第4話 最下位なのには理由がある

 



 

「諸君、ご苦労だった」


 博士の発言に、各々事務所で休憩中である。


 髪先の枝毛を発見したピンクはげんなりしながら口を開いた。


「博士ー、超臭くてセクハラ発言されたので臨時ボーナス欲しいですぅ」

「予算がない」

「金欠戦隊なんてダサいですぅ」


 更にげんなりしたピンクの横で、ブルーが博士に頼まれてマグロ大王を冷凍保存してやりながら答えた。


「フッ。貧困に喘ぎつつも他者救済の何と崇高なることよ」

「でもブルーさんもブレードを超合金に変えれたら嬉しくないですぅ?」

「フッ………」


 無言が肯定のブルーである。


 うおおおお!!!と腹筋するレッドから離れながら、博士は腕を組んで一同を見回した。


「ふむ。だが予算がないのは諸君らにも原因があるんだぞ」

「うおおおお!!! 次は腕立てだ!! イエロー!!」

「あははは! いけー! レッド号ー!」


 イエローを重し代わりに乗せ、腕立て伏せをするレッド。既に半裸である。イエローは一向に前に進まぬレッド号でも、上下運動で楽しいようだ。


「お前たちは他県戦隊と比べても強い。しかし、強すぎるあまりテレビ陣が到着する前に倒してしまう」

「だってさっさと終わらせて帰りたいですしぃ。怪人って全部きもいんですもん」

「フッ。俺の瞬足の居合の練習に相応しいだけだ」

「バンバーンって早くしたいしー」

「うおおお!!! 俺は皆を守るぞおおお!!!」

「………意識飛びそう」


 一名別解答だが、兵庫県の怪人発生率は他県と比べて少ない訳ではない。日中の発生率は平均的であり、それどころか本人達は自覚していないが他県に比べて二段以上強敵が現れている。


 1個人が1戦隊クラスの面々が集っているのだが、彼等には如何せん足りていないものがあった。


「それに戦隊ランキング大会にも参加しろと言ったのに全員サボっただろう」

「俺は!!! パトロールを怠るつもりはなあああい!!!」

「人間はバンバン出来ないから興味なーい」

「参加費自腹1万円とか論外ですぅ。時間の無駄ですぅ」

「フッ。ミステリアスこそブルーの宿命」

「………ぐぅ」


 冷蔵庫からお菓子を取り出してレッドの上で食べ始めるイエロー。既に話に飽きている模様。


 そう、戦隊ヒーローでありながら超自分本位主義。それが戦隊カラーズが強さを持ちながら番付け最下位の理由である。一応ランキングには各個人の人気度や地域貢献度、怪人撃退数その他なども隠れ採点としてあるのだが、戦隊カラーズは色々とお察しである。偶に博士が報告をサボることもある。ゲフンゲフン。


 しかし理由はまだ他にもある。


「どうせ行っても本部組に田舎者弱者とバカにされるだけですよぅ」

「む。諸君の実力ならそんなことはないだろうが」

「博士の買い被りは謎ですぅ」

「フッ。猿共の挑発など聞かぬが最上」


 ヘルメットに手を当てポーズを決めるブルーだが、膝が笑っている。実は以前東京東本部組に一度会った際に、めっためたに暴言を吐かれた記憶があるのである。そのせいで若干涙目になって本部組きらい、こわい病を発動していたので、東京東本部どころか大阪西本部にも行きたくないようだ。


 慎ましい訳ではなく欲望に各々素直だが、そもそも名誉欲や興味が無い上に自分達を過小評価しているので、わざわざ馬鹿にされに行く戦隊ランキング大会など行きたくない。


 そんなこんなで予算は欲しいが、強いのにランキング最下位という謎戦隊の出来上がりである。


「困った奴等だな。ブラウン、お前も何か言ったらどうだ。お前がスカウトしてきた面々だろう」

「……」


 博士がブラウンに水を向けると、各々珍しいと言いたげにブラウンを見た。

 戦隊には幼少時から強力な異能を見出されて育てられたヒーロー、いわゆる本部出向組だけでつくられた貴種戦隊と、数名本部組を組み込んだ雑種戦隊、そして全員が在野の県内からスカウトされて出来た野良戦隊がある。戦隊カラーズは全員がスカウト組なので野良戦隊と言えた。2代目の。


 ブラウンは眠たげに欠伸をすると、一同を見回す。若い学生たちは興味深そうにブラウンを見る。


「そうだな、とりあえず……」


 頭を掻こうとしてそういやまだメットを被っていたかと手を下ろすブラウン。


「名誉もテレビ映りも必要だろうが、戦闘中に気にしてどうする。金があっても命あっての物種だ。今まで通り即撃退でいいんじゃないか」

「うおおおお!!! ブラウン!! その通りだ!!!」

「お金は欲しいですけど、わざわざ面倒も嫌ですしねぇ」

「フッ。纏めると俺達はこのまま栄光のビクトリーロードを駆けるのみ」

「バンバン出来たら僕いいやー!」

 

 頭が痛そうに眼鏡を拭く博士の前で、机に突っ伏して寝るブラウン。ブラウンの過去を知るからこそ、博士はそれ以上何も言わずに肩を竦めた。

 それに、この自由気ままな戦隊員を気に入って支援しているのは他でもない博士の意志なのだから。


「では諸君、そろそろ時間だ。気を付けて帰りたまえ」


 各自、時間をずらして帰っていく。戦隊スーツを脱げば、一般人と同じだ。まぁ髪色が独特なので調べれば分かってしまうのだが、お互いプライベートにまで踏み込んでいかないのも曲者ぞろいの戦隊が纏まれている理由であろう。


 学生隊員達が帰った後には、まだ机の上で眠りこけるブラウンが居る。


「珍しく喋ったじゃないか」

「博士が聞いたんだろう」


 肩を竦める博士は、冷凍マグロ大王を地下室の中へと落として入れる。扱いが雑だが、凍ったマグロと人間は重いのである。

 ガンゴンと痛そうな音が地下室から木霊する。


「……うるさい」

「レディーを手伝わない男が言うセリフではないと思わないか?」


 夕焼けが窓から差し込み始めると、ブラウンの茶色いスーツの影が段々濃くなっていく。


 博士はそれを目を細めながら見ていた。


「お前の教えはどうやら各隊員に染み込み過ぎているようだな」

「……それでいい。子どもが命を賭けるなんておかしいからな。いざとなれば自分本位に命を優先して逃げたらいい」

「ふん」


 博士は鼻を鳴らして”初代戦隊カラーズ最年少の時から戦闘に携わるブラウン”へのセリフを飲み込む。

 ”お前は逃げないのだろう”などと言っても、仕方のない話だ。


「3時間後に起こしてやろう。それまでしばし休むといい」

「………ああ」


 無精ひげの生えた口元はまだ20代の男を老けさせて見せる。しかしだらしなさよりも心配が先に立つのは、腐れ縁が理由か、それとも過去の贖罪か。せめて寝る間くらいメットを脱いではどうかと声を掛けようとして、それこそ無粋だと博士は静かに地下室のドアを閉める。


 夕焼けが沈み、闇夜の時間がまもなく訪れようとしていた。




 






次話 夜ブラウンさんようやくおはよう

トネコメ「残酷描写タグを程好く働かせるぜ!」




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