第21話 建物から出るなり集まってくる住民たち
建物から出るなり集まってくる住民たち。
それをきらりんが弾き飛ばしてできた道を、一行は進んでいく。
立ち並ぶ建造物よりははるかに意味ありげな、街道の奥、背の低い建造物を一応の目的地として定めているのだが、やはり敵の数が多く進みは遅々としたものだ。定期的に建造物に入ることで散らしても、絶対数が多いためすぐ囲まれてしまう。
「どうにか一気に突き進みたいもんっすね」
「リーンがいたらどうにかなる、かな?」
「ぬ」
何度目かで建造物に一時避難。
きらりんのぼやきにユアが見上げれば、リーンは反抗の意を示すようにユアを抱きしめる。
そもそもユアの移動という観点から今のお姫様抱っこになったはずなのだが、リーンにとってはユアを抱っこするということが重要になっているらしい。戦線に出るということは必然それがユアとの分離を意味するので、絶対に戦ってなるものかと考えているようだ。
「いや、やっぱきついと思うっすよ」
これじゃ本末転倒だと困った顔をするユアに、苦笑しながらきらりんが言う。
「もちょっとステ上がったら分からないっすけど、流石にあの量を薙ぎ払うとか無理だと思うっすし」
「まあ、そっか」
「むぅ」
住民たちに集られて身動きが取れなくなるリーンをありありと想像できてしまったユアは神妙に頷き、それはそれで不満なリーンが唸る。
まったくわがままだと苦笑するユアがリーンの頭をなでなでして宥めれば、自然とリコットが寄ってきて当然なでなで。負けじと深呼吸で腹をくくったきらりんが「わたしもっす」とおねだりして、当然ユアは応えた。
満悦しつつ、リコットが口を開く
「大通り、避ける?」
「ああ、それもありかな」
リコットの提案は、そもそも囲まれるのは住民の数が多いせいであり、大通りを避ければ比較的人数も少ないのではないかというものだ。
ユアはなるほどと頷くが、きらりんが頬を染めながらも難しそうにしわを寄せた。
「小道とかで挟まれたらやばくないっす?」
「あー、でも素早く突っ切ったら囲まれる前に抜けれそうな感じもない?」
「それくらいならがんばるよ!」
ユアのなでなででご機嫌なこともあり、また短時間でかつ囲まれて袋叩きにされる心配がないとあって俄然やる気を見せふんすと意気込むリーン。
きらりんはふむふむと考え込み、それから奥の方へと視線を向けた。
「抜けた向こうがどうなってるかっすよね」
「比較的少なかった」
「いつ見たんっす?」
「部屋の窓」
「ああ、なるほど」
はてな?と尋ねるきらりんに当然のように答えるリコットは、最初に建造物内を軽く探索した際にその向こうの通りを確認していたらしい。
流石目ざといと、ユアはご褒美に頬っぺたをもにもにした。
そんなリコットの言葉を信用すれば、速やかに小道を抜けて建造物の裏に出てしまえば大通りを進むよりも楽に進行できるようになるかもしれないということで。
それからは特に反対意見はなく、一行は建物の脇を抜けてその裏に移る作戦を決行することにした。
「じゃあ行くっすよ?」
「うん」
「おっけー!」
「ん」
建物の中で打ち合わせを行った後、扉に手をかけて振り向くきらりんに、ユアたちは頷いてみせる。
それに頷きを返し、きらりんは「っしゃ行くっす!」と勢いよく扉を開き飛び出した。
即座に続くはリーンで、ユア、リコットが続く。
「道を開けるっす!」
「『
小道までの障害となる住民たちを、先駆するきらりんとリコットの魔法が弾き飛ばす。
そうしてできた空間をリーンが突っ切り、あっという間に小道へと。
「数5!ぶっちぎるっす!」
「まっかせろぃ!」
住民に飛び膝蹴りを喰らわせながら小道をチラ見したきらりんの言葉に応えながら、リーンは大きな一歩とともに姿勢を低く手を突いてブレーキングする。横滑りするようにクラウチングスタートもどきの体勢で停止、一呼吸を噛み潰し全力でもって地を蹴り飛び出す。
「うぉっしゃー!」
前方の敵は5人。ポジションでも決まっているのかというくらいに等間隔に並んでいる。
小道はひと三人が並べる程度でしかなく、無視していくにはやや狭い。
ゆえにリーンは当然にその5人を全滅させるつもりで突貫する。
小道への侵入から最寄りの住民との接触はほんの1秒もなく、目が合ったその瞬間には突貫の勢いを乗せた拳をその顔面に叩き込み弾き飛ばしていた。残心などなく、即座に倒れこんだ住民を踏み抜き砕きながら駆けだす。1人。
全速力で駆ける2人目とのすれ違いざまその腕を掴み引きずり、そのまま前方の1人めがけぶん投げる。反作用で仰け反る身体を強引に前のめりに、衝突しもみ合うように転げた2人の手前で片腕を持ち上げ、その手の中に実体化させた大剣を光の粒子を振り払うがごとく重力とともに叩きつける。3人。
叩きつけると同時に大剣を収納することにより反動をキャンセル、勢い余って転びそうになるのをとっさに手をついて支えそのまま地面を飛び越えるように加速、前方の1体を掬い上げるようなショルダータックルで持ち上げもろともに疾駆する。次の1体の手前で大きな一歩によりブレーキングすることで連れていた住民を跳ね飛ばし大剣を実体化、半身になるようなタックルの姿勢をそのまま抜刀のような構えとして流用し、通路との摩擦で火花を散らしながら両手で握りしめた大剣を勢いよく振り上げ2人の住民をもろともに斬り上げる。5人。
ついでに小道の奥からひょっこりと現れたひとりへと振り上げた大剣を叩き下ろし、計6人。
「パーフェクトー!」
よっしゃーと歓声を上げつつ、小道を抜けたリーンはその向こうの住民が侵入しないようにと守りに入る。
それからすぐ、綺麗に片づけられた小道を抜けてユアたちが追い付いた。
「グッジョブリーン!」
「ないすっす!」
「ん」
「はっはー!どーだー!」
自慢げに言いつつ、合流すればお役はごめんと、リーンは寄っていた住民を適当に薙ぎ払うなり即座に大剣をしまってユアを抱き上げる。
『プレイヤー【ユア】のLVが上昇しました』
『LV.9→LV.10』
『SPを2取得しました』
『LUCが7上昇しました』
「ゆーあー!」
「わ、もう、避難してからね」
「これなら普通に抜けれそうっすね!行くっすよ!」
うりうりと甘えてくるリーンを宥めつつ、きらりんを先頭にひとまず手近な建造物に避難。
「ゆぅーあぁー!」
「まったく、甘えたさんだなあほんと」
扉を閉じて一息つく間もなく、ほんの短時間ですら苦痛だったのだとほおずりしてくるリーンをユアはわしゃわしゃ可愛がってやる。
ひとしきり可愛がったところで、当然すり寄ってくるリコットと毎度毎度戦地に赴くかのような緊張とともに身を寄せるきらりんを交えてなでなでタイム。
「あ、そういえばレベル上がったんだ、さっき」
「わたしもー」
「めでたい」
「おめっす。10レべっすか。なんかキリいいっすね」
「あはは、そうだね。結構早かったような、そうでもないような」
言いつつ、ユアは視線操作に切り替えステータスを開く。
先ほどのアナウンスで気になっていたことがあったのでそれを真っ先に確認すると、やはり聞き間違いではなかったのだと驚いた。
「やっぱり。ラック7も上がってる……」
「すげー!」
「うぇっ。なにごとっすそれ……?」
「ラッキーセブン?」
「あーたしかにラッキー!」
「ああ、なる、ほど?」
思い出されるのは、冒険者カードに記載されるIDの7の羅列。
確かにラッキーではあるものの本当にそれでいいのかと疑問は浮かぶ。
とはいえ、少なくともいいことには違いないのであまり気にしないようにして、ユアは気を取り直した。奇しくもそのおかげでLUCがちょうど10に到達しキリもよくなったので、SPはすべてMINに振っておく。これでMINは23となり、MPは520とそこそこゆとりが見えてきた。
それからアビリティを確認し、新規取得可能な中からこれはというものを即決で取得した。
【スター】(EXP1,000)
・MP:10.0%
・プレイヤーの頭上に浮かび自動で敵を攻撃する『スター』を召喚する
・MP消費によって効果変動
「みてみて。『スター』」
アビリティを発動すると、ユアの視線の先が陽炎のように歪む。
そこからするりと現れたのは、穏やかな光を放つ頭ほどの大きさの光の球体。
それはふよふよとユアの視線の先に浮かび、ふるりと震えた。
「おっは、まぶしー!」
「あ、ごめんごめん」
お姫様抱っこされているユアの上空はつまりリーンの眼前で、突如現れた光源にリーンはきゅうと目を閉じて笑う。
「もうちょっと高くできるかなこれ」
ユアがそう首を傾げると、スターはするすると高度を上げリーンの頭上に浮かぶ。
「おお、いい子」
「便利な明かりっすね」
「自動で攻撃してくれるんだって。荷物じゃ申し訳ないから」
「別にいーのに」
「ん」
「私がやなんだって」
ユア攻撃手段を持ったことに、なぜか不満げなリーンとリコット。
そんなに姫プをさせたいのかと呆れるような、それはそれで嬉しいような複雑な気持ちになりつつ、ユアはなだめるようにリーンの耳の裏とリコットの顎の下をくすぐる。
「リーンの方は?なにかあった?」
「ん~」
ユアのなでなでで悦に入るリーンは、確認も面倒な様子で自分のウィンドウを共有化してユアに差し出した。
やれやれと呆れつつそれを眺め、よさそうなアビリティがあったのでリーンに伝えようとすると、その前に伸びた手がそのアビリティを取得した。
【ボディービルド】(EXP2,500)
・アバターの身体能力を強化する
シンプルながらもリーン向きらしいアビリティとユアは思ったが、リーンはユアが目にとめたというだけで詳細を確認することすらなく取得を決定したらしい。。
「あ~り~が~と~」
「どういたしまして」
ほにょんと緩んだリーンにやれやれと肩をすくめつつ。
ひとまずステータスいじりを終えた一行は、しばらくのんびりしてから改めて都市探索を再開する。
■
《登場人物》
『
・荷物力が着々と増加している。荷物(自立攻撃型)。とはいえ本領発揮はやはり荷物では難しいので、まだまだ荷物マスターにはなれませんね。
『
・やればできる子、それが鈴。最速でやれば最速でユアを抱っこできるというそれだけの理由で頑張りました。ステータス上ではSTRとかきらりんと大差ないはずなのに戦い方こんなに違うの凄いですね。装備の質量のおかげで踏みつけ威力上がってるとかもありそう。まあ、単純に敵が弱いんですが。そりゃ一般市民ですもの。
『
・とび膝蹴りって実際使い勝手どうなんでしょうね。そう大して距離が稼げるでもなく、こう、真横すれ違う感じで軸足ありの膝蹴りの方が威力ありそうですし、どこで使うんだろう。むしろ相手へのダメージより自分の膝関節へのダメージの方が深刻な気がします。謎。
『
・前にユアとリーンときらりんがいてしかも横とか後ろとかにも注意を向けつつ前方の敵を狙撃するってよくよく考えたら頭おかしいですよね。しかも一番身長小さいし。光弾だから弾速やや遅い分前のメンツの移動とか加味しないと普通に誤射しますし。杖とか横に突き出して角度確保とかしてるんですよこの人。それで全弾ヘッドショット。化け物かよ。
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