第6話 神の手

 耳慣れない声に目を覚ますと、レペセセはいかにも水夫すいふらしい三人の西洋人に見下ろされていた。

 沖に大きな帆船はんせんが浮かんでおり、浜には手漕てこぎの小舟が引き上げてあった。

 男たちが口々に喋り出した。

 ようやく何が起きたのか分かった。奇跡だ。

 レペセセは夜通しの悪夢にまだ朦朧もうろうとする頭を振り、ファナフェの寝床へ駆け寄った。

 幼子はかすかな寝息を立てていた。悲しいほど軽いその身体をささげ持つようにして戻り、困惑しきりの男たちの前にひざまずいた。

 涙ながらに助けを求めた。

 いつか聞いた、意味さえ知らない彼らの言葉で。

「トレジャ! トレジャ! トレジャ……!」



 お前も一緒に来い。

 ファナフェを抱えて小舟に乗った水夫たちの一人が、身振り手振りでそううながしてきた。

 レペセセは心に残された最後の力を振り絞ってその誘惑に耐え切った。

 ファナフェを乗せた帆船はひどくゆっくりと海の彼方に消えていった。

 レペセセは老いた身体を浜に投げ出した。

 虫の羽音が聞こえたが、あえて身動みじろぎをしてまで逃げねばならない理由などないように思えた。

 仰向あおむけになって目を閉じたまま、レペセセは断罪だんざいの羽虫に我が身をゆだねた。

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Treasure ~明日散る花~ 夕辺歩 @ayumu_yube

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