第23話 思えば久々だなあなどと思いつつ、ユアはかつんと杖を鳴らした
思えば久々だなあなどと思いつつ、ユアはかつんと杖を鳴らした。
視線を巡らせば、リーンが挑発を使ったわけでもないのに集まってくる住民たち。
それに対するは、ユアを中心に、道の前後をリーンときらりんが分担して請け負う形での布陣。
リコットはユアのそばで左右の援護に回るというある意味一番負担の大きいポジションだが、ユアからのなでなでをいつでも頂戴できるのでむしろかたくなに譲る気配がない。
領域の広さの関係で繰り出した道の真ん中、必然囲まれる状況はやや落ち着かないが、頼れる仲間がいれば恐れの一つもなかった。
久々というのも大袈裟なものだが、ここまで移動中心だったこともあり活躍の場がなかったのは間違いなく。少しは気合を入れてみようと息を吸い、そしてユアは詠う。
「『スター』
『
頭上に光球、足元には赤く光る円が広がり、弾けるスパークが仲間たちに力を与えた。
時間を2倍=10minとしての発動でMPが半分以上持っていかれるが、まだまだ余裕はある。
『プレイヤー【ユア】のALVが上昇しました』
『【領域魔法】ALV.1→ALV.2』
『魔法【
『魔法【
「おお?」
発動と同時にアナウンス。
なにやら新たな魔法を習得したらしい。
それを確認する前に、ユアは視線を向ける仲間たちに笑みを向けた。
「『みんな、ガンガンいこう』」
「ん」
「うっしゃー!『こいやおらぁあああ―――!』」
「絶滅させてやるっす!」
リーンの『挑発』が響き渡り、言われるまでもなく殺到していた住民たちにきらりんが斬りかかっていく。
その姿をにこにこと眺めながら自分もスターに指先で指示を与えつつ、ユアは視線操作で新しい魔法を確認した。そして詳細を読み、それがこの瞬間にも役立つことを把握すると即座に声を上げる。
「新しい魔法覚えたから使うね!」
「おめでとう」
「きたー!」
「おっ!おめっす!」
「ありがと」
戦闘中にも関わらずきちんと視線を向けてくる面々に笑みを向け、それからユアは詠う。
「『
ユアの言葉に応え、領域がひときわ強く光る。
その光は渦を巻くようにユアの正面に集まると、ぷく、ともちのように膨れあがる。
そうして領域から浮かび上がったのは、ユアの腰より少し高いところまである赤い光の球体。
領域を走るのと同じスパークを纏ったそれは、気勢を示すかのようにぶるりと震えた。
『
領域を守護する存在を召喚する魔法であり、『
「すてき」
「ひゅおー!かっけー!」
「召喚っすか!助かるっすね!」
「すごいことになってるもんね」
ただでさえ数が多いこのエリア、さらにリーンの『挑発』により、戦闘開始直後というのにすでに周囲から迫る住民たちは普段ならば避難していておかしくない程度の数になっている。今のところはリーンの方もきらりんの方も敵を通す様子はないものの、この調子で敵が単調増加すればいずれ呑まれるのは間違いなく。特にきらりんの方など、リーンに多くのヘイトが向かっている分リコットの援護が必然的に多くなっていた。
そこに加わる新戦力とあって期待が集まる中、ユアは新たな仲間にさっそく指示を与えた。
「きらりんの援護お願いできる?素通りしそうなのを攻撃する感じで」
「(ぴょん!)」
了解を示すように飛び跳ね、それからマジックボールは小走り程度の速度できらりんの方へと向かう。そしてその勢いのまま、全身からひと際大きくスパークを散らしながら住民の一人に体当たりを仕掛けると、住民は盛大に跳ね飛ばされて他の住民を巻き込んで倒れた。
その一撃で住民は光に弾けるが、その戦果を誇りもせずにマジックボールは次の獲物目掛けて飛んで行く。
「おおー、強い」
「助かるっす!」
「いーなー」
「また今度ね」
「っとお。ありがとー!」
新しい仲間との共闘にうらやまし気な声を上げたリーンが住民に掴みかかられそうになったところで、ユアの指示によるスターの攻撃がそれを妨害する。リーンは即座に住民を殴り飛ばし、それからにこやかに礼を言った。
ずいぶん余裕そうではあるが、ユアやリコットがいなければ恐らく今頃リーンはタコ殴りにされている。信頼、というよりは単に能天気だろう。いつまで余裕が持つだろうと、ユアはひそかにわくわくしている。
そんなこんなで新戦力が追加され、戦闘の様相もおおむね安定してくる。
きらりん&マジックボール、リーンによる領域前後の防衛。
リコットがそれをちょくちょく援護するように光弾を放ち、ユアは主にリーンの方へスターによる狙撃と、みんなのモチベーションを維持するための純粋な声掛けを行う。
数えるのがおっくうになる程度の数に4人+1+1で戦闘を継続できるのはひとえに敵の弱さゆえだろう。
きらりんが長剣を棍棒を振るえば容易く転がる住民たちは他の住民たちの障害になり、暴れまわるきらりんにその手が届くことはあり得ない。
リーンが大剣を振るえば直撃した住民はほぼ確実に即死し、そうでない住民も巻き添えになぎ倒される。
リコットの魔法で脳天を撃ち抜かれればやはり一撃で葬り去られ、スターの攻撃ですら面白いように転がってしまう。
そんな相手だからこそ、さながら無双ゲーのごときこの戦闘が成立していた。
そしてその状況に変化が訪れるのは、住民たちの絶対数があまり増えなくなってきた頃のこと。
しばらく前にスターが時間切れを迎え、そろそろ領域の制限時間も迫ってくるというタイミングで、それは小道から現れた。
まずそれを見つけたのはユアだった。
「きらりん、武器持ったのが来てる!注意して!」
「っす?」
ユアの言葉にきらりんが視線を巡らし、そしてそれを見つける。
それは、周囲の住民と同じ人間だった。
違うのはその身にシンプルな金属製の防具を装着し、長剣とバックラーを装備していることと。
そして、
「はやっ!?」
住民たちを押しのけて(自然と道を開けているように、ユアには見えた)、その戦士はきらりんめがけて
その速度が特別速いということもなかったが、徒歩より遅い住民たちを相手にしていたきらりんはほんの一瞬虚を突かれた。
即座に気を取り直すものの、その間にも戦士はきらりんへと接近、その手に持つ長剣を両手で振り下ろすッ!
「ははっ!」
その速度と勢いに、もろに喰らえば紙装甲の自分では大打撃であることを確信したきらりんは、獰猛な笑みとともに体を捻り危なげなくそれを回避。いかに速かろうと強かろうと捻りもない大上段からの振り下ろしなど喰らってやる道理もなく、きらりんはお返しとばかりに自らの長剣をその首に叩きつける。
人体を砕く鈍い感触に口角を吊り上げ、
「きらりん!」
「っ!」
―――悪寒。
ユアの叫びとほぼ同時にきらりんは後方に跳躍。
その瞬間きらりんの攻撃をものともせずに前進しながら振り上げられた長剣がきらりんの前髪をかっさらう。
目の前を過ぎる長剣に目を爛々と輝かせながら体勢を低くして着地、と同時に弾むように跳躍すると腕の隙間から長剣を喉元に突き込み、そのまま強引に押し飛ばす。戦士がたたらを踏んで数歩後退するのに合わせ接近、足元をしたたかに蹴り飛ばし転がすと、抵抗も許さず上から喉を突き潰す。
ビクンと弾みそのまま動かなくなった戦士は、それでようやく光の粒子に消えた。
「ひゅう、ちょっぴり強敵だったっす」
「過去形は早いかも」
「っす?」
にこやかにそんなことを言うきらりんに、ユアはやや苦い表情で告げる。
言われてきらりんが視線を巡らせば、今まさに小道から追加の戦士が一体姿を現すところだった。
さらに当然のように、リーンの元へもひとり現れているのをユアは確認していた。
「いける?」
「当然っすね!」
「まっかせろー!」
ユアの言葉にきらりんとリーンが応え、そしてさらなる戦いが始まる。
■
《登場人物》
『
・周囲を見つつスターに指示を与えつつ応援しつつステータスを眺める。脳みそいくつあるんだろうこの人。目もいいし。お荷物系女子な綾さんですが、そういう部分で役立っていきましょう。
『
・思いっきり暴れられてたのしー。無双ゲーかな?とはいえ人間ひとりってやっぱりかなり重いので、大変っちゃ大変。速度とパワーで押し切るのだ!
『
・油断してやられそうになってるよこの人。鼻くらい削がれてもよかったかもしれない。でもヒロインの鼻がそぎ落とされるのはさすがにあれかなって。ほのぼの!ちなみに戦闘中一番いい顔してるので、その後ろ姿からそれを察知した綾さんはめっちゃうれしそうにしてました。いつか正面から見たいなあとか。
『
・じわじわMPが不足してくるけど、まだ余裕。どういう運用してんだこいつ。まあなでなで効果ですね。自然回復速度が速まるだけですが、上手く休みを作ればほぼ無尽蔵になんとかやっていける感じ。相性抜群だね。
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