第7話 『プレイヤー【ユア】のLVが上昇しました』

『プレイヤー【ユア】のLVが上昇しました』

『LV.1→LV.2』

『MINが1ポイント上昇しました』

『SPを2獲得しました』


「あ、レベル上がった」

「おめー!わたしもー!」

「おめでと……いやそりゃね」


 そのアナウンスが入ったのは、VS草人形第二回戦が終わった丁度その時だった。

 ねぎらいのなでなでタイムに入りながら、ユアはステータスを確認する。アナウンス通りにSPを取得したのはもちろんのこと、レベルアップによるLP・MPの上昇、そしてそれとは別でMINが1ポイント上昇している。レベルが低いというのもあって、たった三回の魔法使用でもステータスアップには十分だったらしい。


 ふむふむと納得しつつ、とりあえずSPをMINに振っておく。MP食いの領域魔法のためにMPは潤沢にあったほうがよいという判断で、しばらくはMIN一極に絞るつもりだった。

 それによりMINは14になり、MPは300になる。

 領域魔法は本来の消費MPと同じだけのMPを追加消費することで半径または時間をn倍することができる(n=0以外の自然数。たとえばMP3倍消費でどちらかを3倍にするかどちらもを2倍するかという風に操作できる)という性質を有しているため、全MPを消費すればn=2までは使用可能となった。もっとも魔法の使用中はMPが自然回復しないという縛りがあり、そんなことをすればMP全損による『喪失』の状態異常を避けることができないのだが。


 ちなみに『喪失』、多大な脱力感に襲われ全基礎ステータス値が1/10になった挙句MPが50%以上回復するまで何をどうしても改善せずかつMPを消費するあらゆる行動ができなくなり、ダメ押しとばかりに深刻なスリップダメージが発生するという悪辣な状態異常だ。魔法職としては実質『死亡』とそう大差はないので、それを押してまで領域を広げたり延長する必要は皆無と言える。


「リーンはステータス上がってた?」

「すたる上がってたよ!むきむき!」

「はいはいむきむき。ちょっとステータス見して?」

「いーよー!こーかんね!」


 むきむき、とできもしない力こぶを誇るリーンの二の腕をもみゅもみゅしつつ、ユアは共有化されたウィンドウを覗き込む。


 リーンの現在ステータスは以下の通りだ。


 NAME:リーン

 LV:2(525/525)

 SP:0

 LP:290/290

 MP:110/110

 STR:7

 VIT:6

 SPD:2

 MIN:0

 DEX:0

 LUK:0

 ~アビリティ~

【生命力】【強力】【丈夫】【戦士ウォリアー

 ~魔法~

 ~スキル~

 ~称号~


 見るからに近接特化といった感じだろうか。

 LPアップの【生命力】、それぞれSTR・VIT上昇の【強力】と【丈夫】、そして近接戦闘で補正が加わる【戦士ウォリアー】という初期アビリティ的には普通の組み合わせと言える。

 微妙にSPDに振ってあるのを見て、確かにゲームにしてもやや機敏になっていたような気がする、と戦いぶりを思い出すユア。DEXも振ってくれれば少しは安心できるかもなあ、とリーンに視線を向けると、リーンと目が合い、ぺかーっと笑みを向けられる。


 だめっぽいなあ、とユアは思った。


「アビリティの方も確認しよっか。新しいの増えてるかな」

「さー?ぜんぜん見てないからわかんないかも」

「……私も」


 途中でスペードに委託したため、ユアは取得可能なアビリティをそこまで詳しくは把握していない。まあソート機能でも使えばなんとかなるだろうと、ユアはアビリティのウィンドウを呼び出す。リーンが当然のように共有化したので、同じく共有化した。


「あれ?」


 そして取得可能アビリティを確認すると、初期設定の時と比べ遥かにページ数が少なくなっていることに気が付いた。


「アビリティ減ってる?」

「んー、かも?たぶん!」


 相変わらず役に立たないなあと思いつつ眺めていると、なんとなく、能力値アップ系のアビリティや魔法関係、『戦士ウォリアー』などの職業的なアビリティが減っているらしいと気が付く。具体的にどれとは言えないものの、試しに『戦士ウォリアー』や『強力』で検索をかけても見つからない。ならばほかにどういった類のアビリティが残っているのかと問われれば、ユアには答えがまったく浮かばないのだが。


「まあ、初期ボーナス的な感じかな。新しいのもなさそう」

「わたしもー!」


 ありがたいことにソート機能にあった『新規取得可能アビリティ』で検索してみたが、両者ともに引っかかるものはなかった。EXPがそう大してある訳でもなく、とりあえず今回は保留ということにする。


 そうしてステータスを確認したところで、リーンがもじもじしだす。


「ところで、ねえ、ユア」

「なに?」

「んとね、」


 なんとも言いにくそうなリーンの視線がちらちらとユアのステータス画面、その称号のあたりに向いているのを見て大体のところを察したユアは、楽し気に目を細めてリーンの頬に手を添える。


「どうしたのかなー、リーン?」

「むぅ……なにこれ」

「すっちんはいい子だよ?」

「むむぅ!」

  


 頬を膨らませ頭を押し付けてくるリーンにユアは喉を鳴らして笑う。

 酷く幼稚な嫉妬が、愛おしくてたまらない。


「そんなに嫉妬しなくても、今はふたりきりだよ?」

「でも仲間とか増えるし」

「え?」


 思いもよらない言葉に、ユアは目をぱちくりと瞬かせる。

 ゲームに使う時間は、綾が家にいる時間だ。

 それはつまり鈴との時間ということで、少なくともこうしてリーンとユアとして一緒にいる間は他のことなど考えていなかった。言うなればゲームデートみたいなものと、そう捉えていた。


 そんなユアに、リーンはまっすぐな視線を向けた。


「ユアの恋人、ゲームやる人とかいるでしょ」

「う、ん。でも、どうして?」


 ユアの問いかけにリーンは瞳を揺らし、ひとつ息を吸う。

 それから、ぎゅうとこぶしを握って言った。


「ちょっとは、がんばりたい」

「……そっか」


 リーンの言葉を、ユアは優しく受け止める。

 そっと細めた目の向こうで、赤い瞳がらんらんと煌めきを帯びた。


 愛おしい人の決断を尊重するのは、ユアにとっては息をするよりも自然なことだった。


 リーンの両ほほを挟み込み、持ち上げる。


「そんなリーンが、大好きだよ」

「わたしも、すき」


 額を重ね、鼻先を触れ合わせる。熱い吐息に触れながら、ユアの親指がそっとリーンの唇に触れた。

 ふにふにと縁をなぞり、その中央で止まる。

 そしてユアは、その親指に、自分の唇を重ねた。

 リーンの頬が、緩やかに朱に染まる。


 ほんのひととき触れただけで、ユアは顔を離した。

 親指が離れ、寂し気に眉を落とすリーンの目前で、ユアは見せつけるように親指の腹をぺろりと舐めた。


「ん、ちょっとしょっぱい」

「もー!」

「いや、ほんとなんだって」

「えー?……あ、ほんとだー!」


 指先の味まで再現するという無駄に手の込んだVRのクオリティに、ふたりはしばし感心する。

 先ほどの指キスなどまるでなかったことのようだったが、両者ともにやや赤くなっている。もっとも、その主な理由は互いに異なるのだが。


 しばらくしてから気を取り直して、話を戻す。


「それで、リーン。それならアンズとか誘っちゃうけど、無理はしないでね」

「だいじょぶ、だと思う。たぶん。……たまにはふたりきりがいーけど」

「うん。もちろん。じゃあ、決まりね」


 そういうことで、とりあえず誰に声をかけようかなとユアは考えようとして。

 途端、むぎゅっと抱きしめられる。


「今はふたりっきり!」

「あはは。そうだね。ごめん。じゃあ行こっか」

「うむ!」


 ユアの差し出した手を、リーンが取って、早足に歩き出す。


「もっと強いのと戦うぞー!」

「負けないでよ?」

「ユアがいれば百人力だもーん!」


 にぱーっと笑って振り向くリーンに、ユアは苦笑し。

 そして言葉を返すよりも前に、リーンの足が絡まった。


「あ」

「んぉ!?」


 もっとこう、頑張るべきところはたくさんあるなあ、と。


 そんなことを思いながら、ユアはリーン諸共に転がった。


 ■


《登場人物》

ひいらぎあや

・綾式VR指キス。全年齢対象VRゲームでもいける。だって指だもん。AWは年齢によって一部規制がかかる制限付きR15作品なので(唐突な決定事項)、直接だと警告が出ます。そうじゃなくてもあんな白昼堂々とかどうなんでしょう。プレイヤーとか見てる奴いるんだぜ?正気の沙汰じゃない(真顔)。


柳瀬やなせすず

・結局何がどういうことかと言えば、ヒキニートが交友関係増やそうとしてるっていう話。リアルにもそれ以外にも友人とかいない系ぼっち(恋人あり)なので、ちょっとは頑張った方がいいかなあとやる気を出している感じ。別に躁状態とかではない。しかしその相手が恋人の恋人とかすごい思い切ってますよね。まあ同好の志(?)だからそこそこ……いや無理じゃろ。と、普通ならそうかもしれないけれど、なにせ綾だからなあ。

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