　琥（こ）珀（はく）色（いろ）の燭（しよつ）光（こう）が幽（ゆう）邃（すい）とゆらめいていた。

　真（しん）珠（じゆ）色の蝋（ろう）燭（そく）は熔（よう）解（かい）しながら萎（い）縮（しゆく）していった。

　神秘的なる魔（ま）術（じゆつ）師（し）は断章を抄（しよう）訳（やく）していった。いわく五百万年の歴史が悲劇の終（しゆう）焉（えん）をむかえることにより巨（きよ）億（おく）の全人類は閉（へい）塞（そく）した輪（りん）廻（ね）の大河に翻（ほん）弄（ろう）されることとなると。五百万年の歴史におけるすべての人間に輪（りん）廻（ね）したのちに巨（きよ）億（おく）の全人類はふたたび最初の肉体へと帰（き）還（かん）するほかないのだと。澎（ほう）湃（はい）たる歴史の終（しゆう）焉（えん）が阻（そ）止（し）されないかぎり怒（ど）濤（とう）の輪（りん）廻（ね）のなかで永（えい）劫（ごう）に悲劇を繰（く）りかえさなければならないと。魔（ま）術（じゆつ）師（し）は翻（ほん）訳（やく）をつづけた。怒（ど）濤（とう）の輪（りん）廻（ね）を超（ちよう）克（こく）して自由の魂（たましい）となったものだけは悲劇の執（しつ）筆（ぴつ）者（しや）であるわたしへと転生して運命を豹（ひよう）変（へん）させられると。巨（きよ）億（おく）の運命の執（しつ）筆（ぴつ）者（しや）であるわたしそのものは輪（りん）廻（ね）の大河から隔（かく）絶（ぜつ）されているためにふたたび蘇（そ）生（せい）はできないと。茫（ぼう）邈（ばく）たる宇宙を永（えい）劫（ごう）に彷（ほう）徨（こう）する魂（たましい）となって巨（きよ）億（おく）の人類の魂（たましい）を著作のとおりの運命へといざなうのであると。魔（ま）術（じゆつ）師（し）は沈（ちん）黙（もく）した。荘（そう）厳（ごん）なる顔（がん）貌（ぼう）のまま翻（ほん）訳（やく）を中断した魔（ま）術（じゆつ）師（し）は蠱（こ）惑（わく）的（てき）なる執（しつ）事（じ）に邃（すい）古（こ）の巻物をゆだねてわたしを熟視した。いわく流（る）浪（ろう）者に翻（ほん）訳（やく）できる断章はここだけだと執（しつ）筆（ぴつ）されていますと。百年にわたる羈（き）旅（りよ）をつづけてきたあなたの希望するものもすべてはすでに執（しつ）筆（ぴつ）されていますと。わたしは分（ぶん）水（すい）嶺（れい）におちいった。清（せい）楚（そ）なる乙（おと）女（め）のような微（び）笑（しよう）をうかべた魔（ま）術（じゆつ）師（し）は琥（こ）珀（はく）色（いろ）の燭（しよく）台（だい）を摘（つ）まみあげながら慇（いん）懃（ぎん）に決断をせまった。いわく瀆（とく）神（しん）の契（けい）約（やく）により悪（あく）魔（ま）に魂（たましい）さえ捧（ささ）げれば怒（ど）濤（とう）の輪（りん）廻（ね）を超（ちよう）克（こく）して自由に転生できるようになりますと。獰（どう）猛（もう）なる悪（あく）魔（ま）に魂（たましい）を捧（ささ）げたものは巨（きよ）億（おく）の全人類を愛してしまった瞬（しゆん）間（かん）に永（えい）劫（ごう）に破（は）滅（めつ）しますと。