"For Fall Fuzz"-郷秋抒情詩-

 Movement:1-1『体育祭(前編)』

-放課後-


蛍「体育祭かぁ」

唯「そうだね」

蛍「学祭は春にやるのに、体育祭はフツーの時期にやるんだな」

唯「うむ、確かに」

蛍「それよりも、一番の問題はアレだ」

唯「なんだい」

蛍「クラス対抗リレー」

唯「良いじゃないか、体育祭の醍醐味だよ」

蛍「走るのはまあいい。それよりも走る順番だ」

唯「うん」

蛍「俺がアンカーってことだ」


唯「だって君、足速いじゃないか」

蛍「うちのクラスには陸上部もいるんだぞ……」

唯「事実、陸上部よりも速いタイムを出したのは誰だっけ?」

蛍「う……そうだけども」

唯「良いじゃないか。アンカーを任されるってことは、凄いことだよ」

蛍「お前も他人事じゃないだろ」

唯「おや、そうだったかな」

蛍「女子のアンカーだろ、お前」


唯「うん、そうだね」

蛍「男女順番にバトン回していくのがルールだから」

唯「ボクの後が、君だね」

蛍「そうだ」

唯「ふふっ、お互い大役を任されてしまったね」

蛍「ああ、まったくだ」

唯「もうすぐ練習も始まるだろうし、帰りは遅くなってしまうね」

蛍「ああ……それなんだよな」

唯「もしかして、舞さんが心配?」

蛍「そりゃな。いくらしっかりしてるとはいえ、あいつはまだ中一だ。

  家に一人でいさせるのは、やっぱり気が引ける」

唯「ふふっ、妹さん想いなお兄さんだ。素敵だね」

蛍「うるせーうるせー」


唯「そうだ、バトン練習は君の家でやろう」

蛍「練習になるのかそれ?」

唯「うん。君のバトンを使って……」

蛍「趣旨が全然違ってくるな」

唯「種子!?」

蛍「暴走するな」


唯「どうしようか?」

蛍「家でドタバタできるわけないんだからそもそも却下だ」

唯「ドタバタしてたら、舞さんに勘違いされてしまうかもしれないしね」

蛍「どう勘違いされるんだ、舞はそんな娘じゃない」

唯「ダンスの練習してるってね」

蛍「……」

唯「ふふ、そんな娘じゃないって、どういう意味かなぁ?」

蛍「う、うるせえー!」


-下校途中-


唯「あはは、機嫌を直してくれよ」

蛍「他人ひとの妹で遊ぶな」

唯「自分の妹ならいいのかい?」

蛍「お前、妹いないだろ」

唯「いなくても作ることはできるよ」

蛍「は?」

唯「仮想の妹を作るんだ。ボクには5歳下の妹がいて……」

蛍「変なことを言い出すな。俺が悪かった」


蛍「なんにせよ、練習はしないとな」

唯「ボクは別にしなくてもいいよ、最低限で」

蛍「そうもいかないだろう」

唯「なぜ?」

蛍「一応アンカー任されてるわけだし」

唯「……君のそういう責任感のあるところ、嫌いじゃないなぁ」

蛍「なんだその笑顔は」

唯「ふふっ、なんでもないさ」


-数日後-


蛍「ふぃ~ただいま」

舞「おかえりなさい。最近帰り遅いね」

蛍「ああ、ごめんな。体育祭の練習があってさ」

舞「体育祭?」

蛍「うん」

舞「何に出るの?」

蛍「えっと、リレーだな」

舞「もしかしてアンカー?」

蛍「す、鋭いな。そうだ」


舞「やっぱり! なんか最近汗臭いなと思ってた」

蛍「えっ、汗臭い……?」

舞「なんだ~言ってくれたら良かったのに!」

蛍「まあ、聞かれなかったしな……そ、それよりも舞」

舞「なに?」

蛍「俺、汗臭いのか?」


舞「え、うん」

蛍「ま、マジか……」

舞「でも! 臭くないよ?」

蛍「え?」

舞「臭くない、えっと、あれ? におうけど、臭くないよ?」

蛍「ど、どういうことだ?」

舞「えっと、ニオイはするけど、臭くないよ! 汗の臭いがするだけ!」

蛍「な、なるほど……?」


舞「それに、お兄ちゃんのにおい、嫌いじゃないし」

蛍「?」

舞「……今のなし!」

蛍「え、嫌いなのか」

舞「嫌いじゃない! けど……す、好きでもないから!」

蛍「そ、そうか。臭くないなら良かった……」

舞「お兄ちゃんのこと臭いと思ったことないから、安心してよっ」

蛍「ああ、自信持って生きるよ」


-次の日、放課後-


蛍「――ってことがあった」

唯「なるほどね……ふふ、君たちは相変わらず仲が良いね」

蛍「これは仲が良いエピソードになるのか?」

唯「うん。ボクの中ではね。微笑ましいよ」

蛍「そうなのかねぇ」

唯「ふふ、舞さんも君に似て素直じゃないからね」

蛍「どういうことだ?」

唯「ううん。さ、練習しようか」

蛍「え? ああ」

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