第2話 人間色々 人間だもの


 




「うおおおおお!!! 腕立て1000回!!!」


 暑苦しい雄叫びを上げながら鼻息荒く半裸で腕立て伏せをする男。戦隊カラーズのレッドである。なお仕事中は全員各カラータイツと目鼻を覆う各カラーヘルメットを被っているので、顔は見えない。ちなみにカラータイツは身体能力向上や防御性、各耐性に優れているのでダサいと言ってはいけない。様式美である。不平不満は最初にこのデザインを採用したお国に言おう。


 という訳で話をレッドに戻す。レッドの鍛え上げられた肉体は素晴らしいが、如何せんパンプアップし過ぎて室内の平均気温を体感5度近く上げている。


「わぁ、素敵ですぅ」


 媚び媚びに媚びまくった桃色の声を上げたのは、隊員ピンク。ピンク色のふわふわした髪は愛らしく、パツパツのスーツは胸部を強調しておりお色気キャラとして及第点だ。なお、他称サゲマン女である。言った者は自らその言葉の意味を体感させられるが。


「フッ。相変わらずむさ苦しい男だ。フッ。外でやればいいものを」


 壁に凭れながら青いメットに手を当てて言うのは隊員ブルー。簡単に括られた青い長髪は腰まで伸びている。涼し気な声と細身の身体。腰に下げたブレードは侍を思わせた。戦隊ヒーローなのに。

 なお、異能持ちの戦隊ヒーローのほぼ7割が一度は罹患する中二病という魔の手に骨の髄まで侵されている。


「ねぇねぇ、バーンってやっていい? やっていい??」


 楽しそうな声を上げて銃を構える動作でバン、バーンと遊ぶのは隊員イエロー。無邪気で天真爛漫な様子はある意味戦隊カラーズのムードメーカーだ。なお、この無邪気さのまま敵をハチの巣にして遊ぶ、ガトリングハイになりやすい。一番年下の少女の嗤声は、敵の中でも悪名を轟かせているようである。


「………ぐぅ」


 そんな個性的な面々の中、一番端っこの隅で椅子に座って腕を組み俯く男。全身茶色の通り、名を隊員ブラウン。県内人気どころか知名度も最下位の戦隊一番年長男である。唯一見える口元も無精ひげが生えているので、全身からだらしなさという文字が透けて見えるほどだ。


 中高生ばかりの4人の中、唯一29歳というオジサン片足枠である。なお、オジサンと呼ぶと少し間があってから傷付いた返事が返って来るので許してあげて欲しい。


「うおおおおお!!! ブラウン!!! また寝てないかーーー!!?」

「フッ。彼も歳なのだろう。フッ。有事の際は俺達だけでも十分だし、寝かせてやろうじゃないか」

「うおおおおお!!! 熱血が足りん!! 足りんぞうおおおおお!!!」

「………」


 関わりたくないのか、寝落ちたのか、沈黙のブラウン。


 今日も今日とて予算の少ない戦隊カラーズの小さな事務所で休憩時間を各々過ごしていると、突然バーン!!と勢い良く事務所の扉が開けられた。


 各々がそちらを見ると、太陽の逆光を背負い、白衣に手を突っ込んで胸を張る成人女性。


「諸君、怪人が現れるぞ。出動だ」


 白髪と三角眼鏡は博士キャラの宿命か。予算削減の為、マネージャー兼凶器のマッドサイエンティスト係でもある博士である。なお、凶器は誤字ではない。イエローと銃談義する時の博士の顔は、確実に悪の組織側とだけ言っておこう。


「応!!!!」

「はぁ~い。面倒ですぅ」

「承知した」

「バンバーンってするのー!」

「……まじか……」


 若干一名、既に死にそうな声音だが、全員が事務所を出て行く。年齢不詳を謳う博士は一番最後に出ようとしたブラウンの肩を叩いた後、振り向いたブラウンに笑顔で告げた。


「今日も入ってるから」

「………博士、働き方改革は……」

「正義の味方だろ?」

「………了解です」


 茶色いヘルメットの下で目の下の隈が一層濃くなった気がするブラウンであるが、学生カラーズは元気いっぱいだ。若いっていいね……。


「敵さんどこー? あははは、早くバンバンしたいなー!」

「イエローちゃんが今日もクソヤバイですぅ」

「えへへへ、大丈夫、怪人さんしかバンバンしないよー!」


 一気に疲れが増すブラウン。

 ブラウンは今日も今日とて太陽の下で、ふらふらとゾンビの様に出動するのであった。





 

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