第24話 とはいえそう長々と戦闘を継続できるような余裕はない
とはいえそう長々と戦闘を継続できるような余裕はない。
領域の制限時間も迫っており、そもそもそろそろ避難時と考えていたのだ。
それはリーンもきらりんも十分に分かっており、短期決着を目指し各々戦意を滾らせる。
どうやら戦士が向かうリーンやきらりんからは住民のヘイトがはがれるらしく、その分を受け持つことになるリコットやマジックボールも余裕ではいられない。
『プレイヤー【ユア】のLVが上昇しました』
『LV.10→LV.11』
『MINが1ポイント上昇しました』
戦士の到達に先駆けマジックボールとリコットが住民を仕留めたところでレベルアップを告げるアナウンス。
それと同時、一足早く戦闘が始まったのはリーンだった。
疾走しその手に持ったメイスを振り上げる戦士に対し、リーンは普段通りの構えで大きく腰を捻り、そして即座に溜めた力を解放する。
「『
言葉に応え、リーンの大剣を包む赤い光。
ユアの視界の隅で、リーンのLPバーが20%ほど減少する。
『
LP20%を消費する代わりに一撃の威力を跳ね上げるスキルだが、当然ユアはそんなことは知らない。
あれはなんだろうと首を傾げるユアの疑問など置き去りに振るわれた大剣は、今まさにメイスを振り下ろさんとしていた戦士の胴体に直撃、その身体を防具をへし折って吹き飛ばした。
「ふしゅるぅ……!」
口の端から吐息を零しながら、大剣を振り切ったリーンは戦士の飛んで行った方へと鋭い視線を向ける。その先で戦士が光に弾けているのを確認すると、リーンはにやりと笑みを浮かべ勝鬨を上げた。
「っしゃおらぁー!」
「すっごぉ」
恐らくは自分の知らないなにかを使ったのだろうとユアにも分かるものの、それでも一撃で仕留めて見せたリーンに、ユアは素直に感心してぱちぱちと手を叩く。
それに照れ照れ笑いつつ、リーンは周囲の住民を倒しに走る。
そんなリーンの反対側、きらりんの方でも一足遅れて戦闘が始まっていた。
先ほどはやや苦戦を見せたきらりんだったが、その表情に気負いは一つもない。
きらりんの方へと向かう戦士の獲物は、斧。
片刃の手斧に、これは固定なのか金属製のバックラーを装備している。
「秒で片づけてやるっす!」
きらりんは両手の武器をインベントリに収納すると、身体を前に投げ出し転ぶ寸前というほどの傾きから地を蹴り跳躍するように走り出すことで初速から最高速に乗せ戦士へと突貫する。
咄嗟に反応を見せ手斧を振り上げる戦士だがワンテンポ間に合わず、それを踏まえたうえできらりんの行動を阻害するように片手でバックラーを構え姿勢を低くする。
戦士が手斧を振り下ろすよりも一瞬早く到達したきらりんは前進するように突き出されたバックラーに手をかけ跳躍、一瞬の倒立を経て回転しながら戦士を飛び越える。その最中戦士の頭上にて斧を持つ手を掴めば、当然着地に向けて落ちるきらりんの体重に引かれた戦士の肩は関節可動域を超越しがぎゅっと音を立てる。とはいえそのまま回転とはいかず真後ろより上向きで突き出される状態で止まる腕を掴んだまま着地、自分の腰で戦士の腰を跳ね上げるようにして勢いよく身体を倒すことで戦士を背負い投げ飛ばす。
ついでに力を失ったその手からするりと手斧を抜き出して拝借したきらりんは、顔面から地面に叩きつけられた戦士の後頚部に手斧を二度ほど振り下ろしとどめを刺した。
「一時避難!」
そうしたところで、ユアの号令に従い一行は手近な建物へと駆けこむ。
小道からまたしても姿を現していた戦士に一応扉の前で警戒してみるものの、しばらくしても扉が破られたりという様子はなかった。
「討伐数かなんかがキーなのかな、あれ」
ほっと一息つき、普段通りになでなでタイムに移行しつつ、ユアは言う。
移動中心の時には姿を現さなかった戦士、その出現条件として考えられることはそんなものだろうという意見に、きらりんやリコットは頷いて同意を示す。リーンはにゃんごろとユアに甘えるのが忙しいのでそんな興味のないことに意識は向けない。
「どおりでバリエーション少なすぎるとは思ってたっす」
「狩り続けてたらもっと増える感じかなあ」
「多分そうっすね。そこまでやるのはちょっときつそうっすけど」
「そうだね」
弱いとはいえ物量というのはやはり脅威であり、あの戦士がさらに数を増せば下手すれば全滅の可能性もなくはないと思える。ここで狩りをするにあたっての一つの目安くらいに考えておこうとユアは思い、そういえばとリーンに視線を向ける。
「リーン、さっきあれをやっつけたときに使ったのってなに?」
「んー?すきるー」
「いつの間に覚えたのそれ」
「10にレベルアップしたとき『
「おめでと」
「ありがとー」
にこにこ笑うリーンの頭を撫でつつ、確かにそれなら使う機会がなかっただろうとユアは納得する。
「スキルなら私もさっき覚えたっすね」
「おお。おめでと」
そこにのっかるきらりんは、ぽいぽい投げてはキャッチしていた手斧をくるりと手の中で回しながらユアにステータス画面を見せた。
接近戦闘に関係しそうなアビリティをちまちま取得していたきらりんなので、スキルを覚えそうなアビリティはそこそこ有している。
なかでも今回スキルを習得したのはリーンと同じ『
『
先ほど奪い取った手斧も、『窃盗』によるものだった。
「『窃盗』はかなりありがたいっすね。先輩はないんっすか?」
「まず『
そう言ってユアが視線をリコットに向ければ、リコットは首を振る。
「レベル上がったけど、覚えなかった」
「そうなんだ。残念」
「リコットの方が先に上がったんっすね……」
「あはは、そうだね」
思えば『
といっても先ほどのレベルアップを経てSPの増加もなく、またアビリティにもさして惹かれるものはなかったので軽く眺めて終了だ。
リーンに関しても同じで適当に流し見しておしまい、きらりんはリーンと同じく『ボディービルド』を狙っていたがEXPが不足していたためいったん置きでステータスを割り振ったら終わりだ。
それに対して、リコットは色々と変化があった。
まず、レベルアップにやや先駆ける形で『陣魔法』がレベルアップしている。聖光属性と同時に取得していたりする闇呪属性の新魔法すら一度も出番がないというのに、これで更に新たな魔法を習得した訳だ。
更に、新規取得アビリティが一度にふたつ。
まずは『魔力弾』という魔力の弾を射出するアビリティ。
陣魔法『
そしてもうひとつが、『連結魔法』という新たな魔法系統。
陣魔法と同時に運用することで陣魔法の効果を拡張するという代物だ。
陣魔法を主体で使用していくリコットからすれば取得しない手はなく、これは迷いなく取得した。
そんな訳で、陣魔法の新魔法に加え新たな魔法系統、さらにアビリティまで加わり、リコットの戦闘の幅が大きく広がることになる。
リーンやきらりんと異なって戦闘狂的な側面は有さないリコットなのでさっそく試してみたいというようなわくわくはさほどないものの、ユアを守る、役に立つという面で戦力の強化は望ましいことで、リコットはそこそこ分かりやすく(ユア基準)上機嫌になった。
そうなればもちろん、ユアはリコットの晴れ姿を見たくなってしまうというもの。
むしろユアがわくわくしているくらいで、MPの回復を待った一行はそれから再度街に繰り出した。
■
《登場人物》
『
・もしかして私魔法使ってなさすぎ!?森では結構歩きながら戦闘とかしてたし、都市に入ってからは言わずもがな。むしろ今回MIN上がったの奇跡かもしれない。さすがにMP消費が大きいと上がりやすい。そもそも領域は(あと連結も)ちょっと上位な魔法なので、まあつまりそういうことですよ。すっちんぱねえ。
『
・怪力バカですね。STR中心のステ振りな戦士が強撃を乗せることで単純にダメージ増加、その上ボディビルドで上がった身体能力と大剣の質量による物理的パワーからくる一撃必殺。戦士は肉体的に市民よりやや強靭だけれどそれでも人間レベルなので当然耐えられないのだった。
『
・奪ったままゲットできたということは……?言うまでもない。そろそろ装備変えたいと思ってたっす。武器はあればあるだけいいというタイプの人間なので、武器が向こうから歩いてきてくれる都市はいい場所ですなあ。
『
・筆者がこらえ性なさ過ぎて大幅強化。本当は連結魔法はもう少し後で出てくる予定だったんですけど、まあ別にそこまでもったいぶるほどのものでもないですし。どのみちこの都市で活躍の場はなさそうですし。むしろ魔力弾の方が……。次回を戦闘回にするかこれまでみたいにすっ飛ばして翌日に移行しちゃうか……なやみんぐ。
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