第3話 人体実験

「これはダメだ……」


 時間をかけて僕は研究指針をまとめて提出した。だが、その資料を読むなり教授はそう言い捨てた。

 拒絶を現すように、乱暴に音をたてて資料を机に置く。


「何故ですか? この先、色覚障がいにとつても、視覚障害にとっても有意義な研究になると思いますが……」

「眼球型のカメラを作ろうというのかね?」

「最終的にはそうです」

「ここには書いていないが、そうであろう」

「自分の見えない眼球よりは、機械の力カメラに置き換えた方が……」

「それがいけない」


 何がいけないというのだろうか?

 人間は自然にあるべきというのか?

 自然に産まれたままでは、僕には見えない世界があるから、苦労して手にしようとしているのに……。


「君の研究の先は分かっているのか?」

「先? この技術が確立されたされた場合の未来のことをいっているのですか?」


 何か僕の見落とした欠陥でもあるのだろうか?

 致命的に結果など、この際はどうだっていい。もしが起こるのは、その先の時代の倫理的問題だ。

 僕の考えが及ぶことではない。


「そんな未来の話ではない。君がこれから研究する段階でのことを危惧しているんだ」

「僕のこれからの研究……」

「眼球型のカメラはそれほど難しくはないであろう。今の技術ならば眼球以上の高解像度で、しかも紫外線や赤外線で見ることも容易いかもしれない」

「それは素晴らしいことです。健全者よりも遙かな世界が見えるのであれば……」


 素晴らしい事だ。 

 そこまで考えなかったが、可視光線以外の、紫外線や赤外線を見ることで世界はますます多様になるだろう。


「では聞くが、誰がそれを検証する?」

「検証は最終的には被験者を使った臨床試験を……」

「その臨床試験に立候補する者はいるとおもうかね?」

「まずは、マウスなどを使った検証から……」

「マウスが色をどう認識しているのか分かっているのか?

 人間と同じというわけにはいくまい。他の動物でも……猿でもそうだ。

 君が危惧したように『皆が赤と言うのであるから、それが赤である』ように、検証結果を確実に理解して伝えなければならない。

 それは動物ではダメだ。

 人間でなければならない。つまりは、健常者を危険にさらすということだ。

 そんな人体実験を私の、この大学で行わせるわけにはいかないのだよ」

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