんだよ。」

「了解。」


私は2階に上がり自分の部屋に行った。宿題を終わらせてお母さんに呼ばれて1階のリビングで食事を摂り、1階のお風呂に入って上がった頃には21時半を過ぎていた。私は自分の部屋に戻り寝ようとする。


「今日ホームルーム前に心配かけてしまったな。」


私は心配かけてしまった事を反省していた。私を構ってくれるのは実は嬉しい。でも良いなとか憧れてしまっては異能が発動してしまう。私は人に興味を持ってはいけないのだ。


「本当は…いや、考えてはダメだ。入れ替わってしまう…。」


ほんの少し考えるのならギリギリ大丈夫らしいが、その人に対する憧れや褒めたりする気持ちを露わにしたら入れ替わってしまう。喜怒哀楽では入れ替わらないのが幸いでもある。喜怒哀楽で入れ替わっていたら今の私はややこしい存在となっていただろう。


「香夜、今なにしているんだろうな…あ、考えてしまった…。」


反省なんてするんじゃなかったと更に反省したがもう遅かった。


「急に眠気が…こんな感覚久しぶりだなぁ…ベットにいてよかった…。」


私は丁度ベットで考えていたため、そのままベットに寝る形で気を失った。数分後目が覚めた。

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