解説:君や、極みに登りたらんか

テーマ「おめでとう」。

祝福か! よし皇帝即位だな!



皇帝即位に関しては、ただでさえ「簒奪さんだつ」ってキーワードが絡む魏晋南北朝ぎしんなんぼくちょうです。なら「即位おめでとー!」は、言う人に言わせれば皮肉になります。そのへんを表現したかったのです。ていうか陳羣ちんぐん徐広じょこう、お前らいくらそいつが儒者的に正しいふるまいだからってやりすぎだろおい。好き。


自分の認識としては、先に徐広に感動した感じでした。宋書徐広伝に乗る記事


及高祖受禪,恭帝遜位,廣又哀感,涕泗交流。謝晦見之,謂之曰:「徐公將無小過?」廣收淚答曰:「身與君不同。君佐命興王,逢千載嘉運;身世荷晉德,實眷戀故主。」因更歔欷。


桓玄かんげんが簒奪したときにも、周りが桓玄に対して忖度してる中、ひとり慟哭していた徐広だが)劉裕りゅうゆうの即位にあたっても、やはりこぼれおつ涙を隠そうともせず、悲しんでいた。それを見た謝晦しゃかいが「やばいっすよ徐広様、それ」と話しかけると、徐広は涙を拭いて「儂とそなたを同列に語らないでくれまいか。そなたはここまで大いに宋王を助けてきた、ならば大いにその栄誉に浴しよう。儂は違う、晋帝の威光のもとに長くあった。そんな儂がもとの主を恋い慕わぬわけがあるまい?」と返し、さらに号泣した、というお話。


こいつが、すっげーカッコよかった。その後世説新語に触れると、曹丕そうひと陳羣の話がありました。世説新語 方正3。


 魏文帝受禪,陳群有慼容。帝問曰:「朕應天受命,卿何以不樂?」群曰:「臣與華歆,服膺先朝,今雖欣聖化,猶義形於色。」


まーこれは、本編で語ったとおりです。陳羣かっけー。ちなみに息子の陳泰ちんたいも、割と魏晋革命前夜に似た振る舞いしてます。儒者って結構ロックンロールな感じなのよねー。


このふたつを合わせて語りたい、と思ったんですが、ここでネック。今のまんまだと、謝晦がただのピエロ。彼は彼でおいしいエピソードを抱えている人なので、そこも紹介しようと思ったんですが……物語にしたら、間違いなく四千字をオーバーしてきます。あとは物語のピント、というより徐広の直剛さがぼやけちゃう。だから諦めました。なのでここでは、そいつを供養しようって思うよ!


謝晦は本文中に「名士」「貴人」と書いているように、めっちゃセレブです。と言うのも、宋の前の国である晋は、彼の先祖、謝安しゃあんのおかげで滅亡の危機から救われました。それも、二回も。


一つは晋出身の姦雄、桓温かんおんから。一つは北来の異民族の王、苻堅ふけんから。経緯は省きますが、そんな超ド級の救国の英雄です。晋は、謝安のみならず、その一族をまるまる大切に扱いました。つまり晋の末期においても、謝晦やその親戚たちは、ものすごく重んじられてたんです。


中でも、はとこの謝混しゃこん。謝安直系の血を引き、本人もずば抜けた文才の持ち主。彼の声望は突き抜けていました。しかし悲しいかな、彼は劉裕に逆らい、劉裕のライバルである「劉毅りゅうき」についた。そのため謝混、劉裕に殺されてしまいました。


さあ、謝晦ですよ。


かれは劉裕即位の際、その式典の華やかさを眺めながら、劉裕に言っています。「ここに謝混がいないのが寂しい」と。


謝晦の一族は、うまく劉裕に取り入り、宋の時代にもたくさんの名士を輩出しています。しかしながら、一方では親族を殺されたことを恨みに思ってもいた。しかも、それを劉裕に直接ぶつけてきた。


劉裕は、謝晦の言葉に「お前の言うとおりだ、俺も寂しい」と返しています。しかし一方で、遺言では「反乱を企てるとしたら謝晦辺りが怪しい」とも言っている。そして劉裕の死後、謝晦は本当に反乱を起こし、敗死しました。


かんという偉大な国の滅亡を経て、漢人たちは次の世の覇権をどう確立すべきか、を唐太宗とうたいそう李世民りせいみんの登場まで試行錯誤し続けた印象があります。曹丕が、そして劉裕が直面した旧王朝との軋轢は、新たなる天下への過渡期の混乱を、如実に描き出しているような気がするのです。それらの代弁者が陳羣(陳泰)と徐広であった、そんなふうに感じています。



参考:

世説新語 方正3

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054884957337


宋書

巻四十四 謝晦伝

https://zh.wikisource.org/wiki/%E5%AE%8B%E6%9B%B8/%E5%8D%B744


巻五十五 徐廣伝

https://zh.wikisource.org/wiki/%E5%AE%8B%E6%9B%B8/%E5%8D%B755#%E5%BE%90%E5%BB%A3



○頂戴したコメント


2019年3月29日 wazzwallasis様

ゆっくりとひたれる雰囲気でした!セリフの切れ味が上質!


2019年3月28日 梧桐 彰様

寂寥


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