第4話 『とゆーわけで結果はっぴょーい!』
『とゆーわけで結果はっぴょーい!』
「ひゅーひゅー」
『……ついていけんな』
CMという名の茶番劇が明けるなり、どんどんぱふぱふー、とどこからともなく囃し立てる音の中でスペードがばっちり決めポーズ。ずいぶん慣れてきたユアは楽しそうにぱちぱちと手を叩き、そしてそんな様子にため息をつく少女が一人。
青色のスペードと並ぶとその関係性をこれでもかと匂わせる銀色の少女。
見た目年齢は10歳に満たないほど。メタリックな銀髪を左右でまとめたツインテール、ぐるぐる渦巻く模様の透ける光沢に満ちた銀の瞳。ボディスーツにジャケット、スカートという構成はスペードと同じだが、こちらはリボンやフリルがあしらっておりスペードのものよりも可愛らしさが強調されていた。
乱数のクラブとそう名乗った彼女は、スペードのいうCMの助演女優として鏡の向こうのスペードをいけにえに召喚された。
その言葉とは裏腹に、突如呼び出されたにもかかわらず軽い打ち合わせだけで部内恋愛を題材にした完全架空の清涼飲料水のCMで見事に先輩役をこなしてみせたあたりどの口が言うのか謎である。
『無理をする必要はないのだぞ』
「あはは。大丈夫ですよ。楽しいです」
『そーだそーだー!』
『少しは自重しろと言っているのだ。まったく』
などとぶつくさ言いつつもノリノリでCMに出演していた以上あまり説得力はない。
少なくともユアからすれば、すっちんが大好きなんだなーという感想を抱くくらいだった。
スペードとしても煩わしさは感じていないらしい、『くーちゃんはお堅いなー!』などと言いながら笑っている。それを聞いたクラブは顔をしかめてなにか言おうとして、しかしため息一つでそれを逃がした。
『まあいい。水をさして悪かったな。続けてくれ』
『おういえー!んじゃゆあっちー!』
「うん」
くるりとユアに向き直り、スペードはぱんっと手を叩く。
『いでよ!すっちん‘sせれくしょん!』
そしてその手を見せつけるように手を開けば、飛び出してくるようにしてユアの目の前にウィンドウが並ぶ。
ユアはその一つ一つに目を通す。
【魔法適応】
・『魔法』が使用可能になる
その名の通りに魔法職になるにあたって外すことのない前提アビリティであり、ユアとしてはこれに関してはもともと取得するつもりだった。
【魔力】ALV.1
・MP増加:ALV*50
これもまた早いうちに取得しておくに越したことはないタイプのアビリティだろう。
【知的】ALV.1
・MIN増加:ALV*1
これも【魔力】と同様で、基礎的なアビリティと言える。
と、ここまではいたって普通の組み合わせだったが、最後のひとつがやや特殊なものだった。
【領域魔法】ALV.1
・魔法系統『領域』解放
・LV.1の領域魔法を使用可能
魔法陣や詠唱などAWにおける魔法の種類を総括して魔法系統と呼ぶのだが、この『領域』という魔法系統はやや特異的だ。
領域魔法は、その名の通り特殊な効果を有する領域を展開する魔法だ。バフや回復などの効果が持続的に与えられる分消費MPが多く、また使用にあたっての制約が厳しいということで、なんとも初心者に不向きな魔法と言える。
そんな詳細を確認したユアも、その性能に苦笑することとなった。
「これ、結構尖ってるね」
『ゆあっちのために作ったんだー!』
「そうなの?じゃあこれでいこっと」
『さっすがゆあっちー!』
なにやらとんでもないことを口走るスペードだったが、それを決め手にユアは決断した。正直なところもう少し使いやすい魔法の方がいいという思いはあったものの、ユアにとってはスペードからのプレゼント(?)という時点で受け入れないという選択肢がなくなるらしい。
『……』
そんなユアにクラブは口をはさみたそうにむずむずするが、結局口をつぐむ。
一応この場はスペードとユアが主役なので、控えることにしたらしい。
しかしそれを目ざとくも見つけたユアが視線を向け首を傾げる。
「どうしたの?」
『ああ、いや。スペードはあっさりバラしたが、あまり広めてくれるなよと言っておこう』
「あ、それもそうだね」
誤魔化すように、しかしそれはそれとして釘を刺すクラブの言葉に、ユアは素直に頷いた。
「けど、大丈夫なの?」
『だいやんにも確認とったからおっけー!』
『無論だ。すでに審査も通してある。好きに使用してくれて構わない』
ばっちぐーとサムズアップするスペードと、そんなスペードの隣で然りと頷くクラブ。
『我々には気に入った者にある程度独断でアビリティを作ってやる程度の裁量権は与えられている。今後プレイヤーが取得できるアビリティが一つ増え、それをユア殿が先取りしたというそれだけのことだ。そう気にするな』
「なるほど……ところで審査なんてする時間あったの?」
『逆に聞くが、どうしてたった四柱しかない我らが直々にプレイヤーを相手できると思う?』
「あー、そうだね」
つまりは鏡の向こうのスペードのようなことなんだろうと、ユアは納得した。
そう考えると目の前のスペードやクラブは分体のようなものなのだろうかとふと思うが、まあいいかと気にしないことにする。
それから、ユアは改めてスペードに笑みを向ける。
「それじゃあ、改めて、このアビリティ受け取るね」
『いえーす!ゆーこーかつよーしちゃってー!』
「そうだんしてよかったよ。ありがと」
『にへへ』
てれてれ笑うスペードに笑みを深めつつ。
とりあえずアビリティが決まったということで、今度はステータスの設定に移る。
『ぶっちゃけゆあっちならみんみんおんりーでいーとおもーよ?』
「そう?偏りすぎじゃない?」
『もんだいなっしん!』
「ふむふむ」
自信満々に胸を張るスペードにユアは少し考え、結局特に反論が浮かばないことに気がついたので、初期の10 SPはスペードの言う通りMIN一極で消費することになった。
最終的なステータスはこのようになっている。
NAME:ユア
LV:1(0/0)
SP:0
LP:100/100
MP:260/260
STR:0
VIT:0
SPD:0
MIN:11
DEX:0
LUK:0
~アビリティ~
【魔法適応】【魔力.1】【知的.1】【領域魔法.1】
~魔法~
【領域魔法】
『
―『
―『
~スキル~
~称号~
【わたしのおきに!】
MIN一極集中のステ振りとアビリティによる初期値の三倍近いMPは、なんとも清々しいまでの魔法傾倒っぷりである。しかし魔法の項目にあるような領域魔法LV.1として初期から使用可能なふたつの魔法ですら消費MPは最低150ポイントであり、むしろそれくらいはなければ話にならないとも言える。
改めてステータスを眺め、その尖り具合にユアは苦笑する。
しかしこの
『かんぺきー!』
「そうだね。ありがとすっちん」
『まかせろー!』
自分の意見のことごとくが受け入れられたことが大層嬉しいらしくスペードは上機嫌だ。
そんなスペードを見ているとユアも嬉しくなってくるらしく、ふたりでにこにこ笑みを交わす。
クラブは呆れて笑っていた。
そうしてステータスを決めると、ユアは最後にアバターの容姿を設定する。
といっても基本的にはユアのリアルでの姿を基礎として、変えるのは色彩くらいのものだ。
それにしてもさしたるこだわりがあるでもなく、せっかくそういった機能があるなら使っておこうというくらいの心持ちで、ユアはアバターの髪と目の色を緋色に変えた。
なお、色の選択の際にはクラブがどこからともなく召喚した16面ダイス8つを投げて使用した。完全なる運の結果だったが、ユアとしてはそれなりに満足のいく結果だった。
また、アバターの初期装備についてもここでは設定することができる。
これに関しては、『見習い魔法使いセット』なるものがあったのでユアは迷いなくそれを選んだ。武器やローブの色などこまごまと設定する項目はあったが、特にこだわりなくてきぱきと決定していく。
その結果できあがったのは灰色のフード付きローブと木のワンド、とんがった木靴といういかにもといった装備だが、セット効果『まずは形から(魔法使い)』により魔法の効果が向上するというなかなかあなどれない代物といえる。後ろ髪をささやかにまとめる青色のリボンがチャームポイントだ。
そうこうして、ユアというアバターは完成した。
鏡の向こうでくるりと回ってみせる自分の姿を確認し、色彩を変えたことをやや後悔しつつ、ユアはアバターの作成を終えた。
そうなればあとはゲームスタートを残すのみ。
名残惜しげなスペードは、しかしその役目を果たすために口を開いた。
『……んじゃーゆあっち、そろそろ行く?』
「うん。まあ、待ってる人もいるしね」
『そかー』
しょんぼりと肩を落とすスペードの背にクラブが手を添える。
そんな様子に胸を打たれるユアだったが、それはそれ、雑談やなんかで無駄に時間を消費しようというつもりはユアにはない。もちろん、なんらかの理由があればスペードたちとの交流を続けるに否はないのだが。
しばしむぐぐと唸っていたスペードだったが、やがて諦めて続けた。
『ん、ん。じゃーゆあっち、いってらっしゃい!』
「うん。またね。クラブさんも」
にこりと笑うユアの言葉に、クラブとスペードはぱちくりと瞬く。
そしてスペードはゆるりと目を細め、口角を上げる。
これまでの快活な笑みと比べて異質な、冷ややかな笑み。
そんな表情もまたいいと見とれるユアに、そしてスペードは言う。
『そだね、またあお、ゆあっち』
それに言葉を返すよりも早く、ユアの視界は白く消える。
浮遊感。
そしてユアは、世界へと降り立つ―――
■
《登場人物》
『
・アバター作成で2話丸々使いやがる。まあおおむねすっちんのせい。にしてもすごい言いなりですよね。興味なさすぎかぁ?まあ遊びでやってるしそんなもんかな。領域魔法については後程また詳しく。
『
・ここに再会は約束された。果たしてそれが果たされるときは来るのか……今度こそはたどり着いてみせる、と筆者は人知れず決意しております。
『
・AW管理者が一柱、乱数の名を関する少女。見た目だけはかわいいを前面に押し出してるけれど、スペードと一緒だとあんまり発揮されない。めっちゃ仏頂面だし。ほかのプレイヤーの案内とかしてるときはもっとこう、きゃぴきゃぴしてるんですけどね。語尾に無意味に記号付く感じで。この人ともまた会いたいものです。いやほんと。
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