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　幽（ゆう）邃（すい）たる地球へ巨（きよ）億（おく）の閃（せん）光（こう）が邁（まい）進（しん）してゆく。

　怒（ど）濤（とう）の輪（りん）廻（ね）を超（ちよう）克（こく）した魂（たましい）たちが二〇世紀へと回帰する。

　わたしは輪（りん）廻（ね）した。潺（せん）湲（かん）たる歴史の大河を遊泳したわたしは幽（ゆう）邃（すい）たる魂（たましい）となって故（こ）郷（きよう）である亜（あ）米（め）利（り）加（か）合衆国はテキサス州へと墜（つい）落（らく）していった。婀（あ）娜（だ）なる母親の肉体へと憑（ひよう）依（い）したわたしは駘（たい）蕩（とう）たる父親の操縦するボーイング757のなかでふたたび生誕した。悲（ひ）愴（そう）なる生（しよう）涯（がい）が回帰をはじめた。孤（こ）独（どく）なる少年であるわたしは蒼（そう）穹（きゆう）に憧（しよう）憬（けい）を馳（は）せて高（こう）邁（まい）なるパイロットである父親は悲劇へといざなわれていった。悲劇を髣（ほう）髴（ふつ）としながらもわたしは沈（ちん）黙（もく）をつらぬいた。巍（ぎ）峨（が）たるUSA航空の瀆（とく）職（しよく）を告知することはなく鬱（うつ）勃（ぼつ）たる慙（ざん）愧（き）の念を抑（よく）圧（あつ）しながら運命に霊（れい）肉（にく）をゆだねた。悲劇は勃（ぼつ）発（ぱつ）した。澎（ほう）湃（はい）たるエンジンの故（こ）障（しよう）によって駘（たい）蕩（とう）たる父親の操縦するボーイング757は万（ばん）斛（こく）の犠（ぎ）牲（せい）者（しや）とともに炎（えん）上（じよう）した。正義感を放（ほう）擲（てき）しなかった父親だけが生（せい）還（かん）した。暗（あん）澹（たん）たる歴史を豹（ひよう）変（へん）させるためにも無（む）辜（こ）の犠（ぎ）牲（せい）者（しや）たちを裏（うら）切（ぎ）ってしまったことをわたしは懺（ざん）悔（げ）した。わたしは邂（かい）逅（こう）した。悲（ひ）愴（そう）なる墜（つい）落（らく）事（じ）故（こ）による遺族である情熱的なる少年が蕭（しよう）寥（りよう）たる展望デッキに鎮（ちん）魂（こん）の花輪を捧（ささ）げながら語りかけた。いわくぼくたちは闘（たたか）わなければならないと。ぼくはまず弁護士になって悲劇の真実を暴（あば）いてみせるよと。

　混（こん）沌（とん）たる戦場に銃（じゆう）声（せい）と爆（ばく）音（おん）が響動（とよ）めいている。

　熾（し）烈（れつ）なるボスニア・ヘルツェゴビナの戦場をわたしは遍（へん）歴（れき）した。勇（ゆう）敢（かん）なるボスニア・ヘルツェゴビナ側の傭（よう）兵（へい）部隊とともに混（こん）沌（とん）たるボスニア・ヘルツェゴビナ紛（ふん）争（そう）が猖（しよう）獗（けつ）をきわめる修（しゆ）羅（ら）場（ば）をくぐりぬけていった。瀆（とく）職（しよく）の最高経営責任者＝CEOがに鉄（てつ）槌（つい）をくだそうとしていたわたしは虚（きよ）偽（ぎ）の死亡宣告をうけるために贋（にせ）物（もの）の遺留品を故（こ）郷（きよう）へと郵送した。わたしは奮（ふん）闘（とう）した。驍（ぎよう）毅（き）なる肉体の猛者（もさ）となっていたわたしは澎（ほう）湃（はい）たるボスニア・ヘルツェゴビナ紛（ふん）争（そう）による犠（ぎ）牲（せい）者（しや）を解放するために闘（とう）争（そう）しつづけた。正義感だけがわたしを突（つ）き動（うご）かしていた。満（まん）身（しん）創（そう）痍（い）となりながらも最前線で激（げき）闘（とう）をつづけたわたしは毫（ごう）釐（り）なる報（ほう）酬（しゆう）を義（ぎ）捐（えん）金（きん）として墜（つい）落（らく）事（じ）故（こ）による遺族へと密送した。計画は破（は）綻（たん）した。幽（ゆう）邃（すい）たるダラス・フォートワース国際空港において訣（けつ）別（べつ）したはずの情熱家の青年と遼（りよう）遠（えん）なるボスニア・ヘルツェゴビナの戦場において邂（かい）逅（こう）を果たしてしまったのだ。暗（あん）澹（たん）たる事（じ）故（こ）の関係者が義（ぎ）捐（えん）金（きん）の密送者ではないかと睨（にら）んで万（ばん）斛（こく）の遺族のなかでわたしだけが失（しつ）踪（そう）していると察知したらしい。奇（き）妙（みよう）なる死亡宣告の真実を穿（せん）鑿（さく）してゆき韓（から）紅（くれない）の遺留品が郵送されたボスニア・ヘルツェゴビナの戦場へと潜（せん）入（にゆう）したのだという。情熱家は狂（きよう）喜（き）した。辣（らつ）腕（わん）の弁護士となっていた情熱家は憂（ゆう）鬱（うつ）なるわたしを抱（ほう）擁（よう）しながら毅（き）然（ぜん）と物語った。いわくあなたも企（き）業（ぎよう）家（か）に天（てん）罰（ばつ）をくだそうとしているのだろうと。あなたの特（とく）殊（しゆ）なる能力によってわたしを援（えん）助（じよ）してくれないかと。

　轟（ごう）然（ぜん）たる霹（へき）靂（れき）が霧（きり）雨（さめ）のなかの邸（てい）宅（たく）に響（ひび）きわたっている。

　わたしたちは邁（まい）進（しん）した。莫（ばく）大（だい）なる財産を掠（りやく）奪（だつ）して義（ぎ）捐（えん）金（きん）にせんとするわたしは寝（しん）室（しつ）へ瀆（とく）職（しよく）を弾（だん）劾（がい）するための証（しよう）拠（こ）を渉（しよう）猟（りよう）する情熱家は書（しよ）斎（さい）へと闖（ちん）入（にゆう）した。翡（ひ）翠（すい）色の雷（らい）光（こう）によって明（めい）滅（めつ）した写真を目（もく）撃（げき）したわたしは邃（すい）古（こ）羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）の叛（はん）逆（ぎやく）者と青年期の最高経営責任者＝CEOがが酷（こく）似（じ）していることをさとった。濁（だく）声（せい）が響（ひび）いた。憂（ゆう）鬱（うつ）なる顔（がん）貌（ぼう）で熟（じゆく）睡（すい）のふりをしていた最高経営責任者＝CEOが輪（りん）廻（ね）の痕（こん）跡（せき）に喫（きつ）驚（きよう）しているわたしに朴（ぼく）訥（とつ）と語りかけた。漆（しつ）黒（こく）のベールで顔（がん）貌（ぼう）を隠（いん）蔽（ぺい）している謎（なぞ）めいた女性が来訪して邃（すい）古（こ）から現代までのわたしと最高経営責任者＝CEOの運命を告知したのだという。絢（けん）爛（らん）たる邃（すい）古（こ）羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）における叛（はん）逆（ぎやく）を髣（ほう）髴（ふつ）とした最高経営責任者＝CEOがに邃（すい）古（こ）羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）の皇（こう）帝（てい）であったわたしのために犠（ぎ）牲（せい）になってほしいと冀（こいねが）ったらしい。最高経営責任者＝CEOは告白した。いわく瀆（とく）職（しよく）を糾（きゆう）弾（だん）する書物と執（しつ）筆（ぴつ）者（しや）の暗殺を依（い）頼（らい）するための拳（けん）銃（じゆう）を廓（かく）寥（りよう）たるわたしの書（しよ）斎（さい）に秘（ひ）匿（とく）しておいたと。冒（ぼう）瀆（とく）的なる復（ふく）讐（しゆう）の証（しよう）拠（こ）に激（げつ）昂（こう）した情熱家は蠱（こ）惑（わく）的（てき）なる女性の予言のとおりにわたしを殺害するだろうと。瀟（しよう）洒（しや）なる扉（とびら）がひらいた。悲（ひ）愴（そう）なる最高経営責任者＝CEOの思（おも）惑（わく）をさとったわたしは獰（どう）猛（もう）なる顔（がん）貌（ぼう）のまま拳（けん）銃（じゆう）を握（にぎ）り締（し）めている情熱家に獅（し）子（し）吼（く）した。やめろと。すべては罠（わな）だと。轟（ごう）然（ぜん）たる雷（らい）鳴（めい）のなかに暗（あん）澹（たん）たる銃（じゆう）声（せい）は掻（か）き消（け）された。

　幽（ゆう）邃（すい）たる密室には静（せい）寂（じやく）が瀰（び）漫（まん）していた。

　わたしたちは沈（ちん）黙（もく）していた。厳（げん）粛（しゆく）なる裁判によって死（し）刑（けい）を宣告されたわたしは暗（あん）澹（たん）たる顔（がん）貌（ぼう）のまま沈（ちん）黙（もく）している情熱家を熟視していた。真実の完全犯罪が完（かん）遂（すい）されたら訣（けつ）別（べつ）しようという盟約を放（ほう）擲（てき）して殺（さつ）伐（ばつ）たる監（かん）獄（ごく）へと情熱家は来訪してしまった。鬱（うつ）悒（ゆう）たる情熱家は物語った。孤（こ）独（どく）なる最高経営責任者＝CEOの嘱（しよく）託（たく）自殺は完（かん）璧（ぺき）に演出されて莫（ばく）大（だい）なる財産はあなたの指示どおりに事（じ）故（こ）の遺族へと義（ぎ）捐（えん）したと。遺留品に残されたわたしの指（し）紋（もん）は前科がないために記録がなく弁護をわたしに嘱（しよく）託（たく）してくれたために冤（えん）罪（ざい）は見破られなかったと。情熱家は尋（じん）問（もん）した。いわくほんとうにわたしのために死んでくれるのかと。わたしが真犯人であると告白すれば死（し）刑（けい）は覆（くつがえ）せるかもしれないと。わたしは解答した。蒼（そう）白（はく）なる唇（くちびる）を痙（けい）攣（れん）させている情熱家に毅（き）然（ぜん）とささやいた。もちろんだと。わたしのためにあなたが死んでくれるようにと。凄（せい）絶（ぜつ）なる顔（がん）貌（ぼう）の情熱家は沈（ちん）黙（もく）したままわたしを見（み）詰（つ）めていた。