第2話 ルコ【 小夜啼鳥|Nattergalen】
若干電話が落ち着いた、午後三時くらいに軽いあくびをしながら、眠気覚ましくらいの感じで話しかけてきた。
「天気いいよねぇー。こんな日は公園で仕事したい…」そう言いながら、唇と鼻の間にボールペンを挟みながら、僕が答えないのを確認したけれど続けた。
「なんかさー。すごいよね小夜さん。
みんなすごい避けてるじゃん?怖がってる人もいるしさ。」
僕は、避けてるだけでなく、疎ましく思っている人がほとんどだといった方が正しいと思っていた。
「お友達いないじゃん?お昼どこで食べてるのかなぁ?」
気になるところが不思議なポイントだと思ったが、きっとルコにとっては大事なポイントなのだ。
ルコは「何食べてきたの?」という質問を、お昼から帰ってくると、必ずしてくる。
今日も、「パスタ」と答えると、嬉しそうに、「そうきたかー!スターバーックス!」とゲラゲラ笑って、「麺類当たった!」と周囲のみんなに小躍りしながら吹聴する。
「愛だね!麺類当てたのも愛だよ!何でもわかるんだよ!愛があればね!!」
「えー?当たり?当たりなの…?」
異論を唱えたくてしょうがない同僚は、諦めて携帯を出した。
「もうっ!!はい、はい、愛だね。」
不満げにスターバックスの携帯チケットが取引されていた。
「あれであたりって、ひどくない?
そもそも、なに?あれ。必殺技?その叫び方。」
「スターバーックス!!ラブカムバックトゥユー!まながみさまやで!
「ひー!もうっ! うるさい!渡さんとタタリそうやんかよー! 」
僕の食事が賭けの対象になっているのを意に介せず、小夜さんはメガネを外す動作から、机上を片付け、立ち上がるまでを一つの流れるような遅滞のない所作で扉を開けて出て行った。
部署内に響き渡る、ルコが発する喧騒を、小夜さんは、全く意に介さない、彼女だけが無音の中にいるようなシーンだった。
おそらく、僕は呆けたように、一連の動きを見ていたのだろう。
ルコが強く、肘で僕の側頭部を打った。
「みとれんな!」
目から火花が飛んだ。
周囲の喧騒が、僕の中に戻ってきたけど、小夜さんは、本当にどこでご飯を食べているのだろう。
2〜3日あとに、昼休みの小夜さんを見た。
少し汗をかきながら、小走りで横断歩道を渡ろうとしてクラクションを鳴らされていた。
普段、無表情な彼女が、ちょっと困った顔をして、頭を下げながら、猫背のまま歩道を渡りきった。
隠れるように角を曲がっていく。
あと15分くらいなら…ちょっと時計を見て思った。
言い訳を考えなきゃなと思って、そんな卑屈な自分に嫌気がさしたが、好奇心が勝った。
彼女がたどり着いたのは、二階建てのアパートで、時計をみながら鍵を回して中に入ろうとして、躊躇し、あたりを見渡した。
本能的な行動なのだが、もし、小夜さんがその場所を知られたくないのであれば、すでに遅い行動だと思わず、苦笑いした。
彼女は、すでに、クールさがなかった。
その扉の向こうには誰がいるんだろう?
この部屋は、だれの部屋だろう。
覗き屋の気分だった。
携帯電話が鳴った。着信相手はルコ。
出ると、「スタバのダークモカフラペチーノ!買ってきたし!戻ってきたら一緒に食べようし!」
「もうすぐ仕事に戻るよ?もう、昼休み終わる…。
取引先の人と、ばったり会って、ちょっと話してるから…。」
「しゃーなし!」
ルコはそう言って携帯を切った。
もう、時間切れ。
会社に帰ろう。
ドアの向こうを覗き見ることはできなかった。
なんだろう、この家。誰だろう、この部屋の持ち主は…。
謎と、好奇心ががさらに深まった。
小夜さんの家かな。
今度、社員名簿、見る機会があったら、住所を確かめてみようと思った。
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