第5話 悪い夢

 日が沈んで星が出た。炎は夜の浜辺を赤く照らして燃え続けた。

 ファナフェの衰弱は時を追うごとに進んでいった。

 レペセセはくたくたになった身体を椰子やしの根元にあずけてぼんやりと考えた。

 病苦びょうくあえぐ哀れなファナフェを、一体どうすれば楽にしてやれるだろう。

 ファナフェがまたつらそうなうめき声を上げた。レペセセはのろのろとその側に寄った。

 汗ばんだ身体をぬぐってやるために、み置きの水に海綿かいめんひたした。

 ふと、その海綿をしぼるほどの力、たったこれだけで充分なのだという思いが頭をよぎった。

 篝火かがりびを背にした我が身が落とす濃い影の中、濡れた両手が、いつの間にか幼子の首を強くめていた。

 我に返ったレペセセは短く叫んで飛び退いた。

 せきをするファナフェもそのままに、椰子の木まで駆け戻って幹にひたいを打ち付けた。

 満天の星の下、彼は年甲斐としがいもなくすすり泣いた。



 あらがっても抗っても引きずり込まれる、看病の合間に見る夢の中で、レペセセは、例えば浜に燃え続ける緑がかった炎の中にファナフェを投げ込んだ。その細い首を椰子の実のようにひねってもいだ。砂浜に深い穴を掘って埋めたり、波間に放り込んだりもした。

 その度に悲鳴を上げて目覚め、彼は病児びょうじの口元に恐る恐る耳を近付けた。

 早く楽にしてやれとささやく自分と、頼むから止めてくれと叫ぶ自分。

 両者の間で引き裂かれ、身悶みもだえしながら、魂を火刑かけいしょされるようなレペセセの長い夜は過ぎていった。

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