第22話 扉を開けば、一行に向けられる視線たち

 遅ればせながら、更新です

 申し訳ない

 ―――


 扉を開けば、一行に向けられる視線たち。

 しかしその数は大通りよりもかなり少なく、密度もまばらだ。


「これなら距離稼げそうっすね」

「どれくらい向こうから来るかにもよるけど」


 言いつつ、ユアは建造物の脇の小道へと視線を向ける。

 ひとつ向こうの大通りからユアたちの方へと向かってくる住民は現時点でもちらと見えた。

 数は少ない分狭い道なので、数が増えた際の動きにくさは恐らく大通りよりもひどいだろうことは間違いない。


 どちらにせよ立ち止まる理由もないと、ユアたちは街道に打って出る。


「ずんずん行くっすー、う?」

「おっ」


 行く手を阻もうとする住民を蹴り飛ばしたきらりんの後ろから、ひゅうと飛んできた光の玉が倒れたその住民に追い打ちをかけるように直撃する。


「おおー」

「おー!」


 それはユアの頭上のスターが放った攻撃だった。

 威力はさほど大きくないのか住民を一度弾ませる程度だったが、それでも初めての攻撃的行動であるという事実にユアはなんとなく歓声を上げ、リーンはそれに釣られて面白がるように声を上げた。


「さすがにしょっぱいっすねー」

「まあ補助的なやつだと思うし、しかたないかな」


 きらりんの辛辣な評価にユアは苦笑する。

 吹き飛ばした相手を追撃して確実に倒せるのならそこそこ役に立ちそうなものだが、進みながらの戦闘である今回では倒せない追撃にさしたる意味はない。

 それに、どうやらずいぶんと移り気らしいスターの攻撃はきらりんの攻撃で倒れなかった相手に向くらしく、その後数度の攻撃での戦果は皆無だった。


 それをもって使えないとは思わないユアだが、この場面ではあまり役に立てないらしいというのは認めざるをえない。


「せめて狙いをつけるとかできたらいいんだけどなー」


 せっかくの新戦力に活躍の場を与えられないことに少ししょんぼりするユアは、手慰みにスターをつんつん突きながらぼやく。

 実体があるのかないのかよく分からない感触と穏やかな温もりになんとなく癒されていると、スターはまるで言葉に応えるようにふよりと震えた。


「……あそこ」


 ふと試しにユアが指をさすと、スターはそれに従い光の玉を放つ。

 それは前方で道をふさごうと迫る住民の足に直撃し、体勢を崩した住民は近くにいた住民を巻き添えに転がった。


「おおー」

「おっ、ないすっす!」

「やるなー!」


 討伐とはいかなくとも分かりやすい貢献を見せたスターに、きらりんやリーンは感心した様子を見せる。リコットもやや見直したような視線をスターに向けており、ユアは少しうれしくなった。


「よーし、この調子で転ばしてくね」

「助かるっす!」


 ユアの指示ありきとはいえ活躍して見せたスターに、ユアは意気込んで指示を出していく。

 そうして、スターの威力で最大限に住民たちの動きを阻害しようというユアの指示のおかげできらりんやリコットの負担がほんのり軽減されたということもあり、大通りのときよりも速い進み出より長い時間移動してから、一行は建造物の中に避難した。


「いい感じっすね!」

「ね。着いたはいいけど探索する時間ないなんてことにならなさそうでよかったよ」


 声を弾ませるきらりんにユアは頷き、労うようにスターをなでなで。

 もちろん一行へのなでなでも欠かせず、なでなですべき対象が増えたおかげでユアは休憩中ひたすらに腕を動かし続けることになった。


 そんなこんなで、それからも再度移動を繰り返す。

 その最中にきらりんとリコットのレベルが上がったりしつつ(LV.8→LV.9)進むことしばらく、ユアたちは目的地である例の大きな建造物の元へとたどり着いていた。


「とりあえず逃げ込もう!」

「りょーかいっす!」


 目的地が目前にあるからとやや無理をして住民の群れをこじ開けたユアたちは、住民の群れに追われながらその建造物の入り口を目指す。


 他の建造物の3倍程度の規模を持つ一方で高さとしては2階層分程度しかない、豆腐建築という言葉がなんともふさわしいと思えてくる建造物。

 その入り口は扉や門のようなものもないあけっぴろげで、そもそも逃げ込んだところでヘイトが切れるのかという一抹の不安はあったものの、それでも他に選択肢もなくユアたちは一目散にそれをくぐった。


「でっかー!」

「わぁ」

「いかにもっすねー!」


 と同時にリーンが眼を丸くして歓声を上げるのに同じくユアときらりんは声を漏らすが、そんなことよりと住民たちを振り向く。

 そしてどうやら住民たちは他の建造物と同じように入ってこないらしいということを確認すると、ほっと息をつき、それから改めて室内に視線を向けた。


 そこは、ただっぴろい空間だった。


 四方に入り口のある、外観から想像できるのと相違ない四角い部屋。ただ他の建造物と違いその内部は滑らかな金属で形成されており、光源らしき光源もないというのに明かりが隅々までいきわたっている。その中央にはメカニカルな台座に天井まで届きそうな巨大な水晶玉のようなものが鎮座しており、水晶玉の内部には薄ぼんやりと光る文字列のような模様が刻まれている。


 ミニマップの名前は『中央管理塔99F―エントランスポータル―』

 ここがこの都市の街エリアらしく、リスポーン地点に登録することができた。


「これはまた、そそるっすね」

「なんとなく見覚えがある感じ」

「ん」


 思い返されるのは、冒険者ギルドにあったあの台無しSF球体。

 今回は超文明という触れ込みもあり、また内装的にもさして違和感を感じさせはしないものの、文字列の雰囲気やその物々しさは共通するところがある。


「リーン」

「ういういー!」


 どちらかといえば冒険者ギルドの方が技術力が高そうだったことはひとまず置いておいて、ユアたちはとりあえず同じように近づいてみた。


 なにやら先にいたプレイヤーたちから微妙な視線を向けられつつも、気にすることなく近づいて、近づいて。


「おほー」

「なし、かー」


 間近までやってきて球体に映りこむ自分の顔と見つめ合うリーンを愛おしげに見つめつつ、ユアは呟く。

 近づいてはみたものの、ウィンドウがポップアップしてくることはなかった。


「なんもないっすねー」


 きらりんが球体をぺちぺち叩くが、やはり反応らしきものはない。


「ポータルっていうくらいっすし、絶対これなんかあれっすよね」

「ね。てっきり、まだ見ぬ下の階に行けるものだと思ってたんだけど」


 言いつつ、ユアは足元を見る。

 ミニマップに曰くここは99Fだ。地表一階が99Fなのはやや気にはなるものの、どう解釈したとしても下の階はあると考えられるだろう。


 それにつながるなにか―――ポータルというには、転移装置のようななにかがこの球体なのだろうと当然に思っていたユアとしては、はしごを外された様な気分だった。


 それなら仕方がないと、それからユアたちは、ぐるりとその部屋を回ってみる。


 が、特になにも発見なく一周してしまう。


「……まさかここ、これだけ?」

「ん」

「そんなはずない、と思いたいところなんっすけどね」

「あははー!しょぼー!」


 けらけら笑うリーンの声がやけに響く。

 なるほどこういう理由で視線が集まっていたのかと、ユアは心底納得させられた。


「んー。どうしよっか」

「びみょーな時間っすね」

「他のエリアとかだときつそうだよね」


 最初のカフェや移動でそこそこ時間を使ってしまったようで、明日の仕事のことを考慮するとログアウトのリミットまでは残り数十分といったところ。これをどうすれば有効活用できるかと考えてみるものの、選択肢はそう多くなかった。


 ユアはリコットに視線を向け頷きを得ると、口を開く。


「まあ、じゃあ、狩りでもしよっか」

「おっけー!」

「先輩それ猟奇殺人者っぽい発言っすね!」

「私も思った」


 そういう訳で、一行は残りの時間を住民狩りに費やすことにしたのだった。


 ■


《登場人物》

ひいらぎあや

・攻撃手段ゲットだぜ。自らの手を汚さず指示を出し、さらに人間相手の戦闘を狩りと表現する。そこだけ見るとやべえやつでしかない。異世界ファンタジーの悪徳貴族も真っ青。姫……?


柳瀬やなせすず

・いつも楽しそうでよかったですね。ところでほんとに働いてないの君だけになっちゃうよ?大丈夫?抱っこしながら口に大剣咥えて戦うとかやっとく?いやしませんけどね。まあ鈴は鈴なのでしかたなし。


島田しまだ輝里きらり

・敵少ないと倒しやすくていいよね。おかげでキル数は純粋に増加しております。とはいえそれでも移動優先なのだ。なのだ……!


小野寺おのでらあんず

・出番と発言がすくなすぎるよぅ。「(こくこく)」「(じぃっ)」とかそんな感じの動作擬音表現をねじ込もうかと考え中。でもそんなことしたら杏さんが可愛すぎるかもしれない……。

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