第20話 「どきやがれっす!」
「どきやがれっす!」
「『
きらりんが棍棒と長剣を左右に振り払い眼前の住民たちを強引に薙ぎ飛ばせば、リコットがすかさず輝く光の弾丸を放ち残った住民たちを仕留めていく。
昨日森での狩りの際、レベルが上がり解放されたところを即座に取得した聖光属性のLV.1陣魔法である『
「おっしゃいそげー!」
そうして拓けた道をユアを抱いたリーンが駆け抜け、蹴り破るような勢いで建物の扉を開きその中に飛び込む。
きらりんとリコットもすぐさまそこに続き、最後のリコットが扉を閉める。
そうすれば、ドアを叩くような不穏な演出すらもなく、外の住民たちはあっさりとユアたちを諦めて他のプレイヤーを狙ったりどこかふらついたりと各々散っていく。
「やっぱ皆行っちゃったっすね」
扉の横の窓からそれを眺めていたきらりんが、一応警戒していた面々へとサムズアップを向けた。
そうすれば面々は警戒を解き、ほっと一息ついて集合した。
「とりあえず、やっぱり建物は安地っていうことでいいかな」
他のプレイヤーが建物に逃げ込んだ際に住民たちが散ったのを見てもしやと思い試してみたユアたちなのだが、どうやらそういうことらしい。
「そうっすね。骨がないやつらっす」
「押し寄せられてもやだけど」
冗談めかして言うきらりんにユアは苦笑し、それから周囲を見回す。
建物に入ってすぐのところは、エントランスホールのようなものになっている。
外観と同じくなんともしゃれっ気のない殺風景なホールは、天井の中央にはめ込まれた明かりにより照らされている。正面に奥への扉があり、その左右には金属製の大きな円柱が計2本立ち並んでいた。恐らくは、他の建物も同様なのだろう。
「この中にはいないのかな」
「やー、絶対いるね!」
「っすね。探索してみるっす?」
「まあ、せっかくだし」
という訳で、一行は建物内を探索することにした。
まずなにより気になるのが、扉の横に立っている円柱だ。
床から天井まで突き抜けるそれに近づいてみる。
錆一つもない鈍色の、金属製の円柱。リーンが軽く蹴ってみると空洞音が響き、パイプのようになっているらしいと分かる。よく見ればパイプの一部にはどう見ても開きそうな切れ込みが入っており、ボタンが一つついていた。
「てい、っす」
「あ」
「あー……」
なんだろう、とユアが首をひねると、ほぼ同時にきらりんがボタンを押す。
どうやら手が空いていたら押したかったらしい、リーンが残念そうな声を上げる。ユアが『降りようか?』と視線で尋ねると、リーンはぶんぶん首を振ってユアを抱きしめた。
そんなやり取りをやっている間にも、なにやらパイプの向こうでうぃーむ、ひゅおぉ、と機械的な音や何かの降りてくるような音が聞こえてくる。
ほどなくして『びぃー』とベルが鳴り、切れ込みからパイプの一部分がスライドするように開いた。
その内部は金属製の個室のようになっており、きらりんがのぞき込んでみると、手前のところに計10個のスイッチが横二列で縦に並んでいる。なにやら文字らしきシンプルな記号が並んではいるものの、あいにくと読めるようなものではなかった。
なんとも見覚えのある気がするそれに、ユアたちは顔を見合わせ。それから恐る恐る乗り込んでみる。
個室はそこそこのサイズで、四人(若干一名お姫様抱っこ)が入ってもあと数人分ほどのゆとりはあった。
きらりんが試しに適当にボタンを押すと、うぃん、と扉が閉まる。
すると個室が動き出し、ユアは自分が上昇しているのを感じた。
「うごいたー!」
「わ、凄い反響する」
「あはは!おもしろー!」
けらけらと笑うリーンの声が反響する中、やがて、『びぃー』と音がして動作が停止する。
それから扉が開き降りてみるが、基本的には最初のエントランスと変わりなく、ただ入り口にあたる部分には扉がなくなっているというホールだった。そして窓から見下ろせば住民たちの闊歩する道路が眼下にある。高さからして、4階といったところか。
「なんかこう、逆にしょぼさを感じるんだよね」
「文明レベル近代っすもんね」
「てんそー装置とかないかな!」
「それくらいやって欲しいところっす」
「どうだろ」
あまり期待はしない方がよさそうだけど、とユアは思う。
セントエラの街並みから比べれば十分にすごい技術力ではあるものの、やや拍子抜けといったところだった。
まあなんにせよ移動は楽だとそう思っておくことにして、せっかくなのでこの階層を探索してみることにする。
長剣と棍棒を携えたきらりんを先頭にエレベーターに挟まれた扉を開き、その向こうへ。
そこはどうやら廊下になっているらしい。左右に延びる廊下の幅は4人が並ぶには狭い程度で、突き当りには隣の建物の壁しか見えないような窓が付いている。日照権も何もあったものではないだろうが、天井にはめ込まれた明かりのおかげで視界は良好だ。
ちょうど廊下をはさんで向かい合うようにして等間隔に3枚ずつの扉が設置され、その中央の扉の片側からユアたちは廊下に出た形になる。
そしてその廊下には、人影があった。
プレイヤーではない。
都市をうろつくそれと同じ、ゾンビのような住民たちの姿だ。
廊下の全体で謎にぼーっとしていたそれらは扉を開くなり一斉にユアたちの方を振り向き、そろそろ見慣れてくる緩慢な動作でユアたちへと襲い掛かった。
「うわいるー!」
「安地はホールだけっすかっ」
扉を開くなり正面にいた住民を蹴り飛ばし、対面の扉に叩きつけられたところを追いかけるようにして喉を貫く。それからきらりんはびぐんと弾んだ住民が光の粒子に変わるよりも前に長剣を引き抜き、振り向きざまに右手側にいた住民へと斬りかかっていく。
「こっち側は任せるっす!」
「けっこーいるー!」
「任せた。リコットいける?」
「ん。余裕。『
きらりんがこじ開けた空間にリーンが躍り出て、それに続いたリコットが杖先を住民たちに向け手近な相手から光弾を顔面に叩き込んでいく。
空間も狭くリーンはひとまず様子見ということで周囲を警戒していたユアだったが、二桁に届く程度の数はいた住民たちはきらりんとリコットの活躍によりリーンの出る間もなくあっさりと壊滅した。
「ざっとこんなもんっすね」
「お疲れさま」
「……うっす」
戦闘が終わったきらりんは、一足早く敵を壊滅してユアからなでなでを頂戴しているリコットに一瞬たじろぎつつも、やや緊張した面持ちでユアの元へ寄り添う。それからおずおずとユアと見つめ合い、視線を泳がせながら口を開いた。
「わ、わたしもお願いしたいっす」
「!もちろん」
きらりんからの初めてのおねだりに嬉しそうに声を弾ませたユアが差し出された頭をなでなですれば、きらりんは耳まで真っ赤にしながらもやり切った感をにじませながらなでなでを享受した。
もちろん、ユアを抱っこして囃し立てていただけのリーンも忘れずなでなで。
しながら、先の戦闘できらりんとリコットのレベルが上昇したためステータスを弄る。
どちらも新規取得アビリティに面白そうなものはないらしく、保留だ。
それからユアたちは、廊下にある扉の奥を探索することにする。
まずは、入り口の正面にある扉。
また住民が待ち受けているかもしれないと、警戒したきらりんが戦闘になって扉を開く。
しかしその心配は杞憂に終わり、扉の向こう、殺風景な部屋の中には人っ子一人もいなかった。
「結構広いっすね」
扉の向こうは、居住空間のような一室だった。
ベッドとテーブル、タンスがぽつりと置かれているだけの部屋は、きらりんの言う通りそれなりの広さがある。下手なホテルの一室などよりはよほど広く、また家具が最低限しかない分さらに広々と感じられるようだった。
「ここで寝てんのかなー?」
「そもそも寝るの?」
「さー?」
「昼夜気にする脳みそがあるようには見えなかったすけどねー」
などなど言いながら適当に部屋を物色する一行だったが、特になにかが見つかるでもなくあっさりと探索は終了してしまった。
なんとなく嫌な予感を抱えつつも他の部屋を探索してみる一行だったが、どの扉の向こうも同じような景色が広がるばかりで、まったくなにもない。なまじ家具がポツンとおいてある分いっそただの空き部屋よりも寂寥感を覚える探索にメンタルを削られることとなった。
「どう思う?」
「放置でいいと思う」
「運が悪かったって感じではないと思うっす」
「つまんなーい」
満場一致で建物探索を継続する必要を感じていないらしい。
ユアは頷き、それならと改めて都市の探索を進めることにした。
■
《登場人物》
『
・お荷物じゃん?そんなんやってたら魔法のレベルも上がりませんぜ。もうちょっとなのになあ。でも都市探索とか領域魔法使う機会少ないしなあ。まあ頑張れ。
『
・こいつもこいつで戦わん。都市探索で無双ゲー始まる!?と思ったのに。全部綾がお荷物なせいだな。っていうか都市入ったなら下ろせよ?いつまで抱いてんだよ。なんで非戦闘員ふたりもいるんだよ頭おかしいだろ。
『
・獣とかより人の方がやりやすいよね。特にこう動きがのろまでしかも群れてるとかいいね。蹴ったり転がせばそれだけで全体的に動き阻害できるし。対集団戦闘は慣れてるのだ。
『
・新魔法お披露目、しかし系統同じすぎて全然目立たない。今のところただのめっちゃ精度高い砲台だからなあこの子。リコットの本領を発揮しようと思ったら、やっぱりユアの守りが足りない。
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