Movement:2『とりっくおあとりーと』

-宮澤家-

唯「とりっくおあとりーと」

蛍「なんだその恰好」

唯「なにって、ハロウィンさ」

蛍「なるほど……仮装のテーマは?」

唯「魔法少女だよ」

蛍「相変わらずスカート丈が短いな」

唯「ミニスカ魔法少女さ」

蛍「言い直さんでいい」


蛍「それで、何の用だ」

唯「犯してくれなきゃイタズラされるぞってことさ」

蛍「お菓子くれなきゃイタズラするぞだろ」

唯「お菓子も欲しいしイタズラもされたい! あと犯され――」

蛍「黙れ! あとお前はイタズラする側だろうが!」


唯「近くの遊園地でハロウィンイベントをやっているらしいよ」

蛍「そうなのか」

唯「うん。お化け屋敷もハロウィン仕様になってるんだとか」

蛍「それって怖いのか?」

唯「気になるよね。どの辺りをハロウィンにするんだろう」

蛍「マイルドになりそうな気しかしない」

唯「ふふ、ボクもだ」


唯「ショッピングモールでもイベントをやっているらしいよ」

蛍「そうなのか。どこも色々やってるんだな」

唯「ボク達の知らないところで、みんながあんなことやそんなことを」

蛍「誤解が生じそうな言い方はよせ」

唯「むしろ、誤解しか生じない言い方だよ?」

蛍「なんで開き直ってんだ」


唯「というわけで、行こう」

蛍「ショッピングモールにか?」

唯「うん。君も何か仮装をして」

蛍「つっても、何も持ってないぞ」

舞「お兄ちゃん!」

蛍「うお、なんだ」

舞「こんなこともあろうかと! 買っといたよ!」

蛍「用意がいいな!?」


唯「……なるほど、囚人服」

蛍「こんなのいつ買ってたんだ……」

唯「ふふ、舞さんに感謝だね」

蛍「感謝、なのか?」

唯「うん。……それにしても」

蛍「?」

唯「魔法少女と囚人服……並びが凄いね」

蛍「違和感の塊みたいだな……」


     *


蛍「で、どんなイベントなんだ?」

唯「お菓子をプレゼントしたり、写真撮影ができるらしいよ」

蛍「へー」

唯「飾り付けも結構力が入っているんだって」

蛍「お前、そういうイベント好きだったか?」

唯「イベントはどんなものでもいいのさ」

蛍「ふ~ん?」

唯「『誰と一緒に行くか』が重要なのさ」

蛍「ほーん」


蛍「それにしても気合入ってるな、その竹ぼうき」

唯「うん。ちょうど家にあったから持ってきたんだ」

蛍「より使っぽいな」

唯「違うよ、だよ」

蛍「そんなに大差ないだろ」

唯「ダメ。魔法少女」

蛍「う……わかったわかった」


蛍「なんでそんな魔法少女にこだわる?」

唯「……」

蛍「?」

唯「……そっちの方が可愛いだろう」

蛍「か、可愛い?」

唯「……う、うん」

蛍(自分で言っておいて照れるなよ……)


―ショッピングモール―


蛍「おー、スゲー賑わってるな」

唯「あはは、小さいオバケがたくさん」

蛍「本当だ、可愛いな」

唯「飾り付けもいっぱいだ」

蛍「ハロウィンらしい感じでいいな」

唯「光がボヤっとしていると少しいやらしい気持ちになるね」

蛍「なるな」


*「おい」

蛍「ん?」

*「トリックオアトリート!」

蛍「おー」

唯「お菓子持っているかい?」

蛍「すまん、持ち合わせてない」

唯「なら……はい、どうぞ」

*「ん!」

蛍(生意気な子どもだな)

 「すまんな」

唯「大丈夫さ。だけど酢昆布しか持ってなかったけれど良かったかな」

蛍「チョイスが渋いな……」


唯「おや、そろそろ催しが始まるみたいだよ」

蛍「ステージライブがあるんだな」

唯「みたいだね。仮装した子ども達によるダンスだって」

蛍「へー」

唯「よかったら観ていかないかい?」

蛍「そうだな、せっかくだし」


*「それでは、子ども達によるハロウィンダンスです、どうぞ!」

蛍「あ、さっきの子どもか、アレ」

唯「そうだね。顔は布を被っててわからなかったけど。多分そうだ」

蛍「……全然踊れてないぞ?」

唯「周りを見ながら踊ってるね」

蛍「な、なんか応援したくなるな……」

唯「そうだね……」


唯「ふふっ」

蛍「なんだ?」

唯「なんかこうしていると、夫婦みたいだね」

蛍「……なんだ急に」

唯「ううん、なんとなくさ」

蛍「……」


     *


蛍「催しも一通り終わったな」

唯「ね、最後に写真撮ろうよ」

蛍「写真? ああ、フォトスポットあるんだっけか」

唯「うん。すぐ現像してくれるんだって」

蛍「じゃあ撮るか」

唯「うん。……良かった」

蛍「あん?」

唯「断られるかなと思って」

蛍「……まあ、せっかくだからな」

唯「うん」


唯「えーっと、どうやって撮ろうか」

蛍「普通にピースでいいんじゃないか?」

唯「でも、小物もたくさんあるみたいだから」

蛍「ほんとだ」

唯「あ、杖がある。ボクはこれにしよう」

蛍「服に合うやつにした方がいいな。俺は……こ、これか?」

唯「手錠かい?」

蛍「……これしかないな」


*「準備できましたか?」

蛍「え、あ、はい!」

唯「えっと、杖と手錠だよね」

蛍「おう」

  ガシャン

唯「あ」

蛍「なんでお前が付けた!?」

唯「つ、ついM心が……」


唯「あっ」

  ぽろっ カラン

蛍「杖落としたぞ!」

唯「今拾う――」

蛍「! ま、待て俺が拾う!」

唯「えっ」

蛍(屈んだらスカートが危ない!)

*「それじゃあ撮りまーす。はい、チーズ――」


-帰路-


蛍「……」

唯「てんやわんやだったね」

蛍「ああ……」

唯「……ふふふっ」

蛍「なんだ?」

唯「君が杖を持ってて、僕が手錠をかけてる」

蛍「そうだな」

唯「すごく良い写真になったね」

蛍「ああ、ある意味な」


唯「これ、もらってもいいかい?」

蛍「ああ、写真か? いいぞ」

唯「ふふっ、ありがとう」

蛍「どうするんだそれ」

唯「これをおかずに……」

蛍「何をしようとしてやがる」


唯「なんてね、普通に飾るつもりさ」

蛍「それ以外の用途があるなら教えてくれ」

唯「だから、おかずに」

蛍「するな」

 (まあ……。

  ハロウィンも、悪くないな)

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