第2話 脳と色

 それから僕の頭の中には、その絵と目の前で微笑む女性のことで頭がいっぱいだった。

 逃げ出した僕がチラリと見たその人の悲しげな顔も……。


(命の色とは何だったのか……感じたい)


 そして、ひとつの目標が見えてきた。

 白黒でしか受け取れられない世界を、どうにかして僕は感じられるのか?

 それが、いつしか僕の大学での課題になった。


 色盲の完全なる解決。


 調べれば調べるほど、やることはたくさんある。

 そもそも色を認識するとは何なのかまで遡らなければならない。その件に関しては先人達が調べ上げている。僕の研究はその先、つまりその人物に認識させるというモノだ。

 しかし、僕の研究指導を受け持つ教授は、あまり乗り気ではなかったようだ。


 すでに解決している。


 僕が使おうとした補正レンズなどがそうだ。

 その人の考えはそれで十分だと考えていたようだが、それには僕は反対した。

 それは色を感じる人の考えであろう。それに果たして、本当にその色は合っているのだろうか、という考えが湧いてきたからだ。


 光の色は、赤、青、緑。


 だが、本当にその人にとって赤、青、緑と認識されているのだろうか?


 皆が赤と言うのであるから、それが赤である。


 皆が青と言うのであるから、それが青である。


 皆が緑と言うのであるから、それが緑である。


 皆が言うからであって、果たして本当にそうなのか?


 哲学になってきてしまう。僕の領域ではない……その答えは別の者に任せることにして、僕は色を認識することに務めよう。

 これまで目の仕組みは遥か昔から研究されてきた。

 その結晶が、カメラであり、それがデジタルカメラになった。

 光を受け取り、電気信号に換える技術はある。脳細胞は電気信号で動いている。

 ならば、そこを繋げてあげればよいのではないか。


 僕の研究は、そこに行き着いた。

 カメラが受け取った色を読み取り、脳細胞の微弱な電気信号へ変換して理解させる。


 そうすれば、僕にでも色を認識できるのではないだろか。


 そうすれば、僕にでも『命の色』の意味を理解できるのではないだろうか。


 そうすれば、僕にでもあの女性が表現したがったモノを受け取ることができるのだろうか。


 これは時間の掛かることだ。

 まず脳の仕組みの理解を深めなければ……。

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